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ありすに笑う  作者: めあり
一章 宗教神の傷と
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伍 如くその日はクズの仲間。

指摘されたので書いときますが、阿須舌マキヤ視点です。

「やっと起きたのかい、マキヤくん」


 目が覚めたら、妙な女が立っていた。

 俺は彼女を知っているが、けれど、妙だ。

 こいつには俺の居場所を伝えた覚えはないし、何より、こいつに俺の居場所が伝わないようにいろいろ試行錯誤をしてようやくここに辿り着いたわけだが、何故知っているのだろうか。


「まさかこんなところでホームレスをしているなんてねー……」


 ぐんと背伸びをし、「やれやれ」と肩を竦める彼女。


「ホームレスじゃない。ちゃんと仕事をやっているんだ、俺を向こうのやつらと一緒にするな」


 と、俺は向こう岸にいる、段ボールの上で寝ていたまさしくホームレスと言うような風体の男を指さす。


「一緒じゃないか。例え仕事をしているからと言って、君もここで生活しているんだろう? むしろ、何が違うと言うんだい?」


 その言葉を聞き、やはり返す言葉はなかった。

 そうだ……俺はホームレスだ。橋の下に住む、れっきとしたホームレスである。

 しかし、『そういう類い』、つまりは『神々の悪戯』についての専門家だ。

 家無し職無し希望も無しお先真っ暗なあの男と一緒にされるのが、心底不満なだけなのだ。


「まあ、いいよ」


 と、くるりと回り、その無駄にデカイ胸を強調するかのように、胸を張って、それを俺に向けてくる。

『ほれ、これがいいんじゃろ?』とでも言いたげなドヤ顔で俺を見てくるので、思わず、


「誰もお前みたいなおばさんに興奮なんてしねぇよ」


 なんて、語気を荒げ言った。


「おばさんとは失礼だね、失礼極まりないね、ほんとに常識がなっていないね。お姉さんだよ、お姉さん。謎のお姉さん、雅楽神がががみ 千紗菜ちさなさんだよ」

「自分で自分のことをお姉さんと言う奴は、だいたいおばさんなんだぜ、覚えておけ」


 ぶぅ、と膨れっ面を見せるこいつは、もう三十路を超えているころにも関わらず、見た目は二十代……下手したら十代にだって見えてしまう、世間的に美少女と呼ばれる部類に入るだろう。

 とは言っても、おばさんおばさんと言っているが俺の歳もこいつとさして変わらないので、自分も歳をとったな、なんてしみじみ思う。


 ◇


「でお前、何しに来たんだよ」


 謎のお姉さん(笑)を適当にあしらうのも疲れてきたので、さっきからずっと気になっていたことを訊いてみる。


「君が橋の下で何も食べず飲まずしていると風の噂で聞いたもんだから、急いで駆けつけたんだよ」


 まるで心から心配しているようにも見えるこの顔だが、しかし信用してはいけない。いったいこの顔で、何人もの男を誑かし、欺いてきたことか。俺は被害者が出る度に、仕事が増えてムカついているのだ。


「で、本当は何なんだよ?」


 急かすように、俺は訊く。

 一刻も早く、こいつをこの場から消し去ってやりたいのだから当然といえば当然だ。


「来るんだよ」

「来るって……何が?」


 もったいぶった言い方に、やはりイラッとくる。


「結梛君だよ」


 そっと呟かれた名前に、聞き覚えはあった。

 八月。普通の学生なら夏休みを謳歌しているであろう頃に、彼、つまりは結梛ゆうなぎ火憐かれんは、異世界へと転移させられたのだ。所謂、『そういう類い』、『神々の悪戯』によって。


「何故結梛が、ここに来るんだよ」


 訊けば、うーんと首を傾げ、考える素振りをする。

 やがて何か思いついたのか思い出したのか、「あぁ!」と手を叩いた。


「厄介事を持ってくる。かなりの厄介事だ」

「厄介事……?」

「きみが言うところの『神々の悪戯』についてなんだが……これは少し面白そうだ」


 ニヤニヤと頬を緩め、ひとりぶつぶつ何かを言っていた彼女であったが、いきなり、「それでは私は帰るとするよ」と、何処かしらに消えてしまった。

 ひとり橋の下に残された俺は、さっきまで騒がしかったぶん余計静かに感じてしまいながらも、思う。


「あいつこそ、帰る家なんてあるのかよ……?」


 その場暮らしのあいつは、おそらく俺以上にホームレスだ。


 俺はポケットからタバコを取り出す。


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夏果ての僕、きっと世界は救えない。
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