第二章 昔なつかしアイスクリン その一
―――じゃあねぇ、幽霊がみえるかられいちゃん!
嬉しそうに目を細め、くすみひとつない白い歯をのぞかせながら、燦燦と輝く太陽にも負けないその笑顔で、目の前に立つ少女りんこはそう言った。
ほんの少し前かがみになって、こちらの目を見つめる。
身長差のせいで自然と上目遣いになり、まるで繊細な細工が施された工芸品かなにかのように整った顔立ちも相まって、とても魅力的だと思った。
身体の動きにともない、見るからに手入れの行き届いていそうな艶やかな黒髪が、さらさらと軽やかに舞う。上質な絹糸のようにしなやかなその髪は、強い日差しを浴びてきらきらと輝いていた。
人影もまばらな校舎の屋上。
背後には真っ青な大空と巨大な入道雲。
もし、そのささくれひとつない細く長い指でペットボトルでも握っていたら、そのまま清涼飲料水の宣伝にでも使えそうな完璧な構図だった。
「どうかな? れいちゃん」
小首を傾げて、「ん?」と愛らしく返答を促すりんこ。
どうかなもなにも、すでにれいちゃんと呼んでしまっている。
正直なところ、その命名の由来には納得できないというか、はっきり言ってどうかと思う。あんまりだ。
でも、目の前のこの見目麗しい少女は、そこには何の疑問もいだかず、あまつさえ、素晴らしいひらめきだ、とか、最高のネーミングだ、とか、これはきっとめちゃくちゃ喜んでくれるぞ! とか考えていそうな気がする。と言うか、完全に顔に出ている。
わずかにつり目ぎみでくりくりとした大きな目や、ちょんといたずらっぽく尖らせた小さな唇など、なんとなく猫っぽい顔立ちのくせに、考えていることが全身から駄々洩れなあたりはきわめて犬っぽかった。
今も「ほめて、ほめて」と、存在しないしっぽをぶんぶんと盛大に振っている。
幽霊がみえるから、れいちゃん。
その肝心な要となる幽霊がみえるという部分について、けっして誇らしく思っていないどころか、日々疎ましく思ってすらいるれいにとっては、もはやいじめですらある。
でも、それでも、そうだとしても。
れいは、うれしかった。
たぶん、物心ついて以来、はじめてできた友だち。
その友だちがつけてくれた、生まれて初めてのあだ名。
陰口や蔑称ではない、愛称、ニックネーム。
親しみのこもったその響きの前では、由来や意味などはどうでもよかった。
「えー、ひどくない? ……いいけど!」
後に、この時のれいの真似をして、りんこの口癖ともなるこの言い回し。
れいは、長い前髪の奥でうっすらと涙を浮かべながら、照れくささを隠すように、精一杯、憮然としながら快諾した。
りんことれい、二人が出会ってまだ間もない、中学二年の初夏のできごとである。
小説 『りんにあったちょっと怖い話☆おかわり』
第二章 昔なつかしアイスクリン
これは、今につづくふたつの出会いの物語……
つづく