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1.初めての○○



世界なんて全部滅んでしまえと思ったことはないだろうか?

俺にはある。


その時の話をしよう。


◇ ◆ ◇


「私たち、別れましょう」


「……え……な……んで……?」


付き合っていた彼女に呼び出された喫茶店で、突然の絶望が俺を襲った。

口の中が乾いて、砂漠にいる旅人のように水を欲しがった。


「……あなたといてもつまらないの」


……なるほど、確かに僕はおもしろい話という物ができない。

もともとコミュ障気味と言うこともあるので、彼女のことを十分に楽しませられなかったのだろう。


「俺……もっと頑張るからさ」


「無理だよ」


そう言われた後も、俺はなんとか自分の誠意を見せようとして喋り続けた。

でも、そんなものは無駄だと次第に気付いていく。


彼女の目が物語っていのだ。

──話し合う余地なんてないんだと。

──これは一方通行のやりとりで、俺は前には進めない、下がるしかないんだって。


「……わかった……ごめん」


彼女が背を向けて去って行く際に、小さな声で、


「……私があなたみたいな陰気くさい男、本気で好きになると思ってたの?」


と、呟いた気がした。


その時の俺はそれを聞き直すこともできず、聞き間違いなんじゃないかと考えることにしたが、洗っても取れないカビのように胸の中にその言葉がこびりついた。


◇ ◆ ◇


俺と彼女の出会いは一年前にさかのぼる。

俺が高校二年生、彼女は大学の一年生だった。


俺の通っている丘風おかかぜ大学高等部は少々変わった高校で、道を挟んで大学と高等部が並んで設置されており、規則上、高等部の生徒は一部の大学の施設を使用することもできる。

実際のところ、頻繁に行き来する学生は少ないのだけど、俺は大学の図書館をよく使っていた。

理由は単純で、大学側の図書館の方が広いし、高校の同級生に会うことも少ないからだ。


最初に声を掛けてきたのは彼女の方からだ。


同じ机で勉強をしていたときに、


「君、男の子のくせにかわいい顔してるね」


なんて声をかけられたのを記憶している。


俺は「いやいや、そちらの方がかわいいですよ」なんて余裕しゃくしゃくの返しをできるような男ではなかったが、彼女のことを美人な人だと素直に思った。


そうして、なし崩しで連絡先を交換して、デートするようになった。

黒髪ショートヘアにスレンダーな体で、サバサバとした性格の彼女に俺は次第に惹かれていった。


いつか告白をしようとは考えていたが、その「いつか」が来る前に、彼女の方から「私たち付き合ってみない?」と言われて、僕は二つ返事でOKをした。


告白──今思うと、提案という言い方が正しいのかもしれない──されたのは、遊園地でのデートが終わって、彼女の家まで歩いている途中だった。


初めて彼女と手を繋いで彼女の家まで送り届けた俺は、文字通り小躍りしながら自分の家への夜道を歩いていた。


その様子が、あまりにも怪しかったのか、途中で警察に職務質問まで受けてしまったほどである。


生徒手帳を見せた後に「君、なんでスキップしてたの?」と聞かれたので、「……人生で初めて彼女が出来まして」と答えたら、「はは……それはおめでとう」と言ってくれる優しい警察官であったのが幸いだ。


付き合い始めた後の俺は、年上の彼女に合わせるために、少しでも大人っぽく見えるようにブランド物の服をそろえたりした。

お金を稼ぐために、なんとか時間をやりくりしてバイトを始めた。

雑誌を買って、次のデートプランをいつも考えておくようにした。


……それほどまでに興奮していた俺の幸せな恋愛は、半年も続かなかった。


彼女から別れの言葉を投げかけられたときは、本当に落ち込んだ。

彼女に会いたくなくて大学の図書館に行くこともなくなった。


けれどしばらくすると気持ちも落ち着いたので、自己反省をして次は失敗しないようにと「おもしろい話の仕方」なんて本を買って、話術の勉強もしたりした。

「おもしろい話の仕方が書いてある本が、つまらないのはどうなんだ」というツッコミをしながら、似たような本を何冊か読んだ。


それが役に立ったかというと大いに疑問ではあるが、次に向けて歩き出したという意味では、割とすぐに立ち直れた方なんじゃないかと思う。


ところがだ──。


ある日たまたま、学校からの帰り道で彼女が男が手を繋いで歩いているのを見つけてしまった。

別れた寂しさで彼女の姿を探していたわけじゃない。

本当に偶然だったんだ。


まぁ、別れてすぐ別の男と付き合うなんてこともあるかもしれない。

俺の恋愛経験が少ないだけで、世間じゃそんなのも普通なんじゃないか。

……そう思おうとしたのだが、どうしても彼女とその男のことが頭から離れなくなってしまった。


そうして、同じ学校の幼なじみのリカに相談をすることにした。

小学校以来の仲であるリカは、俺が困ったときに相談ができる唯一の存在である。


いつも陽気で元気が良く、常に人の輪の中心に居るような明るい女の子だった。

当然のことながら、他人の噂話なども彼女の元には良く集まってくる。

二年生ながら生徒会にも入っており、先輩とのコネクションも多く持っていて、相談相手としてはうってつけだった。


調べてもらった結果、分かったのは、元カノの彼氏は同じ大学の四年生ということだった。

有名なマスコミへの内定が決まったエリートらしい。


実はその彼氏、一度は就職活動に失敗していたということだ。

そして、そのタイミングで彼女は彼氏と別れて、俺と付き合い始めた。

その後、彼氏は就職活動に成功した。

彼女は俺と別れて、彼氏と元サヤにおさまった。


その事を電話で伝えてくれたリカは、


「ありていに言えば、あんたは『つなぎ』だったってわけ」


と言った。


「……そうか、最初から遊ばれてただけなんだな……」


聞こえたような気がしていた彼女の別れの言葉の意味が、そのときやっと理解できた。


「だいたいさぁ、元サヤに戻ったのだって……マスコミで働いてる彼氏っていうブランドと金が惜しくなったんじゃないかしら……あんたの元カノはそんな女だったってわけ」


とリカが言う。


「……なる……ほどなぁ……。勉強……に……なる……なぁ……」


嫌いになった──彼女のことが。

情けなくなった──そんな女のことを好きになった自分のことが。

泣けてきた──思い出が全て偽物だったことに。


俺の周りの世界が、ぐにゃりと歪んでいく。

スマホを握りしめる手から力が抜けて、落としてしまいそうになる。


「……嗚呼ああ……うぐ……う……」


涙をこぼし嗚咽が止まらない俺に、リカは電話越しに甘くて優しい口調で言った。


「ねぇ……私と付き合おうよ」


【あとがき】

「いいね」「続き読みたい」と思って頂けたら、評価・ブックマーク・感想などで応援をお願いしますm( )m

もし、良くないと思った方でも、気軽にこの作品を評価して下さい!

好評なら長く続けたいと思います。


別で連載している、

「からかっていたはずの陰キャ男子にたじたじにされる小悪魔美少女アイドルのラブコメ」or

「おっさん高校生、青春ラブコメをやり直す」もお読み頂けると幸いです。

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