元スタントマン、転生した悪役令嬢の破滅フラグをヒロインと攻略対象に擦り付けて平和な余生を暮らす
断罪イベントや国外追放が悪役令嬢だけのものだと誰が決めたのでしょうか?
「ぐっはアアアアアアアアアア!!」
私はドサッと音を立ててお城のエントランスで仰向けで倒れ込んだ。
周囲には悲鳴や走り回る人々の足音が響き渡る。城の衛兵たちが事後処理に追われてそこら中を走り回っているのだ。
そして私の前には見目麗しき一人の青年が剣を握りしめて立ち尽くしている。
エドワード・フィリップ王太子殿下、『ラブゲッチュ』と言う日本の女子中高生の間で流行っている、それどころか社会現象にまで発展した乙女ゲームの攻略対象だ。
私はと言えば、そのゲームの悪役令嬢であるマリアン・レトリバーに転生した元日本人で、精神的には男だ。
日本人だった時分はスタントマンを生業にしていた男。
私は悪役令嬢に転生して、その結末を知ってからその破滅をどう回避するかを考えた。考えて考えて考え抜いた。その結果、どう足掻いても破滅は回避出来ないと知って、諦めることにした。
何をどう努力しても私はゲームの強制力から逃れられず、結果としてヒロインを虐めたことになるのだから。
だから敢えて諦めた。
寧ろスタントマンとしてのスキルを活かして殺されたことにした方が楽だと思い至った訳だ。で、私は悪役令嬢の断罪イベントに託けて、太子に派手に斬りつけられて死んだふりをしているわけだ。
おっと、血糊が足らないか? もう少しだけ血糊の量を増やしておこうか?
そんな私の行為が悪かったのか、僅かに動いたように思われたのだろう。太子が私に近づいてなんと服の胸元から拳銃を取り出して突きつけてくる。
ガンガンガン!!
おいおい、いくら悪役令嬢が相手だからってそれはないんじゃないのか? 俺が防弾チョッキを着込んでいたからいいものの、コイツは完全にイカれてるぜ。
そしてそのあまりにも容赦のない行いに周囲の人々がヒソヒソと話し出す。
「ね、ねえ。王太子殿下って酷くない?」
「そうよね? だって殿下ってあの庶民の女と一緒になりたいだけでマリアン嬢を殺したんでしょ?」
「いくらマリアン嬢が庶民の娘を虐めていたからってやり過ぎよね?」
ふふ、そうだろう? そう思うだろう?
それはそうだ、俺はスタントマンとしてのスキルを活かしてエントランスの一面に夥しい血糊を撒き散らしているのだから。
そしてヒロインの娘は太子の隣で私の血の量に驚いた様子を見せながらドン引きしている。と言うか驚き過ぎて、斬りつけた太子を非難し始めた。
「で、殿下!! いくらなんでもこれはやり過ぎなのでは!?」
「何を言うか!! これは君を守るため、この悪女を成敗するために必要なことだ!!」
おーおー、ついに愛し合うもの同士が喧嘩を始めてしまった。ふふふ、いい気味だ。素晴らしい光景だ。これまでいくら努力しても回避出来なかった破滅の原因である男女が喧嘩を繰り広げる。
悪役令嬢の私にとってここまで溜飲が下がる光景は他にあるまい。
私はこの状況を確固たるモノにすべく、瀕死の状態を演技しながら一言だけ言葉を口にしてガクッと首を曲げて死んだふりをした。
「わ、私は……殿下のご命令通り……その娘を虐めただけなのに。殿下がどうしても娘に……振り向いて欲しいからって……言うから、協力しただけ……な…のに」
当然周囲は騒然とするわけで。そして私は悪役令嬢から悲劇のヒロインになることが出来た。
じゃあ後はお若い二人に喧嘩をしてもらって私はコッソリと逃げるとしましょう。
「で、殿下!? 今のはどう言うことですか!?」
「わ、私は知らん!! その悪女が嘘を言ったのだろう!!」
「……そう言えば殿下って性癖がちょっとおかしいですよね?」
「そ、そんなことは今言わなくても良いだろうが!!」
「だって殿下って巨乳好きですよね!? お部屋にもそれ系のエロ本とか大量に隠し込んでいるし、侍女の方達も全員巨乳で揃えていらっしゃるじゃないですか!!」
「な、なんの話だ!? 私はそんなものは所持しておらん!!」
「嘘つくなんてサイッテー、殿下のPCの外付けハードにも大量のエロ画像が保存されてるじゃないですか!! それなのに今更そんな嘘を吐くんですか!?」
「し、知らん!! 知らんぞ、寧ろ俺はちょっとくらい小さい子の方が好みだ!!」
「うわあ……、殿下ってロリコンでもあったんですか?」
ふふふ、それくらい俺も調査済みさ。
太子がロリコンの気があるのは知っていた。だから逆に太子の自室に巨乳系のエログッズを仕込んでおいたのだ。そしてそれをわざとらしくヒロインの目に届くように置いておいたのさ。
太子の侍女らも巨乳に揃えたのは俺が裏で手を回したことなのさ。
「そもそも夜の営みで女の子にコスプレを強要するのは悪趣味だと思います!!」
え、そうなの!? その情報は初めて知った……。
「だから今言うことか、それは!?」
「言いますよ!! 寧ろこの際ですから言わせて貰いますけど、どうして私がスク水を着ながら夜のお相手をしなくちゃいけないんですか!?」
おいおい、太子の趣味も大概だな。と言うか俺も適当なタイミングで撤退しようと思ったのに、これじゃあ逃げるに逃げられないじゃないか。
寧ろ最後まで聞いていたい。
一国の王太子殿下の夜の恥など、今後生きていく上で最高の飯のネタになるじゃないか。俺は悪役令嬢だから、逃亡後は名前を変えて他国でウェイトレスでもやって生きていこうとかと思っていたのだ。
そう言う場では他国の王族の下ネタなんて最高の鉄板トークじゃないか。
良し、ヒロインよ。その辺りをもう少しだけ掘り下げてくれないか? 俺の今後のために。
「だーかーら!! それは今言わんでよろしい!!」
「まだあるんですからね!! どうして夜の営みでストッキングを被るんですか!?」
「だから言わんでよろしい!!」
マジで!? この太子、そんな性癖があったの!?
「後はアレです!! いつもいつもいつも、どうして女装しながらなんですか!?」
オーマイガー……、それはダメだろう。太子よ、俺も人のことは言えないけどそれはダメだ。完全にアウトだよ。
「ええい!! 煩いぞ、これ以上は其方でも不敬罪で引っ捕える!!」
「だったら全部言ってやるんだから!! ことが済んだら人の下着を持ち帰ったり、縛られたがったり、最中に友達に電話させたりサイッテーーーーーーーー!!」
うわあ……、これには俺も思わず口を開けてしまいそうだった。
無論だが周囲から太子に向けられる冷たい視線の数々、俺は目を開けられないけど分かる。肌で感じるよ、周囲の女性らが太子にゴミでも見るような冷ややかな視線を向けている。
なんかこの状況で俺が姿を消したら、問答無用で指名手配にされそうじゃね? だってこんな国家的な恥を他国に持ち込んだら外交上マズいでしょう?
「ええい!! 衛兵ども、この小娘も引っ捕らえよ!!」
こうしてヒロインは攻略対象に国家反逆罪を言い渡されて、太子の命令によって衛兵に拘束されてしまった。だが、そんな状況にもヒロインは屈することなく衛兵に引きづられながらも太子の性癖を次々と暴露していくのだった。
「その人、ぬいぐるみフェチの盗聴に盗撮から露出癖持ちのサイテー男でーーーーーーっす!!」
「ええい、やかましい!! その女はテロリストだ、徹底的に尋問してからギロチンだーーーーーー!!」
「そうやって私を甚振って興奮するのね!? ええ、分かりましたよ!! 殿下はそうやって人を甚振って喜ぶ人なんですーーーーーーー!! 興奮するーーーーーーーーーー!!」
「やっかましい!! 早くギロチン台に送ってしまえ!!」
こうして乙女ゲームのヒロインと攻略対象は盛大に喧嘩をして、ヒロインに至ってはまさかの悪役令嬢顔負けの断罪イベントを被ることになってしまった。
そして攻略対象の太子は国内外関係なくその性癖の異常性が噂となってしまい、彼の父である国王から勘当を言い渡されてしまい、国外追放となった。こちらも悪役令嬢顔負けの断罪イベントである。
因みに俺はこの諍いのどさくさに紛れて逃亡しました。と言うのも太子とヒロインの喧嘩のインパクトが強すぎて周囲に忘れられてしまったのだ。
こうして俺は無事に他国へと渡って太子の悪評をネタに一山稼いで平和に暮らすのだった。
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