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僕のお母さんは△▽女優  作者: kyonkyon
第8章 うちのメイド長はヘビースモーカー
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うちのメイド長はヘビースモーカー 11話

※小説毎日投稿100日チャレンジ 1日目

チュンチュン…


小鳥のさえずりで私は目覚ましがなる前に覚醒する。

今日はいつもより早い目覚めだ。

私は5時辺りに起きるのだが、今は4時とのことだった。


何をしようか。二度寝するには、むしろ睡眠が足りないような気もする。


さて、どうしたものか。


いつもより早い目覚めで私は今後のことを散歩しながら考えてみた。

朝の都会は不気味なまでに静かだった。

まるで、都会なのにもう1つ平行世界があってそこに人がいないかのような……そんな不気味さがある。


朝のタバコはうまい。

朝から路上喫煙をしても、誰も注意しないし、すっぴんで歩けると言う気軽さも感じた。


自分の心に気分はどうかと問いかける。

どうやら、私は適度に孤独がないと死んでしまうそうで、少しさやかと一緒にいて疲れてるみたいだ。


ある意味孤独が私を成しているのかもしれない。

でも、一人でいることに苦痛さえ感じている。


私の心は最近そういった矛盾を反復横跳びしている。


すると、私の目の前におじいさんと犬がいた。


犬は、柴犬の女の子ではっはと私に純粋な目で近寄ってきた。


「すまないね、ハナは人が好きなんだ。」


おじいさんが私に会釈をする。

なんて紳士的なのだろう。

そして、10数年ぶりに外で人にすっぴんを見せてしまったことによる恥じらいを感じてしまう。


「いえ、大丈夫です。とても人懐っこい子ですね。」


表情を見る。

目が大きくて、それでいて体型を維持していて…幸せそうで美人なワンちゃんだ。


「すこし、撫でてもいいですか?」

「構わんよ。」


私は、タバコの火を消して犬を撫でる。

すると、嬉しそうに舌を出して微笑んでいるようだった。


「幸せそうな子ですね。」


ふと、そう感じてしまった。

犬なんて吠えるだけの生き物かと思ったがこの子はきっと愛されたのだろう。

立ち姿も上品で人馴れしている。


しかし、私は褒めているのにおじいさんは悲しそうな顔をしていた。


「ハナはな…もうすぐ死ぬんだ。」

「え?」


突然、おじいさんがそんな事を言い出した。

でも、それを悲しんだ末なのか、見守るように笑っていた。


「この子…右下の頬が少し腫れているだろう?皮膚ガンだ。余命は1ヶ月ないらしい。」

「そう…なんです…ね。」


この犬は…笑っている。

幸せそうに笑っている。

でも、もうすぐ死ぬらしい。


嘘みたいな話である。


「この子は…幸せだったのだろうか。私は無力だよ、本当はハナの医療費を払ってあげたいのだが、少ない年金とやり取りをするだけで守ってあげることさえできてない。歳をとったのに…恥ずかしい話だ。」


おじいさんは、自分の無力さを嘆いていた。

きっと…この子との時間はかけがえのないものだったのだろう。


「幸せだったと思いますよ。この子は今でも笑っています。本当は口がものすごく痛いし、食欲が湧かないし…辛いはずなんですよ。でも……この時間を楽しんでいます。」


おじいさんは、少し目を丸くして驚いた様子を見せたが…少し嬉しそうに、そしてどこか複雑そうに笑顔を見せていた。


「そうかい、ハナは元々捨て犬でね〜殺される予定だったんだけど、どこか見捨てられなくて…こうしてもう10年も一緒に暮らしてしまった。」


おじいさんは、懐かしそうに昔話をする。

きっと、おじいさんにとっても宝のような時間だったのだろう。


「羨ましいです。私なんてこの子のように幸せな家族はいません。両親は死亡して天涯孤独です。」


幸せだけど、時間の無いハナちゃん。

幸せじゃないくせに、時間だけはたっぷりある私。


朝のこの出会いは…まさに対極の出会いだった。

この子は最後まで悔いを感じることはないのだろう。


「そうか、でも君もまだ犬でいうと2歳だ。これからたくさんの出会いがあって、沢山のことを知る歳だ。最初のハナだって笑いもしない子だった。」


そうか、そうなのか…。

急にこの子が……未来の私のようにも思えてきた。

この子一人の力じゃなくて、このおじいさんに出会えたからこの子は笑っている人生……いや、犬生だったのだろう。


種族は違えど……これもひとつの美しい家族愛そのものだった。

ふと、それを感じると涙が出てきた。


「君も…まだ迷ってるんだね。もっと人に頼ってみな。やりたいことをやってみるといい。時間の少ない私たちだからこそ贈れる、唯一の言葉だ。」


足元でハナちゃんもくぅーんと、私に甘えてきている。

私もこんなに素直になれる日が来るのだろうか、いや…きっと来るだろう。



そんなこんなで私たちは40分も一緒にいてしまった。

そろそろ、仕事の時間である。


「すみません、長く留めてしまって。」

「いや、これもハナにとって素敵な出会いだった。ありがとうね。」


おじいさんは、礼儀正しくお辞儀をすると……少し歩くのが遅くなったハナちゃんに歩幅を合わせてゆっくりと歩いている。


早起きは三文の徳というが、私の人生に小さな幸せを与えてくれた。


私も…残された時間は永遠じゃない。

もし今死んだら悔いだけが残るだろう。

私は…少しでも悔いなく、笑っていられる人生になりたい。


最後までこのおじいさんに添い遂げた……ハナちゃんのように。

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