美香の夏祭り
花火が打ち上がる。 夏祭りの締めくくりだ。
花火を見上げる浴衣姿の彼の横顔を、私は見つめていた。
私は、思い切って彼の手を握ろうとするが、やはり勇気が出ない・・
(ここで握れなかったら、チャンスはない! よし・・! )
彼、優也とは同じ高校のクラスメイトだ。
いつから彼に惹かれだしたのだろうか、私は優也を夏祭りに誘った。
彼を誘うとき、私は泣きそうになる程に緊張した。
(もし、断られたらどうしよう・・ )と。
並ぶ夜店の灯りに照らされつつ、彼を待った。
(少し早かったかな・・ )
カゴ巾着から、ハンドミラーを取り出すと、ヘヤピンを整える。
緊張しながら待つ私の前に彼が現れた。
沙綾形の柄に紺色の浴衣が、とても似合っている。
「美香、お待たせ。 じゃ、行くか」
そう言うと彼は、夜店の灯りの中へと溶け込んでいく。
「あ、待ってよ」
私は、優也の一歩後ろへ付き、人混みに飲まれないように、歩みを進めた。
二人で水飴を買い、夜店を見ながら彼と並んで歩く。
「人混みはすごいけど、楽しいな! 」
私はその言葉に頷く。
「今夜は、花火も打ち上がるらしいよ! 」
また私は頷くと「そうなんだ! 」と返した。
緊張して会話が続かない。 心臓の鼓動は止まない。
「美香、今日はどうした? 体調でも悪いのか? 」
彼は首を傾げながら、私に尋ねる。
違う、ただ緊張し過ぎて、彼の言葉が入ってこないだけだ。
「ううん、全然大丈夫! 別に体調なんか悪くないよ! 優也、心配し過ぎ! 」
そう言い、平静を取り繕った。
「まぁ、そっか! お前に限って、それはないか! 」
と笑いながら優也は言った。
「何それぇ、サイテー! 」
私は、ふてくされて見せた。
本当は、彼と手を繋いで、他愛ない会話を楽しみながら、歩きたい。
でもきっかけがない、どんなタイミングで手を握ればいいのだろうか?
握れたところで、どんな顔をして彼を見ればいいのだろうか?
頭の中でそんな思いが、ぐるぐると巡っていた。
「おっ! 美香、そろそろ花火が始まるみたいだぞ! 」
周りには人だかりが出来ていた。
夜空に破裂音を含んだ光の花が咲く。 周りの人々は一斉に空を仰いだ。
そんな中、私だけは彼の横顔を見る。 これが今日の、最初で最後のチャンスだ。
覚悟を決めた私の手を、空を仰いだまま、優也は握った。
(えっ? うそ・・! )
花火の破裂音なのか、心臓の鼓動なのか分からなかったが、夜空一面に広がる、光り輝く花たちは、私の夏の忘れられない、思い出となった。
「これが、旦那との一番良かった思い出かな・・ 」
私は、近所のカフェで、ママ友達と会話しながら、午後のひと時を楽しんでいた。
「美香、いつもこの話ばっかりするよね? 他にはいい思い出とかなかったの? 」
「そんな事ないよ! 優也とは、色々あり過ぎるくらいだよ! ・・あ、そろそろ幼稚園に迎えに行かなきゃ。 じゃ、また明日~! 」
この物語はフィクションです。
読んで頂きありがとうございます。
過去2作品とも読んでくださった方々には、誠に感謝を申し上げます。
今回も女性の視点から執筆させていただきました。
物語を制作するのは、やはり大変ですね(汗)
慣れてきたらもっと長い小説も作りたいと思っております。
今後ともよろしくお願い申し上げます。