貮拾 愛すじゃなくてありす。
◇
「…………はぁああああああああああっ!!」
僕は咆哮する。
咆哮しながら、紅く濡らされたその刀身を、悪魔のように怒る神に叩きつけた。
瞬時に振り翳したその刃は、やはり対神と言うだけあって、右腕を蒸発と比喩しても過言ではないくらいに、一瞬で消滅させた……さながら灰のように。
その、既に消えてしまった腕があった場所からは、代わりにどっと血が溢れ、ありすを紅で濡らす。あたりには、血が飛び散った。
続けて二発、三発と刀を思いっきり叩きつけ、左腕左足がこれまた消滅。血が吹き出す。
あくまで斬るのではなく、叩きつける。
単純に斬るよりも、刀身を神に叩きつけたほうが効率がいい──とありす本人は言っていたけれど、でもそれが本当のことなのかはさて置き。
《────!?》
神は、右腕左腕左足を失ったことによって、さらに顔を怒りで歪めた。相変わらず、そのことばはわからないけれど。
「…………ッ!」
しかし。
しかし、神のことばがわからなくたって、ヤツが何をしようとしているかくらいは、一目でわかった。
──肉体再生。
消滅したと思われていた両腕片足は──僕が一瞬眼を離した隙に、それら全てを再生していたのだった……いやむしろ、再生と言うよりも元に戻ったと言ってもいいくらいに。
そう。
神様は当然のごとく、治癒能力を持っていた……あの神に限らずとも、どの神だって、当たり前に持っている。
迂闊だった。
いや、たしかに神には治癒能力があると言うのは知っていたのだけれど──それでも、こんなに早いとは思わなかった。
これはこの眼の前の神に限る話なのだけれど、ごく稀に、治癒のスピードがとてつもなく早い神がいる。
それがまさか、こいつだったとは……。
「くっそ……!」
その事実を確認しながら、僕は一旦間合いを取る。
そして、ふぅ、とひとつ息を吐いた。
息を吐いて、気持ちを落ち着かせて、上がった息を整えていた──直後。
やられっぱなしだった神は、いつの間に手に入れたのか、西洋風の剣を僕に向かって振り下ろす。
その攻撃を間一髪のところで避ける僕。けれど髪の毛が掠れていくばくか切れてしまった。
神の攻撃はそれだけに収まらず、二度、三度とその馬鹿でかい剣を振り回す。僕はそれを避けるので精一杯で、とてもじゃないが反撃できる隙もない。
そうして。
「いいっ…………たぁああああああああっ!?」
ただ乱雑に振り回されていた西洋風のサーベルは──ついに僕の脇腹に直撃した……同時に、脇腹の肉が抉り取られる。
「か…………はっ!」
思わず、その場に座り込んでしまったが、しかし神の攻撃はまだ止まらない。
僕にサーベルの切っ先を突きつけた神は──「これでトドメ」と言うような顔をしていた。
……いや実際、これがトドメなのだ。
僕が──『普通の』専門家擬きならば。
《────!?》
神は、その剣で僕の躰を貫く──!
貫く──その寸前で。
僕は。
ありすいんざありすで、神のサーベルをへし折った。
「治癒能力が使えるのは、何もお前だけじゃないんだぜっ!」
異能力【回死治療】。
それが僕の──アイデンティティ!
ともかく、ヤツの剣をへし折った今がチャンスである。
絶好のチャンスだ。
「ふぅ……」
一度息を吐いて──
「…………うぉおおおおおおおおおっ!!」
──僕は弾丸ごとく飛び掛った。
足がはち切れそうなくらいに思いっきり走り出す。
そうして、神を眼の前にするくらいに間合いを詰めて──僕は烈火の剣を力の限り、思いっきり叩き込んでいった。
腕がもげて千切れんばかりの速度で、僕は何度も、何度も何度も、神の全身に刀を叩きつける。
右手。
左手。
右足。
左足。
胴。
闇雲に。ただ思うがままに。本能の赴くままに──僕は次々と神の身体を灰のように蒸発させて往く。
全身は血で溢れかえり……。
そして。
トドメは……!
頭を──貫く!
《────!!》
頭に刀を突き刺したところで、ようやく神はその存在を全て消した……跡形も無く、雪躪紀色の神様は、この世──どころかあの世からさえも、消え去った。
これが神狩り。
僕の専門で、そしてありすいんざありすの大好物でもある──
「…………かはっ」
宿り主だったユキニジムは、そんなことばにならない声を上げて、それから気絶した。
こうして、今回の『事故』は解決したのだった──




