プロローグ
「ただいま……」
誰も居ない、真っ暗な空間に習慣的に声をかけて電気をつけた。
単身者用に会社が借りてあるワンルーム
足を締め付けていたローヒールのパンプスを脱いで部屋に上がると
「はぁ………」
通勤バッグと、さっきコンビニで買った芋焼酎を割るための炭酸水と一緒にベッドへダイブした。
「………部屋、探さないと………」
いや、その前に仕事か?
高校卒業してから勤続16年。
天宮 朝陽 34歳
大卒 一年目 23歳の後輩にミスを押し付けられ多分……クビ。
『全く、霧山さんが気付いたから良かったものの。君は彼女の教育係だろう!』
『え…?ま、待って下さい!それは彼女が…!』
『兎に角!何らかの処分がある事を覚悟しておきなさい!』
『そんな……』
上司の叱責にうなだれ自分のデスクに戻ると、張本人である霧山が向かいのデスクからニマニマと口元の歪みをこらえることなく、
『皆、ワタシが若くてカワイイって。あんたのコトなんて聞くわけ無いじゃん。』
『オバタン。』
と笑った。
「―――――っ!」
ショックだとかなんかより、混乱した頭でもどうにか損害を抑えなきゃいけないと奔走し、上手く感情がまわってなかったのだろう。
ここにきてようやく腹が立ってきた。
「ふざけんな!」
起き上がりスーツを脱ぎ捨てると、冷蔵庫に炭酸水とツマミを冷蔵庫に押し込み、手早くメイクを落としてシャワーを浴びると、冷蔵庫から炭酸水を出し、グラスに注いで芋焼酎を割る。
「っぷぁ!」
一気に半分ほど飲み干し、ツマミに買った野菜スティックにたっぷり味噌マヨをつけて、かぶりつく。
「よし!今日はバンバンやってやる!」
空になったグラスに焼酎と炭酸水を再び注ぐと、ゲームを立ち上げた。
『path of light』
よくある魔王討伐物のRPGで、主人公は先ず騎士学園で頂点に立ち、勇者の称号を得なければならないストーリーとなっている。その為にフィールドやダンジョンなどで戦闘しレベルをあげるのだが、ダンジョンは一度クリアすると変化するようになっているなど、とことんやり込められるように出来ている。
もう発売されて数年となるのだが、朝陽はこの変化するダンジョンの攻略と魔物を討伐した際に得るアイテムの収集にすっかりストーリーそっちのけでトレジャーハント化としていた。
「よっし!お宝ゲット!」
数年かけて築き上げたレベルは、それはそれはえげつないモノになっており、今回のダンジョンもボスらしき魔物をいとも簡単に倒しアイテムを獲得した。
「はぁー、一休み。」
ゴロンと床に寝転ぶ
「やっぱり積み重ねだよねー」
戦闘を重ねた分だけ強くなり、報酬を得る。当たり前の事だ。
「っ……」
勤続16年。努力を重ね頑張ってきたはずなんだ。
じわり目頭が熱くなり、顔を腕で押さえた。
ぐっと目を閉じると歪んだ霧山の笑い顔と叱責する上司の顔がぐるぐると回り出した。
あー、ちょっと飲み過ぎたかな?眠くなってきた。
水でもと思ったが、どうにも身体が重い。
先程まで戦闘を繰り広げていた画面が目蓋の奥に光った気がしたが、朝陽はそのまま意識を手放した。
ベッドで寝なきゃ風邪ひくけど、どうせならひいててくれ、と思いながら。