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「ただいま〜……て、あれ?」


 いつも僕が玄関の扉を開けると、すぐにキホさんが「おかえり」と出迎えてくれるのが、今日はなかった。

 それどころか、いつもは明かりが点いているはずの家の中も真っ暗だ。


「キホさん? いないのか?」


 時刻は八時。今日は仕事終わりに職場の人と話していて少しばかり遅くなってしまったけど、いつもならキホさんも僕もとっくに家に居る時間だ。


(車もあったし、家に居るはずなのに。どこに居るんだ……)


 僕は真っ暗な家の中を、キホさんを探して歩き始めた。

 すると、一つだけ明かりがついている部屋を見付けた。寝室だ。

 明かりを見付けたことにホッとしながら寝室の扉を開けて、中に入る。しかし、部屋に入ってすぐに飛び込んできた光景に、僕の体は凍り付いたように動かなくなった。

 キホさんと知らない男が、普段僕とキホさんが一緒に眠っているベッドの上で、手を繋いで眠っていたからだ。


(えっ、どういうこと!? キホさん、もしかして浮気してたの??)


 パニックになる頭をなんとかして、静かにベッドに近付く。

 パキッパキッ

 何かを踏んだみたいだけど、今はそれどころじゃない。ベッドに眠るキホさんの手に触れる。


「えっ」


 キホさんの手は、死人のように冷たかった。

 その後のことは、よく覚えていない。


「君、大丈夫?」


 気付いたら玄関で座り込んだ状態で、警察の人に話し掛けられていた。


 警察の人曰く、僕が見付けた時には、すでに二人は亡くなっていたそうだ。二人とも睡眠薬を大量に飲んで亡くなった可能性が高いとも聞いた。

 僕がベッドの近くで踏んだものは、睡眠薬の錠剤だったみたいだ。他にも睡眠薬のビンや、二人の遺書が散乱していた。

 

 数日後、家に刑事さんが来てキホさんの遺書を見せてくれた。

 遺書の内容は――前の彼女と似たようなことが書かれていた。

 そして、キホさんたちのことは自殺として捜査はされないとも言われた。

 

 次の日、僕は警察に居た。

 村には小さな駐在所しかなく、バスで近くの町の警察署まで来ていた。

 別室に案内されて待っていると、遺書を見せてくれた刑事さんがやって来た。


「彼女が自殺なんかするはずないし、男も知らない! もっとよく調べてください!」


 あれから何度考えても、やっぱりおかしいんだ。

 自殺した彼女について相談に乗ってくれたキホさんが、彼女と同じように自殺なんかするはずがないし。一緒に死んでいた男だって、村で見たことがない顔だった。


「……近所の住民が、あの男がよく家を出入りしている姿を見たことがあるそうだよ」

「えっ」

「それに、遺書にも書いてあったでしょ? 君への罪悪感に耐えられなくなった彼女と、彼女を愛している男が心中自殺」

「いや〜。愛だね〜、ドラマみたいだ。君が早く別れてあげていれば、彼らは死ななかったんじゃないか?」


 刑事さんにまくし立てられるように話され、なんだか責められている気分になり、戸惑う。


「う、浮気されてるなんて、知らなかっ「本当に? 小さい村だ。ほとんどの住民が、あの男が君の家を出入りしているのを知っていたよ? 君は本当に知らなかったのかい?」……えっ」


 刑事さんが、僕を観察するような目で見てくる。

 まるで疑われているような気分だ。


「あと、○○さんに聞いたよ? 前に居たところでも付き合っていた彼女さん、自殺したんだって?」


 ○○さん――近所に住んでいて、よくお裾分けをくれる人だ。

 そういえばこの間、お茶を頂いた時にポロッと前の彼女のことを話したっけ。○○さんは『そうなの。つらかったわね』って、親身になってくれたと思ったのに。刑事さんに話したんだ。

 そういえば最近、あんまり村の人と話してないな……前は、毎日何かしら話していたのに。


 バンッ!

 ぼんやりしていた頭が、刑事さんの机を叩く音で我に返った。

 刑事さんがこちらに身を乗り出して、何か言ってくる。

 もう刑事さんがどんな顔をしていて、何を言っていたのかよく覚えていないけど――


「君、厄病神なんじゃない?」


 この言葉を言われたことだけは、はっきりと覚えている。



 数日後、僕は村を出た。

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