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ありすに笑う  作者: めあり
一章 宗教神の傷と
9/24

玖 傷と絆が身に染みた。

 週末。

 土曜日。


 学校が休みと言うこともあり、ゆっくりじっとりしっとり、そしてのんびりとベッドで惰眠を貪っていたかったわけだが、しかし、今日はそういうわけにも行かなかった。

 そう、土曜日。

 休日である。


 いい加減起きなければ、とスマホの時刻を見れば午前八時半。約束の時間は十一時なので、まだ今しばらくの時間はあるのだけれど、何だかかんだか、気持ちが落ち着かないので早く起きることにした。

 毎回、気持ちが落ち着かなく朝からみっともなくそわそわしているので、自分自身でも気持ちが悪いと言うか、意気地がないと思う。まったく、しっかりして欲しいものだ、と自分自身に溜息を吐いた。


 さて。

 だらだらと眠気まなこを擦り、スマホの通知を確認しながら、一階へと降りる。ながらスマホは危険とはよく言ったものだが、もはや慣れてしまったことなのでそう簡単に階段から落ちることもない。

 とは言え、今年に入ってから十五回階段から落ちたので説得力と言うものはまるで皆無なわけだが──そもそも、今年で十五回落ちている癖に飽きもせず反省もせず戒めもせずに、またこうやって毎日階段を降りながらスマホをする自分が恐ろしい。自分で言うのも何だが。


「おーはよー」


 とか何とか、だらしない声を出しながら、リビングへと繋ぐドアを開けた。瞬間に、お味噌汁の良い香りが鼻を擽る。


「あ、おはよう。おにぃちゃん」


 エプロンを着た悠莉は、寝癖もまだついた情けない兄を見ても何食わぬ顔をしながら、瞳を向けた。

 見れば──いや見る必要もないが、朝ごはんを作るため台所に立っている。今日はどうやら和食なようで、リビングを開けたときに流れてきたお味噌汁の香りもなるほど納得出来た。


「もう少しで出来るからね」


 なんて手際よく作業をしながら、僕に言葉を向ける。一方、向けられた当の僕は「おー」なんて返事なのかどうかもわからない声をあげながら、だらしなくダイニングの椅子に座り、テレビを見ることにした。

 出来た妹を持って誇らしく思う分、僕はなんてだらしないんだなんて嘆くことなく無遠慮でテレビを観ているあたり、本当に恐ろしいと思う。


「はい、どうぞ」


 数分して、悠莉はだらしなく情けなくテレビを観ていた僕の前に、朝食であるご飯を盛ったお茶碗と、お味噌汁をよそったお椀、そして焼き魚を乗せたお皿を一枚、ことりと置く。もう出来たのかー、なんて陽気に思いながら、しかし悠莉にはありがとうと感謝の意を込めながら、悠莉も同様に自身の朝食をテーブルに乗せたところで、いただきますとふたり一緒に手を合わせた。


「うーん、おいしい」


 お味噌汁なんて、誰が作っても同じなのだと彼女のものを飲むまで思っていたわけだが、そんなことはなかった。試しに自分で作ってみたものと、そして彼女が作ったお味噌汁では、味の違いから言えば雲泥の差だ。月とすっぽんと言ってもいい。どっちもどっち。どっちでもいい。


「えへへ、ありがとう」


 そんな僕の言葉を聞いて、嬉しそうに、けれども照れたように顔を朱で染めながら、彼女は笑う。やはりその顔は、どう見たって美少女であった。肩で揃えられた甘い茶髪は、いつも以上の輝きを放っているとさえ言える。もちろん、おそらくそれは気の所為なのだろうけれど。


「今日って、何時に出るの?」


 悠莉は、ご飯を可愛く少なめに箸で取って口に運びながら、僕にそう訊いてくる。


 はて。


 彼女には言っていないつもりだったけれど、いつの間にか、僕の気付かぬうちに、漏らしてしまったのだろうか。

 いやまあ。いやいやまあまあ、そのこと自体を彼女に言ってしまう行為自体が、決して悪いことではないし、と言うか妹なのだし、言ったってなんら問題はないわけだけれど。


「ん、ああ」


 そんな僕の顔を見てか、それとも僕の心を読んだのか、何かを察したような顔をし、悠莉は唸った。


「おにぃちゃんのそわそわしている、意気地のないような顔を見てれば、今日行くのか、なんてことくらいはすぐにわかるよ」


 兄妹だからね、と付け加えながら、彼女は口にご飯を放り込む。


 うーむ。

 何だか、たしかに自分自身でさえ、自分を『意気地なし』とか何とか比喩してしまったわけだけれど、改まって他人に言われたら、ちょっとイラッとしてしまうのは事実である。


「ああ、なるほど。そういうことか。十一時だよ、待ち合わせ時間は」


 しかし、そんな思いはこころの奥底にしまい込んで、平然を装って、僕は質問に答えた。とは言っても兄妹なのだから、それくらいのことで一々怒ってなんていられないだろう。世界一寛大なこころ、世界一寛容な精神を持っていると定評のある(自称)僕なのだから、やはり尚更だ。


「十一時かぁ……」


 と、ご飯を飲み込んでから、彼女はううむと何か考えごとをしている。

 果たして、何を考えているのかと言うのは、いくら兄妹だからと言って、兄である僕ですらわからないことではあるけれど。


「まあ、そういうことならいいや」

「いや、そういうことがどういうことかわからない僕にとっては、まったくもってよくないんだけど」


 そんな僕の言葉は無視し、うふふーとか鼻歌交じりに笑うから、思わず頭痛がしたのでこめかみを抑える。結局その、『そういうこと』がどういうことなのかについては教えてくれないようだったので、諦めることにした。人間、一番大事なのは諦めることである。それは言い過ぎにしても。


「お土産よろしくね」

「いやよろしくねじゃねぇよ。何故お前にお土産買わなきゃいかんのよ」

「だって外出するときは絶対お土産買ってくるでしょう?」

「お前の言ってること、つまり学校に行く度にお土産買ってこなきゃいけないってことじゃん」

「ああ、そっか」


 まるで今気づいたような言い方をした彼女に、食器類をシンクに持っていくついでにチョップした。

 あいたー、とか、さいてー、とかなんとか、声が聞こえてくるわけだが、最低なのはどっちだ、と頭を抱えたのは言うまでもない。

日常系は得意だと思います(たぶん)

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夏果ての僕、きっと世界は救えない。
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