人形師の少年と彼に愛された人形
人形師と人形の恋のお話が書きたくて、書いてみました。
あるところに、美しい人形師の少年がいました。
少年は、何年もかけて、理想の少女の姿をした美しい1体の人形を創りました。
その人形は、他のどの人形よりも美しく、少年にとって、他のどの女性よりも美しい人形でした。
少年は、出来上がった人形を見て、一目で恋に落ちました。
少年は、その人形を、毎日、眺めて過ごすようになりました。
そして、人形に、毎日、話し掛けるようになりました。
少年に大切にされた人形は、いつしか、心を持つようになりました。
人形もまた、少年のことがとてもとても大切でした。
少年が話し掛けてくれる度に、人形は、少年に返事をしたいと思いました。
でも、人形ですから、何も言葉を話すことが出来ません。
少年が人形の頭を撫でてくれる度に、人形も、少年を撫でてあげたいと思いました。
でも、人形ですから、手も足も動かすことは出来ません。
人形は、次第に、自分が人形であることを、悲しく思うようになりました。
少年が自分のことを大切にすればするほど、人形は、どんどん悲しく思うようになりました。
あまりに悲しくなった人形は、涙を流すようになりました。
少年が悲しくなったらいけませんから、少年の寝ている真夜中に、人形は人知れず涙を流すのでした。
人形は、毎日、毎日、泣き続けました。
少年の寝ている真夜中に、ただ、毎日、毎日、涙を流し続けました。
それを気の毒に思ったある女神様が、ある日の真夜中、こっそり人形のところへやって来ました。
そして、女神様が人形に触れた途端、人形の目は瞬き、唇は赤みを帯びて、手足は動き出しました。
人形は、女神様の魔法で、人間になったのです。
喜ぶ人形に、女神様は、二つのことを告げました。
一つは、24時間経つと、元の人形に戻ってしまうこと。
もう一つは、もしその24時間の間に人間の男性から愛の言葉を得られれば、人間のままでいられること。
人形は、女神様にお礼を言って、早速、少年のところに行きました。
少年は、まだ寝ていましたから、人形は、朝になるのを待ちました。
朝になって、目が覚めた少年は、美しい少女がそこに立っていることに気が付きました。
「ご主人様、私は、人間になったのです」
人形は、そう言いましたが、少年は、人形の言葉が信じられませんでした。
少年は、いつも人形が置いてあった部屋に行きますが、そこには大切な大切な人形がありません。
少年は、何故、人形がないのか、その少女に問い掛けました。
少女は、自分がその人形だと言いますが、少年にはやはり信じられません。
少年は、少女に、何度も、人形はどこにいったのか、尋ねました。
少女は、自分が人形だと繰り返すばかりですが、少年はやはりどうしても信じられませんでした。
少年は、そんなことがあるはずがないと思っていたのです。
ですから、少年は、その少女が人形の美しいことを妬んだのだと思いました。
だから、少年は、とうとう、少女を家から追い出してしまいました。
追い出された少女は、ただ、泣いていました。
泣きながら、少年が、自分の言葉を信じてくれることを待ち続けました。
ぽつぽつと、雨が降り始めました。
少女は、寒いと思いましたが、大切な大切な少年の為に、雨の中、ずっと、待ち続けました。
ずっと、ずっと、信じて、待ち続けました。
ですが、少年が再び家に入れてくれることはなく、24時間が過ぎてしまいました。
いつもなら、少年は寝ている時間でしたが、家の中をずっと探し続けても、
大切な大切な人形が見付からなかった少年は、家の外も探してみようと思い、とうとうドアを開けました。
すると、そこには、雨に打たれて、すっかり汚れてしまった人形の姿がありました。
人形は、家の方を向いて、ドアの前に立っていました。
まるで、泣いていたように見えました。
その時に、少年は、気が付いたのでした。
確かに、あの少女は、人形ととてもよく似ていたことに。
何故、人形がこんなところにあるのか、その理由に。
少年は、人形に、心からの謝罪の言葉を言いましたが、人形からはもう何の返事もありませんでした。
少年は、人形を抱きしめました。
そして、少年は、泣き始めました。
そのまま、少年は、ずっと、泣き続けました。
夜が明けるまで、少年は、人形を抱きしめて、ずっと、泣き続けました。
人形からは、ぽろりと、涙が一粒、こぼれたのでした。
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