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僕のお母さんは△▽女優  作者: kyonkyon
第1章 僕のお母さんはAV女優
10/254

僕のお母さんはAV女優 10話

「はあ……。」


私の最愛の息子、直輝が出ていってしまった。

理由は簡単である。私がAV女優の過去があったこと、青柳さんとの一件を見られてたこと、それと……今まで私が隠し事をしすぎてしまっていたのが爆発させてしまったのだ。


青柳さんとの事は仕事を守るためでもあった。

私は、事務はメインのお仕事だが営業の成績も過去に良かったので時折営業をするのだが、青柳さんの件に関しては億単位の金が動いている。

今後も直輝との生活を守るために私は青柳さんに自分を売ってしまった。


私の大きな失態であった。

今日は……直輝の好きな唐揚げだったんだけどな……。

1人で自分の作った料理をつまむ、春とはいえ夜の時間は体が冷え込んでいくだろう。

直輝……昔から寒がりだったもんな。


何故私がAV女優をやってたかって言うと……それはもうなりゆきとしか言いようがない。

私は17で直輝を産んだものの、私には直輝を守る手段がなかった。

だからこそ高校を中退して沖縄から東京に流れ着いて、様々な事にぶつかって辿り着いたのがAVだったのだ。


それにあたり、私は家族の秘密などを一切隠してきた。何故かって?それはまだ時間をかけて言いたいと思っている。


でも直輝は捻くれているけど誠実で、人一倍感受性の強い優しい子なのだ。

私に出来るのは、そんな息子に対して無償の愛を届けることである。

そう、帰ってくる時を今は静かに待つのが私としてのやるべき事なのだ。


しかし、気持ちでは落ち着いてるが私の心情は私の挙動と反比例するほど落ち着きはしてはくれなかった。


「直輝〜。」


☆☆


「次はー町田ー、町田ー。」


俺は少し空いた電車で、神奈川県の方向へと進んでいた。

いや、このままだと静岡県に行ってもおかしくないかもしれない。


しかし、電車賃は流石に静岡県まで連れてってくれるほどの余裕がなかった。

Suicaの金額を見るとあと数駅で降りなければならなかった。

もちろん……なんか戻るに戻れなかった。

LINEをみると、母ちゃんからの連絡は特になかった。

流石は母ちゃん、よく分かっているの一言に尽きる。


俺は基本連絡が嫌いなので長文が送られようなら多分1週間は母ちゃんを見たくすら無くなるのも想定内なのだろう。


「次はー、相模大野ー相模大野ー。」


その代わり……飯田からのLINEは来ていたのは気がついたのだが、今は見たくすらなかった。

きっと心配しての連絡なのだろう。

俺はいい友人に恵まれた、きっと彼に泣きつけば冷静になるまで泊めてくれてこの問題は順風満帆で解決まっしぐらだろう。


しかし、この問題に関してはスピード感よりかは時間をかけて解決が自身の精神と母ちゃんにも最適だと判断をした。


「次はー、海老名ー海老名ー。」


俺は気がつけば本当に見知らぬ土地にきていた。

名前に海老と書いてあるのにこの土地は田んぼに囲まれた田園地域であったので地名の違和感に突っ込んでしまいそうだった。


電車というのは不思議とそういう不安を忘れさせてくれるのを感じた。

なんだっけ……確かエフブンノイチゆらぎだったような気がする。

電車とか水とか炎とか一定の規則で音や波長をつくりだし、時折不規則に揺らぐのが人や動物にとって心地の良いリズムで落ち着くとか……そんなようなやつだ。


電車の作るそれは一時自分の気持ちを落ち着かせてくれた。

「次はー、本厚木ー本厚木ー。」


俺はふと、電車をおりる。

電車賃も限界である。

暫くしたら飯田に金を借りよう。それで俺は家に帰ってくるんだ。そうすれば嫌でも俺は家に帰る。


ここは本厚木という町らしい。

駅の近くにはすぐに小さな繁華街の通りがあった。

しばらく俺は散歩をする。すると、居酒屋の多いとおりにはキャッチをしてあった。


「どーすっかー!おにいさん!お飲みの方は!」


最初警戒をするがよく見ると彼らは人間に対して言ってるのではなくまるで空気に話しかけてるようだと思うほど振る舞いとしては適当であった。


キャッチしてる人は凄いな。僕にはこんなこと一生出来ないかもしれない。次はあのコンビニの所を曲がってみよう。これ以上はお店も大して無さそうだし、この街はヤンキーの飲み場なのか治安の悪い大学生風の男が地面に腰をかけていた。


コンビニを曲がった。

すると、この道はキャバクラの通りであった。

キャバクラと言っても古ぼけてコンクリートが顕になっているビルが多かったのでスナックに見えなくもないが、確かにキャバクラだった。

前にはキャッチなのか黒服なのか分からないけど、とにかく怪しい人物が多かったが、パッと見で学生とわかるため俺は彼らに声をかけられることは無かった。


そういえば、もう時刻は22時を回ろうとしていた。

この街は警察が巡回をしている。見つかったら補導ものだろう……俺は急いで駅前に戻り、目の前にはネットカフェがあった。


結構安い……Suicaの電車賃は無くなったが、手持ちのお金で一泊は出来そうだった。


俺はここに泊まる決心をすると、エレベーターを登り4階で降りる。すぐにカウンターがあり、金髪の優しそうなお姉さんが迎えてくれた。


「部屋のご利用ですか?」

「そうですね。」

「それではこちらのカードキーをお使いください。番号は206号室です。精算は後になります。」

「わかりました。」


俺の手持ちは2000円ほどである。

ここには5時間ほど居られる、それを過ぎるとお金がオーバーするので慎重に時間を潰すことにしよう。


俺は少しでも母ちゃんのことを知ろうと母ちゃんに関する記述のあるウィキを調べていた。


橘遥香、18歳でデビューをしている。

俺を産んでちょうど一年後くらいにデビューしたことになる。

出身は沖縄で活動場所は東京となっていた。

確かに俺には一切沖縄の記憶が無いのできっと帰ってもいないのだろう。


出演本数は1800作品ほど、月に25本の制作をしているとの事だった。25日を出勤に当ててたって事か……そりゃあ幼少の思い出が少ないと感じるわけである。

どうして、母親はこんなになってまで働いたのだろう。借金があった……とか?

まあ今の俺には知る術もないな。


その後はめんどくさくなってきたので流行りの漫画をひたすらに読んでいたら、俺の意識は夢に入ろうとしていた。


☆☆


姿勢の悪さに体が少し悲鳴をあげていた。

質の悪い睡眠は、どうにもダメージがあると聞くがネカフェ宿泊は内蔵を痛めるかのような痛みがあった。


「やべ……すこし寝ちまった。」


今は何時だ?スマホを急いで探す……俺は暗い部屋を手探りでいると鬼を切る漫画の山を崩れさせていた。

ほかにも時間を超越できる東京のヤンキーの漫画の山も虚しく崩れる。


俺は急いでカウンターに駆け寄った。

カウンターには、先程の女性が眠そうにあくびをしていた。

「チェックアウトでお願いします。」

「はい!それでは料金の確認をしますね!」


お姉さんはカタカタとパソコンをいじる。

どうにか2000円を越えないでほしいのだが……どうにかなるのだろうか。


「料金は……2300円ですね!」


俺は自分の不甲斐なさにもう何も言えなかった。

母親を頼る……というのも今は厳しいし、飯田に事前に金を借りるべきだったと深く後悔していた。


「……お客様?」


俺は固まっていた、どうすれば良いのかと普段使わない頭で知恵を振り絞ったが無知な俺は残念ながらいいアイデアを生み出すことができなかった。


「すみません、もう少しここにいます。」

「そうですか……、承知しましたよ!」


お姉さんはいつでも笑顔だった。

しかし、その笑顔を目の当たりにすると余計ちゃんと案を考えなきゃと考えてしまう。


すると、後ろから人影があった。


「あ〜くっそ疲れた……ひとみちゃん!チェックアウトで!」


男はスーツを来ていて、ヘアもセットしている。

先程のキャッチの男たちと服装が似ていたので恐らくバーテンかキャバクラのボーイ当たりが妥当である。


「ん?ひとみちゃん、この子どうしたの。」

「あ、〇〇くん……、なんかチェックアウトをキャンセルしたいって言い出してて、順番は○○くんが先で大丈夫みたいよ!」

「へぇ〜。」


男がじっと俺の方を見つめて近づいてきた。

ゆっくりと……観察をするかのように。


「兄ちゃん、いくつだ?」

「19です。」

「にしては、顔つきが幼すぎるぜ。2000円の格安ネカフェなのになんで財布を開いたまま固まってるんだ?」

「そ……それは……。」


なんて鋭い男なのだろう。下手に話すと警察に突き出されるかもしれない。先程の母親と言い合った時よりも心地が悪いのを感じた。


「ひとみちゃん、こいつの料金……俺が払ってもいい?」

「え、どうして……。」

「いいから!ちょっとこいつと飲み直しに行きてえんだ!いいな、お前も!」

「え……あ、はい。」


何故だろう、男は俺の料金を支払ってくれた。

そして、男も支払いを終えると……2人でビルを降りてから、男に連れられて近くの公園で腰掛けていた。


「ほれ。」

「あ、どうも……。」


男が缶コーヒーを奢ってくれた。金色の微糖のコーヒーがとてもよい香りをだしている。

俺もそれに口を運ぶと心がほっとするかのような味をしていた。


「お前……名前は?」

「天野直輝です。」

「ははっ、ご丁寧にフルネームかよ。」

「そういうお兄さんは……。」

「んー、どうしよっかな……じゃあジョン・スミスで。」

「いやバカにしてるんですか。」


青年は……年齢は24の男で仕事はフリーターをしているとの事だった。

それにしても掴みどころのない男である。


「てか、ジョン・スミスって……2000年代にはやったあの憂鬱のアニメですよね。」

「お!知ってんの?若いのによく知ってるな〜。」


まあ、あのアニメ有名だったしね。俺も昔1人で見ていたのを思い出していた。


「まあいいや、俺らは一夜限りの付き合いだ。なんかあったんだろ?気軽に言ってみろよ。」

「ちょっとそのいい回しは気持ち悪いような気がします。」


どうしよう、この人も飯田みたいにホモだったらと恐れ戦いていたがどうやら冗談のようだった。


「……僕のお母さんはAV女優でした。」

「マジ?なにそれめっちゃレアじゃん。」


まあ、そういう反応になるよな。この男もなんかお世話になってそうな雰囲気がする。


「誰か……とか深くは聞かないよ。そんで?それで家出してきたのか?」

「いや、そのあと母ちゃん……知らない男とホテルから出てキスされてたんだ、すげー嫌がってたよ。そのあとその事も聞いたり、家庭のこと色んなこと聞いたけど何一つ教えてはくれなかった。」

「旦那はいるの?」

「独身だよ、俺が物心着いた頃かずっとシングルマザーやってるんだよね。」


男は少し驚いたような表情をすると、コーヒーを勢いよく飲んだ。


「おまえの母ちゃん……すごいな。きっとお前を守るために今も必死なんだろうよ。俺も今キャバクラで働いてて色んなものを捨てた女の子を見てるからよーく分かるぜ。俺なんて6年も俺の母ちゃんに何もしてやれなかったな……大人になってんのに情けねえ。俺はこの6年間ずっとしくじってばかりだった。」


男は缶コーヒーをベンチに音を立てて置くと、話を続けた。きっと彼も何かあったのだろう。


「なあ、直輝よ。お前は居心地は悪いだろうが……ちゃんと帰ってやれ。家族っていうのはすぐに分かり合うのは難しいことは沢山ある。でもな、小さな事でも必ず積み重なるもんだよ、きちんと帰って安心させて……ちょっとずつでも向き合ってやってくれ。」


男は肩を2回ほど優しくたたいた。

きっと俺に向き合ってくれているんだ、見ず知らずの俺になんでこの人は必死なのだろう。


「お前は、自分の物語を歩いていくんだ。そのための試練が……いまなんじゃないか?」


確かにこの男の言う通りである。

運命は流されるものじゃない……自分の手で漕いでいくものなのだ。……今すぐ、帰ろう。


「わかった、俺帰るよ。」

「おうよ、お前なら素敵なストーリーがつくれるはずだよ。そうだな……お前の物語の名前は「僕のお母さんは△▽女優」だな。」

「お兄さん、ふざけてる?」

「ふざけてるんじゃない、AVは△▽(トライアングル・フラッグ)と表現をしている。」

「なにそれ、ちょっと形を見づらくしてるだけじゃん。」

「はあ〜これだから教養のないやつは…… △トライアングルはエネルギーが集中し、増幅する活力を示唆する、お前の母ちゃんの象徴だよ。

▽フラッグは自己主張、自己探求、潜在能力を高めるという意味があってな……これはこれからのお前のテーマだよ。」


なんて馬鹿げた表現なのだろう。

しかし、ふざけている中で彼はやはり勤勉なところが垣間見える。彼もきっと読書をしたりするのが好きなのだろう。憂鬱の小説読んでたくらいだし。


「でもな、これには隠れたテーマがあるんだよ。このふたつの文字を合わせると……六芒星のヘキサグラムが出来ちまう。これは安定と進歩って意味が込められてるんだよ。つまり、これがお前らのテーマになるわけだ。」


俺は思いっきり笑った、飯田も面白いやつだがこの男も底なしに面白い男なのだから……。

でも、確かに今までの俺の物語は安定だけだった。

前に進もう、きっと難しいことはあるだろうけど……きっと乗り越えられる。


「お兄さん、俺……帰るよ。でも、最後にお願いがあるんだけどいいかな?」

「おう、言ってみろ。」

「帰りの電車賃貸して。」


男はガクッとずっこける。少しズレた回答だと言うのは自分にもわかっていた。


「おいおい……返さなくてもいいけどもうちょっとかっこいい別れ方しようぜ。」

「いや、いつかきっとこの恩を返すために、この物語の結末を伝えるために俺は借りるんだよ。そのために……お兄さんのちゃんとした名前を教えてよ。そんな世界をおおらかにするようなジョン・スミスなんてふざけた名前にしなくていいから。」


男はため息をして、肩の力を抜き少し目を閉じた。


「しょうがねえな……西出、西出恭介にしできょうすけが俺の本名だ。いつになるか分からんけど……またお前の事を教えてくれ、あとちゃんと金返せよな。」

「もちろん……ありがとう西出さん。」

「おうよ!健闘を祈る。」


俺たちはパシッとハイタッチをすると、朝日が爽やかに公園を照らして言った。

ビルの隙間からでもその綺麗さが伝わってくる。


お互いが反対の方向に進んで、別れを告げた。

さて、帰って決着をつけようか。


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