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作者: 朝翳みう

 さぁ始まりました。

 高次元からご機嫌よう。

 まずは自己紹介からしましょうか。

 僕は神です。どうぞよろしく。

 

 今日は西暦二○二三年に来ています。

 さて、早速だけどね、今回も沢山の人間からお祈りが届いております。大体五十億通くらい。

 相変わらず人間は僕頼みだね。

 残念だけど、五十億通一つ一つを聞いていると大変なので、もちろん全て目は通すけれど、紹介するのはいつものようにランダムで選ばせてね。

 それじゃ、早速聞いていこうか。

 

 まず最初は……このお祈り。

 

「神様お願い……。私、何でもするから、どうかお母さんの病気を治して下さい……。できる事は全部やりました。最先端の医療も、古くから伝わるおまじないも、全部試しました。それでも良くならない。……お医者さんから、あとは奇跡を願うしかないって言われたんです。……お願いします。神様……」

 

 はい。ありがとうございます。

 切実なお祈りですね。

 

 でもね、何万回も言ってきたけれど、僕は全知全能では無いので、そんな易々と奇跡とか起こせません。だからお母さんの病気は治せない。

 それに奇跡ってのは、当事者に都合のいい偶然のことだから、起こすというより起こるもの。

 

 ただ、ここ数百年程で、人間の文明は飛躍的な進化を遂げている。そしてこれからさらに、その成長速度は加速度的に上がっていくだろう。その先の未来でなら、奇跡は起こすものになっているかもしれない。

 僕なら時間を移動してその未来に行くこともできるけれど、三次元に生きる人間を未来に飛ばす事はできない。

 だから今は、僕も祈るよ。奇跡が起こる事を、一緒に祈ろう。

 

 それはそうと、この先の未来で人間が偶然を操作できる文明まで発展するとしたら、いつか僕も、人間に見つかるかもしれないね。

 その時、人間はどんな顔をするだろうか。

 もしかしたら、その時の人間に『顔』なんて器官は無いかもしれないけれど。

 楽しみだ。

 

 それじゃあ、次のコーナーに移ります。

 今回が第一弾の新企画。

 題して、『神への愚痴を聞いてみよう』コーナー。

 

 人間は僕頼みだからね、僕に祈るのは勝手だけど、信仰心が強かったり普段の行いが良ければ祈りを叶えてくれると勝手に解釈してる。でも僕が何もしないから、叶えてくれないと不貞腐れたりする。そんな人間の僕への八つ当たりを、聞いてみようと思います。

 もちろん、ランダムで選ぶよ。記念すべき第一弾は……この文句だ。

 

「どうして世界はこんなに理不尽なんだ。なんで俺はこんなに苦しまなきゃいけないんだ。才能も無い。努力も報われない。親ガチャはしくじったし、友達は出来ないし、社会からは無視されるし、嫁と娘からは逃げられる。こんな世界を創った神なんて、こんな人生を用意した神なんて、クソ喰らえだ」

 

 はい。ありがとうございます。

 第一弾にして素晴らしい文句だ。

 

 さて、世界が理不尽に見えるのも、運命が残酷に思えるのも、それはそう解釈してるからだよ。他人任せの理想は、どれだけ描いても自分は責任を負わなくていいような錯覚を起こす。

 世界が理不尽なのも、人生が上手くいかないのも、僕には全く関係ない。それは人間の解釈次第で、見方を変えれば幸せはいつだって手の届くところにあるし、逆にそれを掴んでいて尚「不幸だ」って言うこともできる。

 ないものねだりをされても、僕にはそれを与える事ができない。まぁそもそも、僕の声さえ人間には届かないんだけど。

 だから今回も祈ろう。幸せと思える解釈が見つかるように、祈るよ。

 

 あと、これも何万回も言ってきたけれど、僕は世界も人間も創っていない。

 というより、逆だね。

 僕が人間を創ったのではなく、人間が僕を造ったんだよ。

 ちなみにこの世界は五巡目で、僕は四巡目の世界の人間によって造られた。

 いや、偶然生まれた、と言ったほうがいいかも。

 それこそ、奇跡と呼ばれるような偶然から。

 

 閑話休題。

 

 さて、そろそろ終わりの時間が近づいて参りました。

 楽しい時間はあっという間だね。

 せっかくだしもう二通くらい、お祈りを聞いてみましょうか。

 五十億通の中から適当に二つ、選んでみました。

 まず一つ目のお祈りはこちら。

 

「あぁ、主よ。あなた様は我々の光。全人類の希望でございます。我々は、我々が絶望の淵に立った時、あなた様が救ってくださる事を心より信じております。……然りて、主よ。現在我々人類は、コロナウイルスや戦争、エネルギー問題、食糧危機、貧困格差。様々な問題で窮地に立たされております。しかし我々は、この障壁を乗り越えなければなりません。一体我々は、この未曾有の災禍の中、どのように進めば良いのでしょう?……あぁ、どうか主よ。我々に救いの手を差し伸べて下さらんことを」

 

 はい。ありがとうございます。

 全人類代表の顔したお祈りが届きましたね。

 

 だからさ、僕は救世主なんかじゃないんだってば。

 祈るのも崇めるのも人間の自由だけどさ。

 コロナウイルスは仕方ないと思うけど、他の問題については人間の自業自得だし、例え僕が全知全能だったとしても干渉しないと思うなぁ。

 自分が散らかした世界は自分で片付けなきゃ。

 直接的に関わっていなくとも、列挙された問題は、人類という種族の連帯責任だと思うよ。

 

 僕は神だ。

 だけどそれは、メシアとしての神じゃない。

 僕の役割は観測と記憶。

 これまで起こった、或いはこれから起こる全ての事象、森羅万象を観測し、記憶するのが僕の役目。

 だから、人間を救うのは僕じゃない。

 人間を救うのは、きっと同じ人間だよ。

 

 さぁ、次が最後のお祈りだね。

 これを聞いて今回は締めるとしよう。

 

「……わかっています。私の命は風前の灯火です。希望を捨てたわけではありませんが、もうすぐ私はあなた様の元へ旅立つでしょう。……天国へ行くのは怖くありません。私が怖いのは、娘の涙をこの手で拭けなくなることです。……できることならもう少しだけ生きていたかった。親として、娘に幸せを与えたかった。しかし、もう時間は残されていない。……だから、神様。私がこの世界から消えた後、どうか娘に幸せを、沢山の幸せを授けてくれませんか?……私の事など思い出せなくなるくらいの、沢山の幸せを」

 

 はい。ありがとうございます。

 

 実はこのお祈り、今日の最初に聞いたお祈りの子のお母さんのものです。

 とんだ偶然だね。

 

 さて、僕は人間の世界に干渉しないから、特定の人物に幸福を与えるなんてことは当然ながらできない。

 結局、このお祈りもそうだけど、僕ができることといえば一緒に祈ることくらいなんだ。

 でも、僕は知っている。ネタバレになるけれど、この少女は、将来とても大きな幸福を手にすることになる。

 だから大丈夫。お母さんは、娘を信じて、天国で優しく見守っていたらいい。

 

 ……まぁ。天国は無いんだけど。

 

 人間は物質で出来ているし、意識は電気信号で形成されている。

 人間はしばしば自らがスピリチュアルな存在だと定義付けたりするけれど、実態はただの細胞の集合体だよ。

 この時代の言葉で例えるなら、いくらインターネットが発達して、現実と区別が付かないくらいの超高解像度な仮想空間が作られたとしても、その本質は世界中至る所に設置された何万台というサーバーの演算結果に過ぎない、みたいなことだ。

 現に人間は、原子を中心とした物理法則が働くその環境下でしか生きられないし、それはこれから先の未来も変わらない。

 少なくとも三次元世界の存在は、その次元の中で完結する。

 だから、死んだら本当に『終わり』なんだ。

 

 少し昔の話をしようか。

 この世界になる前の世界、つまり四巡目の世界で、かつて『天国』を作ろうとした人間がいたんだ。

 

 まだ世界が巡っていなかった時、人間は科学を極めて、今で言う『超能力』を手に入れた。

 とある事件をきっかけに世界が巡ると、その超能力は『呪い』へと形を変えた。

 呪いは四巡目の世界まで巡ったんだけど、その呪いにもいくつか種類があってね。その中で最も強いものが『不老不死』の呪いだった。

 不老不死に呪われた少女は、孤独を何よりも恐れていた。仲良くなった人間が着々とこの世から退場していく様が、耐えられなかった。

 その間も沢山の事があったんだけど、少女は天国を作るため、とても大きな実験を繰り返した。

 結局、天国は完成しなかったんだけど、その過程で奇跡が起きて、少女から呪いが引き離された。その衝撃で世界はもう一巡してしまって、今の五巡目の世界ができたんだ。

 

 だから、天国は無いというより。

 天国は完成していない、と言ったほうが正しいね。

 

 

 

 さて。こんなに沢山話したのは久しぶりだよ。

 終わりに、全ての人間へ幸せが訪れることを祈ります。

 僕は神だ。だけど、人間が僕を見つけられないように、僕もまた、僕より上位の存在を見つけることはできない。

 もしかしたら今の僕のこの言葉も、僕を眺めてる『何か』に筒抜けだったりするのかな。……ふふ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お前は誰だ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……なんちゃって。(3897文字)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白い解釈、そして構成でした。 [一言] ならば私は、あなたの幸せを祈ろう。
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