決まり文句で起こされるー4
「アレイ、
別に勇者になんかならなくていいのよ?」
「え…?」
ゲームの設定を無視する言葉に思わず振り返った。
「いいの、そんな英雄になんてならなくて。」
優しく母が笑って、そして父も祖父母も微笑んでいる。
「でも……」
「いい?家族皆、あなたがいつも笑顔でいてくれたらそれで十分なの。」
「―――っ…!」
そういえば、いつ笑っただろうか。
新しい上司が配属されて、霧山が入社してきて、いつの間にか忘れてしまっていた。
「でもまぁ、せっかく学園に行くのだから
自分の身と、あなたの大切な人を守れる位の事を学べたらそれでいいわ。ねっ!
特待生でタダで行けるのだし!」
いたずらっぽく母はにっこりと笑った。
「もうっ、せっかくいい感じだったのにお母さんってば、最後台無し!」
自然と『お母さん』と呼んでいた。
ここは世界の設定こそ『path of light』のようだが、魔王を倒す勇者になることを求められる英雄譚ではない、16歳の娘がいる普通の家族なのだ。
しかし、
――コンコンコン!
扉がノックされ、
「ホープスさん!そろそろ迎えの馬車が着きます!」
先導の早馬が呼びに来たようだ。
ジャスニスクは優秀な人材を育成するために通常の入学の他、統治内から潜在魔力の強い子供をスカウトし、特待生として無償で就学させている。
アレイはこのスカウトのお眼鏡にかかったわけだ。
そういう政や行事事は同じらしい。
「支度しないとな。」
父が席をたち、母と祖母が台所へと向かった。
「アレイも支度してきな。」
「うん。」
祖父に促されて、自分の部屋に戻る。
「ステータスオープン、持ち物。」
ずらりアイテム名が並ぶ。
うん、持ち物もそのままだ。十分過ぎる。
アレイは制服と一緒に掛けてあったショルダー型のバッグにタオルや筆記具を入れ、最後に机の上に置いていた入学案内の紙を畳んで入れた。
階段を降りると、母と祖母が包みを渡した。
「王都までまだ日がかかるから。パン、水分少なくして焼いているから日持ちするからね。」
「こっちは燻製干し肉と干した果物。瓶に入っているから気を付けるんだよ?」
「ほら、これに入れなさい。」
祖父が持ってきた袋に詰める。
扉を開けると既に馬車が停まっていた。
「アレイ、これを持っていきなさい。」
父がひと振りの剣を渡した。
「授業でだって使うだろう。授業でだって使うだろう。けどな、アレイ。
逃げていいんだからな。」
「え……逃げて…?」
「そうだ。どんなに頑張って頑張って、それでも苦しいなら逃げたっていい。
言っただろう、家族皆お前の笑顔が大切だって。」
「お父さん……!」
アレイはたまらず抱き付いた。
父もぎゅっと抱き締め返す。
「そうだ!逃げた。なんて意地悪してくる奴が居たら、じいちゃんがとっちめてやるからな!」
「おじぃちゃん、ありがとう!」
今度は祖父と抱き合う。
「アレイや……」
「おばぁちゃん、泣かないで。
休暇の時には帰って来るからね。」
祖母を抱き締め、涙を拭う。
「アレイ、」
「お母さん。」
涙をこらえ、呼ぶ母にぎゅっと抱き付く。
「アレイ、いってらっしゃい。
あなたが好きなスープを作って、帰りを待っているからね。」
「チーズパンも作ってね、
ちゃんと、帰って来るから……!」
一際強く抱き締めると、
「いってきます!」
笑顔で馬車に乗り込んだ。
先に同じ制服の少女が一人乗っていた。
「いい家族ね。」
「うん!私の大切な家族なの!」
外で父が御者に向かい
「宜しくお願いします。」
と言うと、馬車が動き出した。
「アレイ!いってらっしゃい!」
「体に気を付けて!」
家族が手を振り見送る。
「皆!いってきます!」
アレイも身を乗りだし手を振った。
もしかしたら、16歳となって転生した私に与えられた仮初めの家族かも知れない。
でも、あのスープの温かさも、抱き締めた温もりも、匂いも全て、それは紛れもない家族の温もりだった。
私が帰る家はきっとここなのだろう。
「いってきます。」