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7.○○を集めろ!

◇ ◆ ◇


「……失礼しま〜す……」


恐る恐る大学のキャンパスの一角にある事務棟に入っていく。

こんなところに入った事がないから緊張していた。

……さすがにここでは美穂との密着を解除して、俺の後ろにつかせている。


役所や銀行のようなカウンターで仕切られたスペースのひとつに、目的の「就職課」と書かれた看板を発見できた。


その奥のデスクに座っている事務員と覚しき眼鏡をかけている女性に声をかける。


「すいませ〜ん。ええと……僕たち、高等部の生徒なんですけど……」


「……高等部の? 高校生が大学の就職課なんかに何の用ですか?」


「あのですね……OB訪問……というものをしたいんですけど」


「……ふむ……」


事務員の女性は眼鏡をくいと持ち上げる。

俺たちの様子を見て、少し思慮している様子だ。


……仕方ないだろう。いくらうちは大学と高校の連携が深いとは言え、高校生が大学のOBを訪問するなどと言うことがそうあるとは思えない。


「高等部にも就職担当の先生がいるでしょ? なぜわざわざうちに?」


──この俺たちの不自然な依頼を、少しでも自然に見えるように説明しないといけない……。


「ええと……僕たちすぐに就職を考えてるわけじゃないんです。大学に進学してからの就職を考えてます。……ただ、早いうちから将来を考えておけよって高校の先生にも言われまして。……でも、その割に高等部の就職担当じゃ、紹介できる会社や、訪問したり話をできる先輩も少なくて」


「……まぁそうでしょうねぇ……」


「……こんな不景気な世の中ですし……俺、将来が心配なんですよね。……早いうちに人生プランを立てておきたいんです。内部進学すべきかどうかも含めて、やっぱり就職したい会社を考えて逆算して計画をたてないといけないと思ってまして……」


「……あなた、高校生にしては立派な考えねぇ……」


「それに……今考えているのはマスコミなんです。そういうところは倍率も高いでしょうし、大学に入る前から情報を集めておくべきだと考えました……どうでしょうか?」


「……う〜ん……なかなか意識が高いわねぇ……でも……まだ大学に入っていない高校生に大学のOBを紹介するなんて……う〜ん……」


事務員の女性は悩ましげな表情をしていた。

……見た感じ、もう一押しな気がするんだけど。


そのとき、俺の後ろから──


(センパイ、センパイ!)


美穂が俺に耳打ちをしてきた。


(……え? なに?)


美穂に案があったらしい。


(あのですね────)


その説明に耳を傾けたが……


(えっ、そんなのでいけるかなぁ……?)


いまいち自信が持てない方法だった。


(センパイならいけますよ!)


(……)


……しょうがない、一か八か試してみるか。


俺は覚悟を決めると、事務員の女性の手をぎゅっと両手で握った。


彼女の名札から名前を確認して──


「……高校の先生も偉そうに言う割には頼りにならなくて……高木さんだけが頼りなんです!」


そう言いながら、目を見つめた。


「そ、そう!?」


「そうです。お願いできませんかね? せめて上司の方と相談するとか……」


「う、うん……ちょっと上司と相談してくるわね」


そう言うと高木さんは奥に引っ込み、奥のデスクに座っている中年の男性と会話を始めた。

話の内容は聞こえないが、女性の方から熱心に説得をしてくれているようだ。


しばらくして……


「……分かったわ。それで……どこの会社を紹介して欲しいの? あ、それと高等部の学生証を見せてくれるかしら」


「ええと、テレビ局の……できればTBNが良いなぁなんて。──あと……学生証はこれです」


俺と美穂はそれぞれの学生証を見せた。


「あ、それと、紹介できるのはメールアドレスだけだからね。あなた達からそのアドレスにお願いを送って頂戴。それでOBが断ったら会えないから気をつけて」


そう言ながら、高木さんはリストを印刷して渡してくれる。

その中に大和やまとテツヤの名前があることが確認できてほっとする。


「ありがとうございます!」


「ん……頑張ってね」


高木さんは最後に、にこりと笑顔をみせて軽く手を振ってくれた。


「はい!」


できるだけ礼儀正しくなるようにお辞儀をして、事務棟を出た。

外のキャンパスを歩きながら美穂と話す。


「さすがセンパイですね!」


「いやぁ……あんな方法で上手くいくとはなぁ……」


「センパイの話を聞いて心が揺れてましたからねぇ……。センパイって顔もいいから、あとは色仕掛けでチョロいですよ」


「い、色仕掛けって言うなよ。顔も普通だし……」


「……センパイってモテてる自覚がないですもんね……」


……モテてるんだろうか?

仮にモテてたとしても今まで女難にしか見舞われてないから、女性に良いイメージが持てない。


「……まぁ、何にせよ、これで連絡先は手に入ったし。あとは上手いこと会えるように連絡をするだけだな」


断られる可能性もなきにしもあらずだ。


「その辺は私に任せて下さいよ!」


美穂はドンと自分の胸を叩いて自信げな様子だ。


「大丈夫かなぁ〜」


「大丈夫です! とりあえず明日、失恋同盟の部室に来て下さい」


「お、おう」


その日はそれぞれ自宅に帰って、翌日改めて集まることになった。


◇ ◆ ◇


そうして部室に集まった俺は──


「なんじゃこりゃあ〜〜!!」


やっぱり大丈夫じゃなかった。


【あとがき】

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