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ありすに笑う  作者: めあり
一章 宗教神の傷と
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參 うんざり勇者は夢を見る。

「…………」


 ──石のごとく固まった生徒達が、ただ虚空を見据える光景であった。


 それが、果たしてどれくらい異様な光景なのか、賢明な読者諸氏ならばおわかりになるだろう。

 つまりは固まった二年B組の生徒達全員が、ただ黙って一点を見つめている。まるでそれは──『モアイ』のように。

 異様すぎてそれは、吐き気を催すほどの光景で、やはりこれは『そういう類い』の案件であり、あからさまなる『神々の悪戯』ということだ。


 そんなものを見て、思わず息を呑み、黙り込んでしまっていた僕たちは、やがて時間を取り戻したように動き出した。

 それでも彼らはぴくりとも動かないけれど、しかし僕らは動き出す。


 どうやら、あの教室内だけらしい。

 確証はないけれど、でも、今の僕たちから察するに、教室内だけ、その、つまり『集団催眠』の効果はあるらしい。

 あくまで、教室の中だけで、神はつまるところの能力を発揮しているらしい。


 そう。


 教室の中だけ。


 少ない情報で判断をするなと、その専門家、阿須舌あすしたマキヤは言っていたけれど、しかし今の状況を見る限り、やはりこの教室内に犯人がいるのかもしれない。


 ただの予想、ただの憶測に過ぎないが。


「なんだ、よ……これ」


 息が詰まり、途切れ途切れにやっとの思いで出た言葉は、それだった。それだけだった。

 眼の前の光景が、およそ現実のものとは思えなくて、思わず隣にいた彼女に、問う。

 紛れもない、二年B組の教室だよ、と至極当然な答えは返ってくるけれど、しかしまあ、信じられない。

 やはり、この世のものとは思えない。


「これが、『集団催眠』──」


 思っていたよりもものすごい光景に、足が竦む。がくがくと震え、歩くことさえも困難になるほどである。




 と、刹那──




 ガタッ。


 音がした。

 誰ひとり動くことのなかった教室内から、そんな、まるで立ち上がる為椅子を引くような音が、したのだ。教室内で、響いたのだ。


 ガタッ。ガタッ。ガタガタガタ。


 やがてその音は、波紋を作るように教室内に広がってゆく。


 そう、動いたのだ。

『集団催眠』で、石のごとく固まって、動くことのなかった、つまりは二年B組の生徒達全員が、その瞬間、動いたのだ。立ち上がったのだ。


 そしてみな、まるで何事も無かったかのように、鞄を持って教室から出ようとしたり、はたまた、そばにいた友達やらと談笑したりしている。

 さっきまでの光景が嘘だったかのように、夢だったかのように、時は動き出す。


「────」


 言葉さえも出なかった。

 さっきは、石のごとく固まっていた生徒達を見たときは、息が詰まって言葉が出なかったが、しかし頑張れば出せる程度であった。途切れ途切れの言葉であったが、何とか出せる程度であった。

 しかし今は、今回は、それさえも出来ない。頑張ることなんて、端から出来るはずもなかった。


「ね?」


 隣の美少女は、僕を向いて、確認するように首を傾げる。




「だから、『集団催眠』なの」




 ◇


「で、結局どうしたの? その……集団モアイ催眠、だっけ? 依頼、解決したの?」


 その日、石のごとく固まった生徒達を見て、足が竦んで歩けなかった僕だけれど、自分の意志に背く両足を引き摺りながらやっとの思いで家に帰り、それを妹である悠莉に伝えた。


「そんな、一日で解決できるほど、僕はプロではねぇよ。えりなにも言ったけれど、とりあえず明日あたり阿須舌に訊いてみることにした」

「自分で考える気ゼロなんだ……」

「いやいやそんなことはないよっ!」


 と、呆れ半分悲しみ半分のような溜息を吐いた彼女を見て、僕は弁解すべく、手を大きく振る。


「僕だって、ちょっとは考えはしたさっ! ちょっとだけど、いやでもちょっとくらい考えたさっ! でも思いつかなかったんだよ、そもそも神についてそんなに詳しくない僕みたいな専門家擬きが、ひとりで解決なんて、到底不可能なんだよっ!」


 早口で言ったもんだから、まるで言い訳のように聞こえたかもしれないけれど……しかし、断じて違う。弁解って言っちゃったけど、違う。決して違う。


「…………」


 そんな僕を見て、まるで不審者、もしくは犯罪者を見るような目をしているのは、紛れもない悠莉である。

 まさに無言の圧力。むしろ重圧。いや一周回って重力。

 今この瞬間、僕の周囲の空間は、きっと歪んでいる。と言うか絶対歪んでいる。

 よく性格が歪んでいると言われる僕だが、さすがに周囲の空気まで歪んでいると言うのはいささか不満だ。


「そんなんでちゃんと話聞いてくれるのかな……?」


 うーん、と顎に手を当て、首を傾げる彼女は、美少女であった。さすがに、僕の彼女であるところの愛咲えりなには少しばかり劣るが、どっからどう見たって、やはり顔は整っている。

 首を傾げたときに揺れる、その、肩のあたりで揃えられた茶髪は、周囲の光を全て吸収し、煌びやかに光っていた。


「あの人は適当だからな……、まあ、問題ないだろ。たぶん」

「そういうおにぃちゃんもかなり適当だけどね」

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夏果ての僕、きっと世界は救えない。
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