TSナイヴズ
Tough& Simpleを略した名前の、新興のナイフメーカー。
普通のアウトドアナイフとはやや違う販路を取り、価格帯も一万円からが標準で高価なものは百万円を超えるナイフと違い、五千円以下・ホームセンター、100円ショップの500円商品すら狙う。
それでいて実用性に限れば大手ナイフメーカーに匹敵すると、欧米の雑誌でも賞される。
プレスによる大量生産。折れたり欠けたりしにくく、さびにくく研ぎやすいステンレス。
硬度は低めで、切れ味以上に頑丈さと扱いやすさ。
非常に単純、部品点数が少ない。
直線を多用する。
研ぎ用に安価な荒・仕上げ表裏両面ダイヤモンドヤスリも売られ、どの製品の鞘にもそれを収納できる。
三角形の手斧。
マトック……鍬と斧。
スライド式のフルタングナイフ。
同じくスライド式の、ナイフと斧の中間のようなもの。
マルチパーパスツール……ペンチと俗称スイスアーミーナイフの組み合わせ……の変形。
三角形の斧は、40度程度のやや鋭い先端から直線に刃が下がり、刃とは逆の側が60度ほどに尖っている。
やや広めの面積、5ミリほどの厚さで斧としての切断力も見た目よりある。
刃そのものは二段階に、フラットに削られている。
刃の反対側はツルハシとして、硬い地面を破ることができる。
広い刃は穴掘りに使える。そのため軽く曲面になっている。
柄の長さは標準の手斧より少し長い。そして異様に頑丈……中空バールの技術を用いており、柄頭はバールの平刃になっている。だがその柄もステンレスで、錆の心配はない。握りそのもののクッションは合成繊維ロープを巻いただけ。ロープを交換すれば長く使える。
しっかり溶接されており、水が侵入して錆びる部分はない。
そしてどの部品もプレスで作れるので、非常に安価。
刃カバーも非常に安っぽいが頑丈なプラスチック製だ。それがやや使い手を選ぶふしはある。
三角形をプレスで打ち抜けば、ほとんど鋼材の無駄がなく簡単に大量生産できる。
マトックも似たような、切断と穴掘りを兼用できる道具だ。
片側が登山ピッケルの平たい側のような鍬、もう片方が斧。
板をプレスでねじり、中空バールを溶接しただけの、同じように簡素で頑丈な構造。
アウトドアでは、切断も必要だが穴掘りも必要。それを徹底している。
スライド……普通の折り畳みナイフは、刃を回転させて柄に収納する、そのピボットピンが本質的に弱い。
このメーカーのスライドナイフは事実上ワンピースの、柄も刃も一体の鋼板。その長さに沿って、マッチ箱のふたのように平たいステンレスパイプが前後する。刃から柄につながった溝があり、それに支えられて滑る。
パイプを、刃を出した時柄頭になるあたりにリングで引きやすくした、ばねつきピンを引いて外す頑丈なロックがある。ナイフを収めた状態と、刃を出した状態それぞれで固定できる。
折り畳みナイフと違い、かさばる。
だが鞘が必要なく、折れる心配がない。
刃は細身で直線的、刃渡り9センチ程度だが厚さ3ミリとサイズにしては厚め。
また、刃も握りも14センチぐらい、9ミリ近い極厚の品もある。
刃自体は鉈の印象。ただし、握りの手指側から刃の切れる側まで、ゆるい円弧がひとつながりになっている。日本刀とは逆に、鎌のように刃の側が反っている。そうなると木の枝などによく食い込む。
円弧形に曲がったパイプが刃の側であれば刃を覆い、柄側にすれば柄となる。
先端近くの、峰側のパイプが三割ほど欠けており、その部分は刃が峰側に大きく膨らんでいる。「レ」「J」「L」を思わせる形で、引っかけたり掘ったりハンマー代わりにしたりでき、刃に重量を追加する。
ゆるやかなブーメラン、三日月、バナナ、といった印象もある。
簡単に荷物に放り込んでおける、手斧のように使える鉈だ。
マルチパーパスツールは、やや古い名作に似ている。
ペンチの折り畳み機構などの複雑さを避け、普通のペンチの、片方の柄を肥大化させてそこに刃を仕込んだだけのものだ。
だが古い名作とは違い、折り畳み機構を避けている。手を傷つけないよう握ったとき内側になる方が刃となる。刃渡りは5センチ少しと非常に短い。先端も鋭くない、電工ナイフに似た刃。金属パイプをスライドさせ、刃をカバーした状態でも刃が露出した状態でもがっちりロックする。
小さめの刃とペンチのみ。非常に単純。だから安価で頑丈。
刃がない側のグリップは、先端がやや平たくなっている。付属携帯用ポウチに短いドライバーの交換ビットがついており、それと適合する。
90度に大きくペンチを開き、その先端にドライバーアタッチメントを差しこめば、プラスマイナス各2サイズずつだ。
小さく折りたためることを完全に捨てて、安価と頑丈だけを選んでいる。