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4.私のこと○○にならないで下さいね

「分かったよ……」


俺はゆっくりと話し始めた。

聞いている人にちゃんと伝わるように整理などされていない、ただ頭に浮かんだことをそのまま吐き出した独白だ。


人生で最初の彼女のこと──


「──初めて彼女ができたのが……本当に……本当に……嬉しくてさ……」


大人っぽくなろうと背伸びしたこと──


「──分かんないことばっかでさ……雑誌やら……ネットやら……とにかく検索しまくってさ──」


そして、振られたこと──


「──なんだよ……なんなんだよ! 始めから好きじゃなかったってさ……俺に見せてた笑顔は全部うそなのかよ!──」


その時点で、涙がぽたりと机に落ちていることに気がついた。

愛美あみさんがハンカチを差し出してくれる。

なんだか懐かしい匂いがした。


「ありがとう」


ハンカチで目を拭った。


「……もしよろしければ……続きをどうぞ……」


「…………ああ…………」


促されて、今度はリカとの事を話しだした。


彼女のこと──


「──昔からの幼馴染だからさ──信頼してたんだ──本当に──」


付き合うことになってから──


「──落ち着くというか──一緒にいるのが当たり前になって──別れることなんて想像もできなくて──」


裏切られたとき──


「──それでも信じたくて──。なんで……くそ……うぅ……ぐっ……」


嗚咽の止まらない俺は机に突っ伏し、腕で目を押さえて、できるだけ涙がでないようにした。


そんな俺の後ろから、愛美あみさんが俺を抱きしめてくれる。


俺は──


……柔らかい体……だと感じた。

……なんだか知っている感触……だと思った。

……どこかでかいだ匂い……だという気がした。


それで、愛美さんの右手に握りしめて目を押さえていたハンカチの匂いも確かめる。

ゆるふわなお菓子みたいな匂いだ。

俺はこの匂いを知っていた。


部屋がアロマオイルの香りで満たされていたから、今まで気がつかなかったんだ。


涙が止まって、一気に体温が下がっていくのを感じた。


「……美穂みほ……騙したのか?」


愛名あいな美穂みほ──同じ中学校で二歳年下の後輩だった女の子だ。


「てへっ……センパイ……気付いちゃいましたか? あっ、相変わらず凄い腹筋」


彼女は片手で俺の背中に抱きついたまま、もう片方の手でフェイスベールをとって机の上に置いた。

俺は泣いた後の顔を見られたくなくて、突っ伏したまま、後ろに抱きついている美穂と話す。


「なんで……こんなことした……?」


「こうでもしないと、センパイ、私になんか話をしてくれないじゃないですか〜」


そりゃ、こいつに話せば馬鹿にされるって分かってるからな。


「……学校はどうした? 卒業……できたのか?……」


「やだな〜、ちゃんと卒業して、今はここの生徒ですよぉ!」


「……そうか……」


「そうですよぉ、せっかくセンパイと同じ高校に入ったのにー、センパイったら不登校になっちゃってて……」


「……お前……中学生の時からうちの高校まで来てたろ……。わざわざ俺をからかうために……」


そう、美穂は中学生のくせに高校生の俺にウザく絡んでくるヤツだった。

昔は大人しかったんだが……、俺が高校に入ってウザくなった気がする。


「でもでも〜、やっぱり同じ高校の方が、からかいやすいかなぁって思って」


俺に初めて彼女できたときも「信じられな〜い、絶対スグ別れますよ」とか、リカと付き合うことになったときも「幼馴染だからって、そんな上手くいくわけないじゃないですか」と馬鹿にされたのを覚えている。


「まぁ……結局お前の言うとおりになったな……上手くいかなかったよ……馬鹿にされてもしかたないな……」


「そうですね〜。……それじゃ……改めて……馬鹿にしちゃおうかな……」


そう言って美穂は、さらに俺と密着してくる。

ぎゅうっと彼女の体の一番柔らかい部分が押しつけられた。

スキンシップは昔から過剰なやつだが、ここまでは珍しい。


「……おい……!」


戸惑う俺を無視して美穂は話し始めた。


「……年上の彼女に遊ばれちゃったぐらいでメソメソするなんて……どんだけピュアな童貞なんだって感じですし……」


「……うぐっ……」


こいつ、胸をダイレクトにえぐってきやがる……。


「……リカセンパイだって……あんな腹黒ビッチに騙されるなんて……脳みそお花畑のロマンチック夢追い少年かよって感じだったし……」


「……ぐっ……」


そこまで言うか。


だが、美穂の声色は徐々に優しいものになっていた。


「……でも……分かりますよ……恋愛ってそういうものですから……」


そう言いながら、美穂は正面に回り込んで、机に突っ伏していた俺の頭を持ち上げた。


彼女のふくよかな胸が俺の目の前にあって──


──ぎゅぅっ──


「──んんっ──!?」


そのまま彼女の胸に抱きしめられた。


ゆるふわなお菓子のような柔らかさと匂いに俺の頭が包まれていた。


「……センパイが辛かったのは分かります……」


「美穂……お前……」


泣いてるのか……?

そんな声色だった。


「えへへ……センパイ……気持ちいいですか?」


気持ちいい……というか、えも言われぬ安心感がある。

全てを委ねてもいいような感覚だった。


「お前……なんでここまで……」


さすがにこれが単なる友人に対する態度でないことぐらいは俺にも分かる。


俺のこと……好きなのか?

そう尋ねたい気持ちが胸の中にあったが、聞いてはいけないと思った。


──もし、それをすれば、俺は同じ事の繰り返しで──


「センパイ……私のこと……好きに……ならないで下さいね」


「──えっ?」


「センパイは二度も裏切られてる……だから、次も同じ事になるのを怖がってる……」


「う……」


俺の心の中をのぞき見ているかのようだった。


「だから……私のことは……そうですね……家族のようなものだと思ってもらえれば……」


「家族……?」


「ほら……センパイ、お母さんいないでしょ?」


「ああ……」


それでなのだろうか。

美穂に包まれて安心感を覚えてしまうのは。


美穂に抱きしめられた姿勢のまま、俺たちは会話を続けた。


「……失恋同盟の規則第一号は、『同盟員は家族です』……にしようかな」


「……なんか……ブラック企業みたいだな……」


「失礼なぁ〜」


顔がよく見えなくても美穂の頬が膨らんでいるのが分かって──


「ははっ」


俺は笑ってしまう。


「センパイ……やっと笑ってくれましたね……」


「うん……お前のおかげだな……」


「そうですよ……感謝してくださいね……」


「……ありがとう……」


◇ ◆ ◇


しばらく無言がつづいた後に、二人で椅子に座り直して、改めてお互いの顔を見直す形になる。

美穂の頬は赤く染まっていた……俺のもきっとそうだろう。


「コホン……それでですね」


そんな雰囲気を破るように咳をしてから美穂が話し始める。


「おう……」


「私……センパイを傷つけた奴らを許せないんです!」


それも、家族だからという奴なのだろうか。


「許せない……か」


どういう表現するのが適切か分からないが、「恨み」というべきわだかまりみたいなものが、自分の心にあるのは間違いない。


「だってだって、人生ってたった一回ですよ? 高校生活も一回きり。それが、他人のせいでめちゃくちゃになってるって、おかしいじゃないですか!?」


美穂は激しい口調でまくし立てた。


「俺のために怒ってくれるのはありがたい……けど、だからって何ができるってんだ?」


俺の問いかけに美穂は少し待ってから答えた。


「……復讐しましょう」


「……復讐ね……」


物騒な言葉だとは、思う。

ただ、自分の中にあるわだかまりは晴らしたいと思う。


「だけど……どうやって……復讐する?」


「そうですねぇ……殺しましょうか」


美穂の口から出たのは、俺の想像以上に過激な言葉だった。


【あとがき】

感想ありがとうございますm( )m

一つ一つ返信はできないのですか、しっかり読ませて頂いており、執筆の励みにさせて頂いております。

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