第3話 新たな任務
───ピリリリリリッ...ピリリリリリッ...
「んんっ...ぅん...?」
必要最低限の物しか置いていない質素な部屋で眠っているのは1人の少女。そんな彼女のスマートフォンに電話がかかってきた。
「...何?」
「やっと出たか。新たな仕事だ。設定はこちらで色々と考えておいた。お前は送った箱に入っている手紙の指示に従ってくれ。」
「ん。」
───プツッ...
ボスは私の親だ。いや、育ての親か。両親は私を虐待していたらしい。曰く、出来ちゃった婚によって産まれた私を育てる為のお金が無かったからという八つ当たり、憂さ晴らしだったとか。4歳の頃、家から抜け出そうと窓から飛び降りようとした時に今のボスに拾ってもらった。そこから1年ほどかけて拳銃の使い方を学び、私が両親を殺した。6歳の頃、初の任務がそれだった。仲睦まじい様子だった2人の頭に穴が空いたという記憶は今でも忘れられない。
ちなみに、なぜ仲睦まじかったのかと言うと、私が行方不明になり保険金が降りたからである。贅沢三昧していた2人を見ても何も感じない私の心はどうなっているのか。
その時の武器はもちろん拳銃だったが、近いと肉眼で相手の怯えた表情とかが良く見えてしまうからそれ以降、1番離れられる狙撃銃にした。当然使ったことの無い武器だったから使いこなせるようになるまで、5年程かかった。今じゃ純白の死神なんて呼ばれている。あ、もちろん遠距離だけじゃなく近距離戦もできる。いざとなった時に役に立つのは自分のみだからね。
──ピンポーン...
そんな昔のことを思い返していると、インターホンがなったので見に行くと、宅配便の人だった。
「あ、どーも...可愛っ...!?はっ!い、いえ。なんでもないです。」
「?」
前回の任務の時に使用した名前...を少しだけ変えた近藤悠里の文字が書かれた箱を受け取る。当然印鑑も近藤だ。前回の任務を終えた際、ボスから近藤の印鑑が送られてきたから何事かと思ったが、こういうことか。
届いた荷物を開けると、そこにはどこぞのお嬢様学校の制服と、手紙が入っていた。
手紙によると一応私は正樹の養子になった...という設定らしい。正樹の家は岩手にあるが、れっきとした大財閥だ。つまり、私は養子とはいえ大財閥のお嬢様という扱いになる。ははっ面白い冗談だ。
当然、正樹の妻や両親もその事を知っている訳で...。私の招待を知っているのは近藤家の中じゃ正樹だけだ。これは下手な動きができなくなったなぁ...。
手紙にはまだ続きがあり、ここからが本番だ。
『今回の目標は大財閥のお嬢様鈴木沙耶だ。お前にはお嬢様学校に入学してもらう。』
「んしょ...。」
手紙を見た後、届いた制服を着てみるとピッタリだった。...一体いつ測ったのだろうか...それに、制服の色は私の好きな色である黒。日本一のお嬢様学校と呼ばれている私立リリーヘイト女学院はこれまた小中高一貫校で外部入学生が極端に少ないことで有名だ。まぁお嬢様学校って呼ばれるぐらいだから一般人が入ろうとしないのも分かる。そして、制服の色は赤、青、白、黒の4色から好きに選べるから黒を選んだボスは見る目があると思う。うん。
「...。」
まずは目標のルーティーンを調べて、人のいない場面があれば、そこで殺害。もしなければ彼女と友人になり、人のいないところに誘って殺害。だが、私は人としての何かが欠けているとよくボスから言われている。そんなやつが人と友達になどなれるのか...。ここが難関かもしれない。
今日は4月3日。入学式は明後日の5日にある。準備期間は僅か1日しかない。はぁ...。入学手続きなどは全てボスがやってくれたらしいので、その点については感謝しているが、その他がダメダメだ。情報を伝えるのが遅い。もっと前もって教えて欲しいものだ。まぁそんなこと愚痴っても意味無いから準備しよ...。
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という訳で、当日。
都内にある私立リリーヘイト女学院へやってきた。入学式の会場である体育館の入口でこの学校の教員が入学おめでとうと言ってきたが、私は何もしていないからおめでとうと言われる筋合いなどない。
「...ありがとう。」
「っ!」
なんとも言えないような笑みになってしまったが、きちんと礼を言うことが出来た。
「可愛い...。」
体育館に入る前に何か聞こえたが、多分きっと次の人に話しかけたのだろう。