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冷遇職ガンナー

 3人の男は道路に倒れこんだ和人を見下ろしていた。


 巨体の大男と痩せぎすの男、そして小太りの男だ。あのチンピラたちである。彼らは和人が完全に気を失ったのを確認して、その体を漁り始めた。


 そして、すぐに硬貨の入った財布を見つけると、それを取り出して自らの懐に入れる。一通り目ぼしいものを漁った後、大男が和人の体を担ぎ、残りの二人は和人の担いでいたショットガンを持つ。そうして、彼らは一言も喋ることなく歩き出した。


 チンピラたちは和人を襲って何をしているのか?問われるまでもなく、和人から金品を強奪しているのだが、それにしては少しおかしい。


 というのも、彼らの表情には罪悪感どころか、喜悦の表情すらない。ただ、表情で歩いている。まるで人形のように……とまではいかないが、作業をする時のような雰囲気だ。


 その原因は、和人のジョブがガンナーだから。この世界のハンターの間で、ガンナーというのはハズレのジョブなのだ。


 理由は2つ。まず、他のジョブと比べた時の特徴というのが何もないのだ。剣士であれば近接戦闘特化、魔法使いは強力な魔法が使える、といったようにどのジョブにもそれを有用たらしめている特徴がある。


 しかし、ガンナーにはその特徴がない。銃を構えて、引き金を引くだけなのだから当然ではある。そのため、どれだけレベルを上げて、訓練しようとも、同じように努力した他のジョブにかなうことはない。


 そして、武器に金がかかりすぎるのも理由だ。ショットガンやその銃弾を考えればわかるが、非常に複雑な構造をしており、口が裂けても簡単に作れるなどと言える代物ではない。そんな装備を作るのには、当然ながら莫大な金銭が必要となる。チンピラたちが和人からショットガンを奪ったのも、後で売るためだ。それだけで金貨数枚の値段になる。銃弾についても同じだ。


 それゆえに、ガンナーはハンターたちから冷遇されている。

 そして、その冷遇こそが、チンピラたちが和人を襲い、運んでいるのをまるで作業をするかのように無感情で行っている理由。ひいては、ハンターたちが和人に悪気ない悪意を向けていた理由である。


 和人は、冷遇されていたにも関わらず、今までにハンターたちから暴力を受けたり、あからさまに侮辱されることは全くなかった。これはハンターたちの良心がそうさせたのだろう、と和人はそう思ったのだが、それは正解でもあり不正解でもある。


 ハンターたちのガンナーに対する認識は、『ハンターになったのにまともに戦えない欠陥品』だ。そんな彼らへの感情は、侮蔑よりも同情のほうが色濃い。


 例えるならば、彼らにとってガンナーは、必死になって人間の真似をしようとしている犬のように見えている。

 ガンナーと自分たちは対等ではない。だからこそ、必死に食って掛かる和人を見て憐れんだり、馬鹿にしたりこそすれど、暴力や罵倒はしない。だって、それはただの弱い者いじめなのだから。


 憐れみや嘲笑も悪意あってのことではない。弱者の必死の足掻きに、ついついそうなってしまうだけだ。


 そのため、チンピラたちが顔色一つ変えずに和人を襲い、まるで朝起きて洗面所で顔を洗うがごとく自然にその体を運んでいるのは、彼らにとってこれは『処理』であり、作業だからだ。


 さて、この『処理』だが、彼らにとって一体何の意味があるかというと、行動そのまま--金品の強奪だ。その金を今後の生活の資金とするための。和人をターゲットにしたのは、ガンナーでパーティを抜けられたから。腹いせというわけでは決してなく、それによる損失を体を張って支払って貰おうと(傍点)考えただけだった。


 別に路地裏で襲ったり、こそこそする必要はなかった。それこそ、ハンターギルドで無理やり奪ってもよかったのだが……そこは、彼らの良心が仕事をしたのだ。

 「無理やり奪って抵抗するのを押さえつけるのは心苦しいから、昏倒させてせめて何も知らないうちに全てを終わらせよう」という最悪の方向に。


「……着いたか」 

 

 今まで一言も喋らなかった、大男がそう口にした。


 チンピラたちは和人を殴り倒してその体を運んでいた。その行先はもちろん治療院などではない。一体どこに運んでいるのか?出てきて当然の疑問だ。


 話はかわるが、この世界のハンターたちの間で『ガンナー冷遇』はもはや常識である。そのため、ハンターになってギルドカードを作り、そこにガンナーと書かれていれば、その人たちは皆肩を落として別の仕事を探すのだ。


 仮に続いたとしても、他のハンターたちから向けられる憐憫と嘲笑にやる気が萎えてしまい、1週間も持たないのだ。


 何が言いたいかというと、ハンターになってから毎日仕事に来ていた新米ハンターが、突然ギルドに来なくなっても、それがガンナーなら特に怪しむことはないのだ。


 チンピラたちの行っている『処理』。その最終段階を行う場所こそが、彼らの目の前に広がる風景である。


 彼らの前には、数多くの草木が青々と茂っている。昼間であれば、晴れの青空が頭上には広がり非常に鮮やかな景色が映っていたことだろう。だが、今は夕方。空は朱に染まり、辺りの草木も鈍い赤色に染まっている。


 そう、ハンターたちがクエストなどで向かうあの、新緑樹海だ

 チンピラたちは考えた。もし、和人から金品や武器を奪ったとして、彼がどんな行動にでるのか。普通なら、泣き寝入りだろう。だが、この1週間彼を見てきて、どうにもそうするようには見えない。彼は他のガンナーたちとは違い、ガンナー冷遇のことを知らないようだったし、身をもってそれを体感した今でも、まだハンターを続ける素振りを見せていた。


 そんな彼が、武器を奪われた、金を取られたと知れば必ずそれを取り返そうと動くだろう。ギルドではハンターの闇討ちは自己責任ということになってはいるが、万が一ということがある。まさしく飼い犬に手を嚙まれるような状態にはなりたくないのだ。


 その時、彼らの滅多に使うことのない脳細胞はこう告げた。


「昏倒させて寝ている間に森に置き去りにすればいい。森で勝手に『処理』されることだろう」


 その考えに従い、チンピラたちは和人をその場に置き去りにしたのだ。ちなみにだが、寝ている間に自ら手を下さなかったのは、またも彼らの良心が耐えられないと訴えたからだ。


 弱い動物を虐待しているように感じて、気が引ける。だったら、置き去りにすれば森で死んでくれるだろうということだ。そもそも、この状況こそが虐待に当たるのだが、チンピラたちはそんなことには考えがいたらず、和人には目もくれずに街へと戻っていく。


 さて、状況を整理しよう。


 今、和人は何も持っていない。財布どころか、武器であるショットガンもチンピラに取られたからだ。つまりは、完全な丸腰状態…………


 そして、その和人が寝ているのは魔物が生息する森。そのうえ、日は落ちてきて暗くなってきており、周りには木が数多く立ち並んでいるというのも視界をより悪くしている。


 この状態で魔物に襲い掛かられでもしたら対応するのは困難だろう。1体程度なら逃げ切れるかもしれないが生息地で1体だけしか出てこないわけがない。

 

 そんな絶望感溢れる状況に和人が気づくのは、もう少し先のことなのだった……

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