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ありすに笑う  作者: めあり
一章 宗教神の傷と
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貮 似つかわしい誰と僕。【挿絵あり】

「はぁ……」


 結局、彼女が言っていた『集団モアイ催眠』と言うものは一体全体何なのか、具体的にはどういうことなのか知ることも出来ずに家路についていた僕は、思わず溜息が漏れてしまう。


 九月だからと言って、季節はまだ夏だ。

 空は青く明るく、僕の進む道を鮮やかに照らしてくれている。


 しかし夏だ。

 照り付けるその日差しは、僕が進むのを拒んでいるようである。


 暑い。


 単純に暑い。


 自転車通学とは言え、しかしそれが良いものとは限らない──照る照る太陽に、やはり溜息が出る。


 そんな汗と涙の混じった僕の溜息は、やがて真っ青に晴れ渡った空へと消えていった──と言っても、そもそも溜息は見えないんだが。


 溜息を吐けば幸せが云々と言うけれど、僕の場合、そんなものは信じることはない。

 いくら『そういう類い』の専門家に憧れて、そして専門家擬きになったからと言ったって、占いとか迷信とか伝承とか、そういうものを信じるようになったわけではないのだ。


『そういう類い』、つまるところの『神々の悪戯』と言うものは、結局、神が関係している。神が関与している。


 僕は神を信じると言うのは、仕事上仕方ない、致し方ないわけなので、しょうがない。

 けれど占い迷信伝承なんてのは、あまりにも胡散臭くて、信じない……と言うか、信じられない。


「はぁ……」


 思いながら、僕はまた息を吐いた。

 それが溜息だったのか、無意識的に吐いた息だったのか、僕にはわかったことではないが──まあ、そんなことはどうだっていい。せいぜい、幸せが逃げるかどうかの話でしかないのだから。


 そしてその吐息が、果たしてこの暑さによるものなのかと問われれば……決してそういうわけでもないだろう。

 強いて言うなら原因は、目の前の小さな画面。


『集団催眠』


 そう検索されたスマホの画面には、如何にも胡散臭そうな文字が並んでいる。


 試しに調べてみたら、これだ。

 どれもこれも、胡散臭いものばかり──どころか挙句の果てには、某トレーディングカードゲームまで出てきちゃったのだから、思わずスマホを地面に叩きつけようかとも思った……もちろん後が怖いのでそんなことできるはずもないが。


「明日、か……」


 つまり神は言っているのだろう。

『明日を待て』と。


 ◇


「たでーまー」


 家に帰れば、そこはまさに楽園であった。

 比喩なんてものではなく、本当の楽園。


 言うまでもなく、リビングで我が妹であるところの悠莉ゆうりが、パラソルさしてビーチチェアに座ってのんびりとジュース飲んでいる。相変わらず何やってんだお前。


「あ。おかえりおにぃちゃん」

「いや、あのなお前……家でくつろぐのはいいけどさ、何でパラソルさしちゃうの? 片付け面倒くさいでしょう? と言うかよくひとりで出来たね。むしろ褒めてやりたいよ」

「ううん、ひとりじゃないよ。さっきお父さんが家にきて、手伝ってくれたの」

「お前らふたり揃って何やってんだ……」


 本日二度目の頭痛がして、思わずこめかみを抑えていると、悠莉がレモン的なものをぶっ刺した、青色のジュースとは到底呼べない液体を僕に差し出してきた。


「おにぃちゃんも、飲む?」

「飲まねーよ。つーか、片付け手伝わないからな?」


 言って、冷蔵庫を開ける──


「──」


 空だった。


 悠莉が全部飲んだようだ。全てあの青色の変な液体と同様に、悠莉の体内に吸い込まれたと言うのか。なんてことだ。なんて体だ。


「やっぱジュースくれ、悠莉」


 ◇


 翌日。


 結局昨日は暑くて寝れたもんじゃなく、いや実際には寝れたんだけど寝た気はしなく、思いっきり目の下に隈が出来た状態で、僕は学校に行っていた。

 今日は自転車の気分ではなかったので、ちょっと時間はかかってしまうけれど、歩きを選んでの登校だ。


 ちょっと時間はかかると言っても、それでも歩いて行ける距離だ。そう遠くはない。


 それに今日は、存外過ごしやすい気温で、今朝の天気予報では二十五度前後と言っていた。

 九月とは夏であるけれど、また同時に、秋でもある。


 僕の好きな季節は春なわけだが、しかし同じくあったかい、もしくは涼しい秋も、やはり僕は好きだ。

 それに僕は桜が好きと言う理由だけで春が好きなので、春でも秋でも、究極的に言ってしまえば、どちらでも良い。と言うか、どうでもいい。


 と、無駄でも無さそうな考え事をしていれば、いつの間にかの学校だ。

 田んぼに囲まれたこのクソ田舎に、どんと聳え立つまるで城のような校舎は、計り知れないくらいの存在感を持っている。


 案外疲れもなく、やはり歩くのはいいな! などとひとり喜んでいれば、後ろから声がかかった。


「おはよ、今日は自転車じゃないんだね」


 言うまでもない、愛咲えりなだ。僕の恋人で、学校一どころか日本一の美少女と言っても過言ではないほどの、容姿端麗な少女である。


 今日も相変わらず、流れ流れる黒髪を踊らせて、周囲の男子たちの視線を占領していた。


「まあ、たまにはいいかと思って」


 微笑で返しながら、靴を脱ぐ。

 それを下駄箱にしまうと、彼女を向いた。


「今日、調査するんだろ? 集団催眠」

「そう。今日は部室に寄らずに、二年B組の教室の前に集合で」

「わかったけど……でも、何で二年B組?」

「いや、だから──見たらわかるよ」


 そうとだけ言うと、彼女は職員室の方向へ小走りで向かっていった。教師に呼び出されでもしたのだろうか……。


 ◇


 では、気を取り直してアフタースクール。

 放課後と言えば何故だかかぜだか、ティータイムをしたくなっちゃうわけだけれど、生憎僕にはそんな趣味はないしバンドもやっていないので、準備を済ませると、すぐさまに二年B組の教室前へと向かった。

 すでにえりなは来ていたみたいで、じっと教室を見ているようだ。そういえば一応はクラスメートなのに、何故別々に行く必要があるのだろうと疑問に思ったけれど──今考えるのはやめておこう。


挿絵(By みてみん)


「お待たせ」


 言いながら彼女に微笑む。

 えりなはこちらを向いて、私も今来たとこだからなんて微笑み返しながら、教室内を指さした。


「──」


 さて。


「集団、催眠……」


 納得がいった。


 確かにこれなら、そう呼んでもおかしくない、と言うか、そう呼ぶしかないのだろう。

 だってこれは、化学では証明できないようなことだし、そして、この原因は明白だ。

 呆れるくらいに明らかなその原因は、僕の専門。

 専門家擬きと言っても、それくらいの区別はつく。



 僕の眼前に広がったのは──



 ──石の如く固まった生徒達が、ただ虚空を見据える光景であった。

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夏果ての僕、きっと世界は救えない。
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