あられ先輩
朝起きると、俺の部屋に先輩がいた。
心地よい眠りから目を覚ました0.5秒後のことだった。
俺を覗き込む先輩の麗しい顔が俺を完全に覚醒させた。
史上最速で覚醒した。
バッチリ目が覚めた。
意識もしっかりしてる。
なぜ先輩がいるのだろうか。
もしかしたら俺が寝ぼけているだけかもしれない。
俺は起き上がって、グーで自分の頬をぶん殴った。
「うわ、なにしてんの」
冷めた様子の先輩が、セルフグーパンによって歪む視界に映った。
彼女の名前は氏家あられ(うじけ あられ)。
キラキラネームもびっくりするほど輝かしい名前だ。
小学生の頃、男子たちに「あの走り方やってよ」とからかわれたのを原動力にして陸上部に入部した、長距離が得意な逞しい先輩だ。
「幸汰.......」
黒髪をポニーテールに束ねた先輩はゴミでも見るかのように俺を見下ろしている。
「おはよ、先輩。元気っすか?」
「えぇ。あなたが起きるまでは元気だったわ」
このツンツンした感じが堪らない。
俺はひとまずベッドから出て、部屋の扉を開けた。
「先輩も朝飯食べます?」
「.....いただこうかしら」
俺たちは揃って部屋を出た。
「ごめんねぇ、あられちゃん。うちの子、なかなか起きないでしょ?」
食卓テーブルを俺、先輩、俺の母さんで囲む。
「いえいえ、今日から外部活の朝練が始まるので誘いに来ただけです。それにまだ時間もありますし.......全然大丈夫です!」
健気だなぁ、と味噌汁をすする。
俺と先輩はいわゆる幼なじみだ。
家も近く、家を出て5分で先輩の家に着く。
生活圏も似たようなもので幼稚園、小学校、中学校そして、高校も同じだ。
たとえ、一つ違いの運命として3年に1回離別しようと構わない。
将来的は俺のお嫁さんにするつもりだ。
ずっと一緒だ。
「さて、あと20分くらいで家を出ないと間に合いませんね.......」
先輩が手を合わせて「ごちそうさまでした」と呟く。
俺は味噌汁を置いて、ご飯をかきこんだ。