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ありすに笑う  作者: めあり
一章 宗教神の傷と
13/24

拾參 遍く片鱗は須くなくなる。

「で、どうだったの?」


 デジャヴ。


 フワプリの映画を観た僕たちだったわけだが、その後何だかかんだか適当にそのへんをぶらぶらし続けていたら五時前になっていたので、帰ろうと電車に乗った。そして無事自分の街に着き、彼女を家まで送ってから。


 帰ってきた矢先。

 帰って、ドアを開けた瞬間のことである。

 例によって例のごとく、「たでーまー」なんて気怠くあいさつをする間もやはりあるはずもなく、彼女、もとい我が妹であるところの悠莉ゆうりは訊いてきた。


 果たして、その「どうだったの?」の『どう』が、僕の学校生活についての『どう』ではないというのは言うまでもないわけだけれど、と言うか今日は学校も休みだから絶対問題そう言うのはありえないと思うのだけれど、何故か、本当に何故か、「今日もえりな以外とは誰とも話してないよ」と言う言葉が喉まで出かかってしまった。さながらMDプレーヤーであるかのように、再生されようとしていた。おかしな話だ。


 ちなみに、と言ってはなんだが、そして、『また』と言うしかないのだが、『今日も』のあたりまで出てしまっていたのはもはや必然と言うべきだ。本当に、おかしな話ではあるのだけれど。


「今日も?」

「今日も可愛いね」

「えへへ……ありがとう」


 じゃなくって!

 悠莉は顔を朱で染めながら、しかし怒ったようにふがーと唸った。


「女の子にそう易々と可愛いって言ってちゃ、彼女が何人もできちゃうよ! ちょっとは自重して!」

「なんで褒めた僕が怒られなきゃいけないの……?」


 うーむ、難しい年頃だなあ、なんて思いながらも、僕は靴をぬぎぬぎ。


 さすがに、『今日も』が口から出てきた時点で玄関の扉は閉めていたけれど、まだ靴は脱いでいなかったわけなので、とりあえず状況を変えることにした。玄関で話すのは、あんまり僕としては好ましくない。


「ともかく。中で話そうぜ、悠莉。リビングで、ゆっくり話そう」


 僕は、イソノを野球に誘うナカジマのこころを思いながら提案し、そしてリビングに這入る。


 相も変わらず、白で統一された殺風景で生活感のない部屋なわけだけれど、むしろ何年も住んでいたら、愛着なんかが湧いてきちゃうものだ。

 シンプルなものが嫌いな悠莉の、ほんの少しの抵抗か、最近はカラフルな家具が増えてきている気がしないわけでもない。が、それは残念ながら無駄に過ぎないのだ。結局無駄な抵抗でしかない。なぜなら、いつも増えた家具は彼女の部屋に戻しているからな! なんて最低な兄なんだこいつ!


「で。で。どうだったのよ、デート」

「なんだよ、その無駄に高いテンション」


 うりうりー、恥ずかしがらずに話してみろよーと酒に酔ったおっちゃんのような謎テンションで、僕をつついてきた。本当に酔ってるんじゃないだろうか。大丈夫かしらこの娘。


「どうって、別に、楽しかった以外ないよ。そもそも、緊張してて常時震えっぱなしだったわけだし、あんまり記憶に残ってなかったりする」


 まあ、それは言い過ぎにしても、だ。

 例えば、あのときこんなこと話したなー、とか、そう言う断片的な思い出はいくつも残ってはいるのだけれど、しかし、全体を通して見てしまっては、あんまり覚えていないのだ。変な話僕が緊張しすぎている所為で、こういうことになるだけなんだけど。


「ほーん。最低だね、おにぃちゃん」


 うおお、辛辣辛辣。

 こういう、つまりは恋愛ごとに関しては、どうも厳しかったりする悠莉先輩のことばが胸に刺さって、もしかしたらもう一生立ち直れないかもしれないと悟った僕を尻目に。

 彼女は、またもこのセリフを吐いた。


「だからおにぃちゃんはヘタレって言われるんだよ……」


 とほほ、とやはり溜息を吐いた。

 呆れ半分、悲しみ半分、そしてちょっと軽蔑の意もこもっているであろうその目を向けられながらも、僕はちょっとばかし考えた。反論を考えた。弁解する余地はないだろうかと、必死に考えた。

 だけれど。


「まあ、否定はできない……」


 できるはずもなかろう。

 できるもんならやってみたいわ。


「なんなら今日、ホテルに泊まればよかったのに。ていうか帰ってこなくてよかったのに」

「なんかさり気なくいらない子扱いされてない!?」


 帰ってくんなってちょっと酷すぎやしませんかね……。

 と、今度は僕が溜息を吐いていると、そうだ、と彼女は手を叩く。わざとらしすぎて、また溜息が漏れそうになるのを我慢しながら、悠莉の提案を聞くことにした。またどうせ、くだらないことなんだろうけど。


「次のデートでホテルに泊まらなかったら、一生家に入れないから」

「はぁあ!?」


 いやいやいや。

 全然くだらなくない。くだらなくなさすぎてむしろくだらない。もはやこの思考がくだらない。

 これじゃあまるで、本当にいらない子扱いされてるみたいじゃないか……されてるみたいって言うか、事実、されている。

 いらない子だったんだね、僕……。


 泣きそうな顔でいる僕を一瞥しながら、反対に嬉々とした表情で鼻歌混じりにスキップをする少女に、またしても溜息が出てしまった。


 あーあ。

 僕も、とうとう卒業しちゃうのかな……。

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夏果ての僕、きっと世界は救えない。
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