僕のお母さんはAV女優 1話
「ーーーーおきー!」
どこからか……ぼんやりと声が聞こえる。
微かに意識が戻り、見知った天井、そして見知った声が聞こえる。
「直輝ー!起きなさい!そろそろ学校でしょー?」
季節は4月の上旬。
暦の上では春であり、暖かい陽光と野鳥が心地よくさえずっていた。
しかし、この俺こと天野直輝は昨晩も某モンスターをハントするゲームをネットの友達と一緒に3時まで打ち込んでいたので睡眠としては3時間しか寝てなかったので、この穏やかな陽光が鬱陶しくさえ感じていた。
「直輝ー、起きなさい!起きないとほっぺにチューするわよ。」
「本当に気持ち悪いからやめてくれ……。」
背筋がゾッとして目が覚める。
さっきから俺の名前を呼ぶこの女性は天野遥香、俺の実の母親である。
なんというか……俺の母親は変わっている。
年齢は今年32歳になるのだが、俺が16になるので年齢差は16と異様に若い。
そのせいもあってか、母ちゃんは学歴は中卒であり今はパートをしていた。
「なによー!反抗期なの?」
「うるせえよ、ババア。」
「あー!お母さんのことババアっていった!」
言葉ではババアと罵るが母ちゃんは若く顔も美形であり、スタイルも異様に良いのだ。
その他にも不可解な点が幾つかある、我が家には物心着く頃から父親という概念がないのだ。
それなのに俺にはきちんと家もあり、車もある。
中卒のパートで片親なのに、俺の人生は何不自由ない生活を送っていた。
「聞こえてるの?直輝!」
「ごめんごめん……なんだっけ。」
「とりあえず朝ごはん食べよっか!何事も朝の習慣が大事よ!」
俺は少しうんざりとしながら、少し散らかった部屋を後にした。
ゆっくりと木の階段をおりていく。
リビングには母親の作ったフレンチトーストとソーセージとサラダがあった。
隅にはハンドドリップのコーヒーもある。
「また凝った朝飯だな……。」
「でしょー!この前ソーセージの作り方の本があったからスタッファーまで買って作ってみたの!」
母親の作ったソーセージはひき肉からカレーに似たスパイスを感じる。脂と粗挽きの肉のバランスも絶妙で桜のスモークもかけてある。
なんでこんなにこだわれるのか……俺には理解が出来なかった。
「これで直輝も元気いっぱいね!さ、学校にいってらっしゃい!そろそろ飯田くんも来る頃じゃない?」
「はいはい。」
そろそろ学校の始まる時間だ。
いつも学校に一緒に行く飯田が来る時間なので俺は身支度を整えることにした。
飯田はいつも俺が支度する時に来る。
俺が歯を磨く時に……決まってくるのだ。
そろそろ来るかと思ったが、俺の予想は見事に的中した。
ピンポーン
インターホンが鳴り響く。
すると、陽気でどこか抜けた声が聞こえてきた。
「直輝ー!起きてるかー!」
そう、この男こそ俺の悪友の飯田蓮である。水泳部に行っているので少し筋肉質な体型をしている。髪型はセンターパートの健康的なイケメンだった。
こいつとはいつもなんだかんだ一緒にいるのである。
俺には勿体ないくらいのスペックの男なのだが、致命的な弱点がある。
「あらー、飯田くん!よく来たわね〜。」
「遥香さん〜!今日も美しいっすね〜。」
「もういやだわ〜!お上手ね!」
こいつは自他ともに認めるすけべである。
俺に会いに来るのもあるが母親を見るために来るのだ。
友人ながら忌々しい……。
頭の中はピンクで染っていて、AVを見ない日が無いと誇る程なのだ。普段から下ネタや隠語を話したりするし、ホモビデオの特徴的なセリフを普段の会話で使う変人である。
「やめろバカ、気持ち悪いぞ。」
「んだよぉ〜!もー、つれねぇな!」
「普通人のかーちゃんナンパするやつがいるかよ。」
「ナンパだなんて!俺には遥香さんは尊過ぎるんだよ!」
「うるせえ、学校行くぞー!」
俺と飯田は玄関の前で立ち止まり、ドアを開けようとした。後ろを振り向くと、少し寂しそうな母親がしんみりとしたが、直ぐに眩い笑顔に切り替わった。
「行ってらっしゃい。」
「おう。」
俺はいつも通り母親に素っ気なく家を出た。
☆☆
「にしてもよー、あれだよな。」
「なんだよ。」
飯田が楽しそうに話す。
こいつ黙ってればモテるのに喋り方がもうアホっぽかったりと色々と残念だと日頃から思う。
どうせ、これから話す内容もくだらないだろう。
「お前の母さんってさ、マジで美人だよな。
スタイルも良いし……ありゃあGカップあるんじゃねえか?」
「やめろ気持ち悪い。母親ってまじでそういう目で見れないだろ。」
俺は母親の異性としての魅力を本能的に拒否をする。
きっと遺伝子がそういうように出来てあるのだろう。
たしかに綺麗だと思うが、勘弁して欲しい。
「話を戻すよ、お前の母さん……どっかで見た事あると思うんだけど……芸能人とかかな?」
「お前、芸能人とか見るタイプだっけ?」
「いや、ほとんど見ないな。」
「聞いた俺が馬鹿だったよ……どっかのAV女優と勘違いしてるんじゃねえか?んなわけねえと思うけどよ。」
すると、不意に飯田は少し考えると静かに首を傾げた。
「なんだよ。」
「いや、まさかな……俺の思い過ごしだ。」
「んだよもう……そんなことより、そろそろ学校だぞ?」
俺たちは桜の並木のある坂道を登ると、少し古ぼけたコンクリートの学校があった。
少し早めの五月病に近いような倦怠感の中、俺たちは学校のもんに入っていった。