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合理都市

 ある国が戦後に始めた、規格化された合理都市。

 それは多くの国が模倣した。


 普通の都市とは、三つ大きな違いがある。

 すべての建物の二階以上に、車道のところまで張り出している、平らで飾りのない部分があること。

 五階から八階までの中層住宅が多く、その大半にやや急な坂程度の徒歩用斜路があること。

 普通の道路とは別に、普通の人の肩幅ぐらいの径のパイプがいたるところを通っており、郵便ポスト程度の密度で置かれた大きい箱につながっていること。


 道路に面した独特の平らな部分は、タンスのような構造になっている。

 タンスは、引き出しを外れるまで引っ張り出して、骨組みだけにすることができる。そうすると軽くなり運びやすくなる。地震で下敷きになったときなど、それを思い出せるかどうかは生死を分ける。

 合理都市の建物そのものはタンスのような骨組みであり、道路から規格コンテナを、しっかりしたクレーンのある車で出し入れできる。出し入れできるのは二つ、トイレと、荷物など。

 トイレの改修工事は、半日かからない。水管や冷暖房ダクトや電線を、血管を二か所縛ってその中間を切るように二か所止めてその間を切り離し、コンテナごと引っこ抜き、新しいコンテナを突っこみ、いろいろつなぎなおすだけだ。

 コンテナはそのまま規格化されたトレイラーに乗せて、修理・清掃工場に送ることができる。床や壁も清潔だ。

 いや、陶器便器すら必要ない。床も壁も便器も一体成型のプラスチックでひと月ぐらいで交換すれば。工場の巨大な食器洗い機で洗ってもいいし、リサイクルしてもいい。

 もう一つの箱は、引っ越しを含む、大規模な荷物の出し入れに使う。また、キッチンなどの別の汚れる部分に使ってもいい。

 店としても、商品補充すら必要ない。店の売り場そのものを交換すればいいのだ。


 もちろんコンビニエンスストアなども、毎朝コンテナを交換するだけになっている。


 それだけではない。この合理都市では、多くの建築物が規格コンテナでできている。レ*ブロックの建物のように。

 エレベーター・階段・トイレ・給湯室などは独自のコンテナを正しくつなげるだけ。

 ビルの種類によっては、薄い鋼板をコンクリートで塗り挟んだコンテナ箱を積んでいき、普通より頑丈な結合具で固定するだけで出来上がる。

 巨大ビルが、普通の鉄筋コンクリート工法より圧倒的な短時間で。ついでに環境破壊も極小。

 特に解体が早い。結合具を外すか破壊し、大きいクレーンで箱を上から順に外して、規格トレーラーに積んで運び去るだけなのだから。

 ビルが大きいホール・会議室・吹き抜けなどスペースを必要とするものであれば。箱を面・辺・頂点に分けて考えよう……

 辺、柱と梁だけの箱をコンテナのように運んでもいい。

 場合によっては、結合金具と結合金具の間を、頑丈な鉄筋コンクリート柱でつなぐこともある。

 いくつかの面、いや柱をぬかし、周囲の梁を頑丈にすることで広い空間を作ってもいい。

 やりようはいくらでもある。本質的に、コンテナ規格の箱を積み上げて作られていることが変わらなければいい。



 斜路。これも規格化されている。かなり急な坂と同じぐらいの傾斜で、それがあれば七階までエレベーターなしでいいと法的に定められている。大幅に安価になる。

 その斜路は多段ギア自転車で登れるし、台車を押して上ることもきついがなんとかできる。

 小さいエンジンや電池モーターのついた、きわめて遅くしか動かない車を用意するビルもある。

 そしてこのシステムがあると、かなり長さがある、規模の大きいビルが得になる。

 用地買収などがかなり変質するのだ。



 またいたるところを通るパイプ……それは、上から見れば都市のひとつのブロックをくまなく、一筆書きで通っている。

 パイプの中の、上のほうには細いモノレールが通っている。最大重量30キログラムぐらい。

 そこを、小型の原動機付自転車程度のエンジンがついた自動機械がモノレールを利用して走る。ゴルフバックも西瓜スイカも入る、規格化された小さいコンテナをのせて。

 それがすべてを運ぶ。

 宅配便も。郵便物も。食料も。レンタルビデオの貸し出し返却も。牛乳配達も。何もかも。

 無人、全自動で、自動機械は規格小コンテナを郵便ポスト程度どこにでもある箱におろす。受け取り箱に自動的に固縛される。

 受け取る人が電話などで知った番号を入力すれば、コンテナを固定する機構が外れ引き出せるようになる。またマスターキーを、専門の数十人をまとめる管理者が持っている。長期間放置は自動的にわかるようになっている。

 一筆書き。一つの直線モノレールと同じになる。特定の番号を検知し、そこに落とすだけ。遠回りではあるにしても、交通問題は一切ない。単純な機械で可能。

 パイプは下半分を開けてメンテナンスできる。あちこちに空気穴が下向きについており、エンジン排気も処理できる。

 食料がエンジン臭で汚染されたくないなら、密封性の高いコンテナを使えばいい。

 技術水準が上がれば、中を走る自動機械は電化できる。箱もバーコードを読ませれば、あるいは携帯端末と通信させれば簡単にコンテナの固縛を解放できるようになる。


 筆者が1985年ごろ、親族の入院の見舞いに行ったとき、大病院の天井にはレールが張り巡らされてカルテが走り回っていた。

 やる気さえあれば、金さえ出せばできたのだ。宅配便の必要性を完全になくす、労働力を桁外れに節約できるこのシステムが。


 いや、それどころか津々浦々にあるタバコ屋を宅配便預かり、また通販のカタログを見て注文して半金預け、数日後に品を受け取って金を払う場に使ってもよかっただろう。


 食料とゴミが同じパイプを走ることに耐えられるなら、あるいはふたつレール入りパイプを作るなら、ごみ処理すら粗大ごみ以外完全に自動化できる。



 その規格都市は、確かに初期投資は莫大にかかる。

 だが、一度動き出してしまえば、恐ろしいほどの金を節約できる。

 膨大な金を生み出し、長い目で見れば税金をとても安くできる。多くの費用がかからない。膨大な労働力をほかの目的に移せる。

 本質的に、都市内部だけだ。特に宅配レールは、比較的狭い都市内部しか恩恵にあずかれない。簡単に都市郊外に広げることができない。

 規格都市に住むかどうか。最初に高い金を払い、狭い都市に住んで、長い目で見て膨大な金と手間を節約するか。単純な選択だ。



 今の日本も世界も、資金の行き場がないという。

 ならばこれをやってしまえばいいのに……

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