14.売られた聖女は旅路につく
翌、早朝。
朝日の昇る前のまだ暗い時間に、私は集合場所である騎士団の訓練場に荷物を持って到着した。
マリーが整えてくれた荷物は、着替えといくつかの常備薬が入っている。
「来たか」
グルストラ騎士団長他、騎士団のメンバーは、すでに整列していた。
自分で荷物を抱えてきた私に、グルストラ騎士団長は若干驚いている。
マリーには無理を言って、私が持てる量でまとめてもらった甲斐があった。
「失礼だが、ロセアン嬢は貴族のご令嬢と聞いていたが、違ったっけか?」
「いえ、違いません」
「荷物、少なくねぇか?」
「私がいることで、騎士団の皆様にただでさえご負担をおかけしていますので、荷物はできるだけ減らしてもらいました」
「つくづく規格外のお嬢さんだな」
グルストラ騎士団長は、肩をすくめた。
「さて、それじゃ、ロセアン嬢はこっちに居てくれ」
並んでいる騎士達とは違う並びに一人整列する。
騎士達は、第二騎士隊の人たちのようで、ミアさんやロレンソさん、ヤンネさんの姿を見つけた。
「よし、もう一人も来たな」
グルストラ騎士団長の言葉にそちらを見ると、そこにはフェリクス陛下の姿があった。
こういう場合だからか今日も軍服を着ていらっしゃる。
フェリクス陛下は私たちの側へと来ると、グルストラ騎士団長の側に並んだ。
騎士達の見送りに来たのだろうか。
疑問に思っていると、グルストラ騎士団長が大声を発した。
「お前達の任務を説明する」
騎士隊の面々は微動だにすることなく、グルストラ騎士団長の言葉を聞いている。
「お前達、第二騎士隊の任務は、アーネスの村を襲っている魔獣の駆除と、アーネスで起きていることの調査だ。
七班から十五班までは昨日、先にアーネスに向かっている。
本日出立する一班から六班までのお前達は、エヴァンデル王国から来てもらっている浄化の使い手のロセアン嬢の護衛も任務に加える。
道中、彼女に危険がないように、気をつけてくれ。
その分、瘴気や怪我などへの対処はロセアン嬢が見てくださる。わかったな?」
騎士たちから大声の返事が返り、グルストラ騎士団長は頷く。
「それと、今回は俺が出たいところだったが、陛下が出られるそうだ。
これまでも魔の地の防衛任務で何度も一緒に戦ってきているから問題はないだろうが、相手が俺であっても陛下であっても、やることは同じだ。
指示を仰ぐ必要があることは、それが何であれ、すぐに陛下に報告しろ。
わかったな!」
「はい!」
動揺を見せない騎士達の姿に、フェリクス陛下が王位につかれた後も前線に出られていたのだと実感する。
いつも身にまとっておられる軍服はその証左なのだろう。
「それでは、以上」
そして、グルストラ騎士団長の声で、全員が敬礼した。
一拍の後、移動が始まる。
私はどうしたらよいのかと思っていたところ、グルストラ騎士団長がフェリクス陛下と共にこちらへ近づいてきた。
「昨日伝えたように、ロセアン嬢にはこちらで馬車を用意している」
「かしこまりました」
グルストラ騎士団長に返事をすると、陛下が私に手を差し出した。
「私が連れて行こう」
フェリクス陛下の言葉にグルストラ騎士団長はうなずき、一人すたすたと馬車停めの方へと向かう。
その後ろを私たちはついていった。
馬車の側にはスヴァルトの姿もあった。
ハーネスに繋がれていないから、スヴァルトは馬車を曳くわけではないようだ。
陛下もこちらから出立するのだろうか。
馬車の前で足を止めると、グルストラ騎士団長が私達に向き直る。
「二人とも、気をつけて行ってこいよ」
「ああ、もちろんだ」
「行ってまいります」
私が返事をしたところで、陛下は表情を変えず、馬車に乗り込んでいく。
ステップの最上段に足を掛けで振り向いた。
「では、セシーリア嬢、お手を」
フェリクス陛下は馬車に乗りこむと、私に手を差し出した。
少し過保護すぎるのではないだろうかと思うけれど、差し出された手を断るわけにも行かず、私は素直に従った。
馬車に乗り込むと、外から扉が閉められる。
「陛下は、スヴァルトと行かれるのでは?」
フェリクス陛下は私を座らせると、向かいに腰を下ろした。
「ん? 今からセシーリア嬢と私でタンデムすればスヴァルトも疲れるだろう。乗りたかったか?」
「ど、どうしてそうなるのです」
戸惑う私に、フェリクス陛下は口の端をあげた。
「私が、そうしたいからだが」
フェリクス陛下のあふれる色気に、私はそういう場合ではないというのに脈が早くなるのを感じた。
私がドキリとしたのを読み取ったように、フェリクス陛下は笑みを深めた。
「それに、移動中に、少しこの国のことを話しておきたいというのもある」
「そうでしたか」
付け足された真面目な理由に、私もほっと入っていた力を抜いた。
気がつくと、馬車はいつの間にか出発していた。