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ありすに笑う  作者: めあり
一章 宗教神の傷と
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拾漆 最近の最強の最悪は最曲。

 今日の秋空は、心地が良い。

 まあ、それは朝から思っていたことではあったわけだが、実際、改めて空を仰いでみたらその気持ちは倍増した。


 あのとき。

 あの何でもなかったような夏休みに見た夏空も、こうやって、酷く晴れ渡っていたものだ──と思考を巡らせたところで、阿須舌の住む(と言っていいのだろうか)橋──正式名称は『堯魔槌あきまづち橋』と言うらしいその橋に、辿り着いた。そう言えばこの橋の名前を初めて知ったとき、何とまあ怖い名前だと思ってしまったのだけれど、よく考えてみれば、何だかとても格好いい名前だな、と僕は感じる。


 たしかに、『魔』と入っているのはちょうと怖いし、正直言って名付け親のセンスが疑われるのだが、まあそれでも、格好いいと思う。純粋に、僕はそう思う。


「遅せぇよ、結梛」


 そんなことを思っていたら、阿須舌の前まで既に辿り着いていた。彼はここに来ても何も言わない僕を見て、痺れを切らしたのか、それとも遅かったことに怒っているのか、ちょっと語調を強め言った。


 ◇


「犯人は──こいつで間違いないだろうよ」


 阿須舌が指さした男子生徒に、生憎ながら見覚えはない、どころか自分のクラスメートまで覚えていないくらいなので、むしろ他のクラスの生徒に見覚えがあるなんてことは絶対問題なかった。


「んで、この生徒の名前は……?」

「知らないよ。て言うか知ってたら既に言ってるよ……」


 申し訳程度に肩を窄めながら、僕は答える。


「知らないって……お前まだぼっちなのか? 友達もいないのか? そんなんじゃお前、彼女なんか絶対出来ないぜ」

「いや、彼女は──違う違う。そんな話をしに来たんじゃない……。阿須舌」

「……何だよ」


 僕がそう呼んだら、阿須舌は真面目な顔で返答をしてきた。おそらく、僕の気持ちが伝わったのだろう。ここからは、本当に大事な話なのだから。


「『彼女』を、使うべきだろうか……」

「んなこと俺に訊くなよ。あいつはお前の従僕であり、奴隷であり、ペットなんだぞ? 使うか使わないかなんてお前次第だし、それに、どう使うかだってお前次第なんだから。全部、お前が決めろ」

「そ、そうだよな……」


 何だかとても辛辣なことばのように聞こえるかもしれないけれど、それでもやはり、それは正論の他ない。正論中のド正論で、反論なんて、できっこなかった。


 ──もう、腹を括るしかないのだ。


「わかった……明日、解決する」

「おう。頑張れ」


 だから、これはやらなきゃいけない。

 早く片付けようと固く熱い決意を胸に、僕は堯魔槌橋の下から出た。残念なくらいに晴れている空は、やっぱり秋のものだ。


 あの──夏空ではない。


「──」


 明日、全て解決する。

 全てが終わり、そして、彼ら彼女らの日常が始まる──


 僕は自転車に跨った。


 ◇


「何してんだ、お前」


 結梛を見送ったところで、俺はタバコを買いに外へと出かけた──とは言っても、すぐそこの自動販売機に行っただけだが。


 まあともかく、タバコを買ってそして鼻歌混じりに帰ってきてみれば、また、妙な女がしゃがみこんでいた。また、である。

 俺は彼女を、もちろん知っているけれど、それでも妙だ。

 つい四日前に、「結梛が来る」とか何とか、ここに忠告に来た癖に、また来ているのが妙に感じてしまった。いや実際、妙なんだけれど。


「何してるって……見てわからないのか?」

「わからないから質問してるんだろうが」


 こっちを向くまでもなく、その女は何か作業をしている。作業に集中しているようではあったが、さすがに自分の寝床にそんな、何か変なものを施されていたのなら、訊かないわけにもいかないだろう。俺は、たとえ彼女に今どんな事情があろうと、この答えが出てくるまでしつこく訊くつもりでいた。


「まったく……何も知らないマキヤくんは好きではないなぁ……」


 言いながらも、やはりこちらを向くことなく作業を続けている。ビニールが擦れる音が、微かに聞こえた気がした。


 そもそも。

 物事を『好き』か『嫌い』かで分別する輩が、俺は心底嫌だった。

 その『嫌』は、果たして『嫌い』と言うものに分類されるのならば、俺の言っていることは矛盾しているのかもしれないけれど、まあ、つまりそんな自分が嫌いだと思ってもらっても構わない。


 だから、そう。

 俺のそんなところが嫌いと言う彼女に、酷い嫌悪を感じた。もちろん、普段から彼女のことが嫌な俺なのだけれど、それとはまた別な嫌悪がある。


「そんなことはどうでもいいんだよ。だから、さっきから何してんだって訊いてんだ」


 俺がそう問うと、ようやくと言うべきか。彼女は俺を向いて、俺の目をきっちりかっちり捉えて。


「『魔女狩り』の準備をやっているんだよ──」


 忘れていた。


 そう言えば彼女は、魔女狩りの専門家であった。

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夏果ての僕、きっと世界は救えない。
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