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ありすに笑う  作者: めあり
二章 女神の無音
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壹 逆らえずとてそこに亡き者と。【挿絵あり】

第2章『融解少女編』消しました。すみません。

 思えば、あれだけたくさん『夏休みのときは』とか何とか言っておきながらも、未だその概要を明かしていなかったことに今更ながら気づいてしまった。


 別段、それを語るわけにはいかない、語ってしまうのならば死んだほうがマシだと言うような断固とした思いはまったくもってないわけだけれど、しかしそれを語ることを本当に忘れてしまっていたと言うのはいささか無理があるだろう。


 薄れゆく記憶の中でも、やはり僕はそれを語ることを躊躇っていたのかもしれない。


 もしくはそうなってしまった過去を、悔やんでいたのかもしれない。


 何より恥ずかしかった可能性だって、あったかもしれないわけだし。


 躊躇。後悔。羞恥。


 いずれにしても、今となってはそれが本当に起こったことなのか、そんなことでさえわからなくなってしまった僕にとっては、果たしてこの事実を語ることが出来るのかなんて何処かの誰かさんが心配しちゃうかもしれないけれど、生憎それは杞憂と言えよう。取り越し苦労とさえ言えるかもしれない。


 とにもかくにも僕にとっては、今、なうで脳内に残っている僕自身の記憶がすべてであり、もっと言えば、たとえそれが嘘の記憶なのだとしても信じ続けるまでなのである。


 その記憶が勝者の歴史だとしても。


 僕は僕を信じ続ける。


 それがこの僕──結梛火憐に課せられた使命であり、義務であり、そうして権利である。


 だからこそ僕はそんな歴史を信じ通すしかほかにはないし、そして彼女……結梛悠莉、もとい血に濡らされた烈火の剣『ありすいんざありす』が彼女らしくあるために、生きるために、彼女自身もそれを信じなくちゃいけない。


 とは言えそれは、たぶんこれから先どんどん崩れていってしまうだろう。


 なんてことはない。いつものことだ。


 しかし、たとえ僕のすべてが崩れてしまったとしても、彼女は彼女であってほしい。


 最強として最善であり最愛の大天使であるのか、終末として終極であり終焉の堕天使であるのか、それは勝者の歴史に沿っていうのであれば後者なのかもしれないけれど、それでも彼女は、生きていてほしい。


 僕の妹としても、僕の堕天使としても。


 末永く、幸せに生きてほしい。


挿絵(By みてみん)


 結局問題、最終日まで費やしてしまった、あの二度と経験したくない夏休みにおいて言えば僕はバカだった。いいやここは、盛大に馬鹿にできるように『馬鹿』と漢字を使っても構わないくらいには、僕は馬鹿で、そして間抜けだった。


 もちろん、僕が馬鹿で間抜けだったからこそ、こんな悲惨で凄惨で、そうして不愍この上ない事件が起きてしまったのだろうけれど、それ以前に、僕が僕自身を馬鹿で間抜けだと罵倒する前に、僕は無知だったのだ。


「無知は罪なり」などと言う、よく聞く言葉があるように、だからこそ僕は、罰されるべき人間なのだ。

 無知であるからこそ今回の事件を引き起こし、無知であるからこそすべてを掻き乱し、そうして無知であるからこそ、誰かに頼って解決した。


 いや、まあ、それを言うなら今の僕、つまり夏休み以降の事件や事故を解決するときの僕だって、誰か──たとえば『そういう類い』の専門家、阿須舌マキヤなんかに任せっぱなしの部分も多々あっちゃうわけなので、どうだろう、この夏休みのころの僕と、今現在の僕とでは、たいして違いはないように思う。どころかむしろ、中途半端に知識がある今は、無知であることよりも余計質が悪いのかもしれないと、今更ながらのことを今更ながら思う。


 だからこそ、中途半端に知識を持ってしまったからこそ、僕はもう『そういう類い』のことに関わらざるを得なくなってしまったわけだし、究極的には、関わって、そして解決をしなければいけない立場にいるのは確かである。もちろん、ひとりでの解決。


 ゆえに必然的に、僕は彼女と出逢い、そして、堕ちた。


 何かが始まることもなく、さりとて何かが終わることもなく、言うならば始まりの終わり、終わりの始まり。


 僕が始まって、彼女が終わり──僕が終わって、彼女が始まった。


 それがあの夏休み。思い出したくもない、二度と経験したくない、思い出すだけで逃げたくなってしまう、夏休み。


 白状しよう。


 僕はそんな夏休みに──異世界転移をした。


 そして、堕ちた大天使に出逢った。


 たったそれだけの物語を、ようやく僕は語るのである。


 ◇


 僕は、異世界転生をするのが夢であった。


 いやいやまあまあ、もちろんそんな、死にたいなどと言う自殺願望がひしひしと僕の胸の中で滲み出ているわけでは決してなく、ただ単純に、「将来の夢は?」と尋ねられたときの対処法として僕はその言葉を放ちたいと思っていた。将来の夢が、一度死んだあとでしか叶えることが出来ないと言うのは、何ともかんとも、かなりとても皮肉なことではあるわけだが。


 とは言え、そう言ったって、あくまでひとつのジョークとして僕はその夢を持ち合わせていただけであって、本当にそんな、異世界に行ってみたいとは毛頭思っていなかった。


 僕のそんなくだらない、ある意味で笑うことも出来ないジョークのつもりで持っていた夢が、今回のこの事件──繰り返したくもない、夏休みの事件が起きてしまった原因かと言うと、そういうわけでもなくって、たしかに『噂をすれば影がさす』なんて諺のように向こうからやってきたと言う可能性もやっぱりなきにしもあらずなわけだが、しかし最大の原因と言えば、僕の日常生活にあっただろう。


 日常生活、と言うのも、僕には友達がいなかった。

 かと言ってこんなカミングアウトは、別に驚くようなことでもなく、事実、今までの物語を知っていればわかるように、僕は同級生においては彼女である愛咲えりなとしか話せないわけなので、実質的ぼっちだ……ぼっちに実質的も形質的もあるのかと言われれば、首をぶんぶんと振って否定するしかないが。

 とかく僕には友達がおらず、つまりぼっちだったわけだが、その理由は当人である僕でもわかるほど、はっきりしていた。明白であった。


 理由と言うのも簡単で、ときに僕は、変に変人であろうとし、変に異端ぶっていたわけなのだから、むしろ逆に、これで友達が出来てしまっていたらさすがにびっくりしてしまう。


 そう。


 僕には友達を作ることにおいてのスキルが壊滅的になく、しかしそれを恥じることなくどころか誇ってさえいる節があるので、だからこそ僕は万年ぼっちなのである。それが変人であろうとした結果であり、異端ぶってしまった結末だ。


 だけれどしかし、そんな僕に友達がいないことがどうして異世界転移をしたと言うこととイコールで結ばれるのかと訊かれれば、それもまた簡単な理由であり、明白である。


 ぼっちであるがゆえに変な連中によく絡まれやすく(具体的にはチンピラとか、僕と同じくぼっちと化してしまったオタクとか)、そしてたまたまそんな連中の中に変なやつがいて(そうは言っても僕より変人ではないだろう)、たまたまそいつの中の神様が僕を異世界へ飛ばしてしまった、と言うだけなのである。


 その宿り主が、どういう経路を辿って、どういう思考でどんな願い事をし、そしてその神様がどんな解釈をしてしまったのか──それは後々語ることにして、だ。


 どうあれこうあれ、異世界へ行くという(転生ではなかったが)僕の一種のジョークであった夢が実現したことによって、僕の周辺の環境が一気にガラッと変わったことは確かなわけだし、そして僕はそんな環境の変化に簡単に気づくこともなくただ順応しようと必死であった。


 今回の事件の唯一の汚点とも言える僕の無知加減さには、振り返っている今、僕自身でさえ愚かだと思える。


 くだらない妄想をしているだけでは、どうやっても異世界に行くことは出来ない。


 考えてみたら、わかるものであろう。


 異世界へと旅立ってしまった人間の周辺の環境──すなわち家族や友達、恋人などが、それから先ごく普通に、自然に暮らせるものなのだろうか。


 そんなことにさえ気づかない連中は、本当に……それはもう僕以上に、愚かと言っても差し支えないだろう。

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夏果ての僕、きっと世界は救えない。
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