拾貮 やがてその地に参上す。
「あー、おいしかったー」
ラーメンも食べ終え、少しばかりとんこつくさくなってしまった僕たちではあったが、ふたりともそんなことは気にせず、そそくさと映画館へと向かった。
◇
向かった、とは言ったものの、かなり遠くなってしまったのが事実である。
寄り道──と言う程でもないのかもしれないけれど、あっちへ行ったりこっちへ行ったり、何だかんだあーだこーだしていたら、上映時間の一時四十分に間に合うか間に合わないか、ぎりぎりの時間となってしまっていたのだ。
べつに、僕自身はそれくらい、間に合うか間に合わないかなんて細かいところはどうでもいいのだけれど、しかし今日に限っては、彼女──愛咲えりなが大好きな『フワプリ』の映画なのだから、彼女自身はものすごく急いでいた。油断したら置いていかれそうな勢いで。
一時三十七分。
そして、まあ、何とか映画館に辿り着いたのが、そんなぎりぎり間に合うか間に合わないかの時間である。予想通り──なんて言ってしまうのはどうかと思われるかもしれないが、それはさておき、とにかく間に合ったのはたしかだ。
まだとんこつのにおいをほんのりと残しながら、僕らは受付に並ぶ。急いで来たため、汗もかいているわけで、それが相合わさってかなりきついにおいとなっていた。けれども、受付に必死の表情で並ぶ彼女を見てしまっては、そんな、四の五の言ってられないのだろう。どんだけフワプリに命かけてんの。
一時三十九分。
ようやく順番がまわってきて、僕は若干躊躇いながら
「劇場版フワプリを、高校生二枚で」
と、早口で捲し立てるように言う。
受付のお姉さんは一瞬戸惑っていたようだったけれど、席の指定は、とか何とか訊いて、誤魔化したようだ。僕は適当に前の方の席を指定し、急いで劇場へと向かう彼女に続く。受付のお姉さんから軽蔑の目で見られたのは、言うまでもなかろう。
「ぎりぎりセーフ……」
一時四十分ジャスト。
『劇場版フワプリ〜みんなトモダチ! ハッピープリンセス〜』の劇場に、僕ら──フワプリオタクの女子高生と、元女児向けアニメオタクの男子高校生は、這入った。
もちろん、席に座っているのは女児かその母親ばっかりなのだが、よく見れば、そんな母親なんかに紛れこんで、俗に言われる『大きなお友達』がいるのもたしかである。ふー、ふーと鼻息を荒くして、映画が始まるのを今か今かと待ち焦がれていた。おおう、あんな大人にはなりたくないぜ……。
とは言ったものの、僕は、そんな女児向けアニメオタクを否定するつもりもない。と言うかまあ、僕自身そう言うオタクだったのだから、否定のしようがないのかもしれないけれど、とにかく、兎にも角にも、「あんな大人にはなりたくないぜ」と言った矢先、そんな言葉を思わず放ってしまった僕なのだけれど、しかし、『何かひとつのことに熱中する』と言うことに関して言えば、むしろ彼らは尊敬に値する人物とさえ言える。
何の恥じらいもなく、恥ずこともなく、自分の意思を一貫して貫いている様は、どっからどう見たってかっこいい。そう言う点は、見習いたいわけだけれど。
ともかくとして言いたいのは、つまり、ふー、ふーと鼻息を荒くしている様は、見習いたくないと言うことでだな──
「ちょっと? カレン?」
「ん、ああ、悪い……ぼーっとしてた」
「もう……映画始まるよ?」
言われてスクリーンを観る。今はお決まりのカメラの姿をした男が、頭がパトランプの男に捕まっているところであった。
「て言うか、カレン。フワフワミラクルライト、持ってる?」
「? フワフワミラクルライト……?」
はて、と思っていると、えりなはカバンの中から三本のライトを取り出した。
「まあ、ないだろうと思って、一本余計に持ってきてたの」
はい、と渡されたそれは、ピンクの蛍光色が眩しい、ライトであった。
なるほど、某プリティでキュアな映画よろしく、このフワプリにも、そういう応援要素があるのか……。これは、騒がしくなりそうだな……。
「あ、始まるよ……」
もうカメラ男はお縄についたようで、とうとう映画が始まる。
幼女とおじさんがほとんどのこの空間で、ただみなは息を潜め、息を呑み、物語が始まるのを待っていた。
やがて周囲の照明は完全に消え、眼の前の大スクリーンに映画が映し出される──。




