冷凍人間
お姉ちゃんは委員長との出会いを話し始めた。
「りょうか(委員長)と出会ったのは中学2年の頃だったわ。
最初の印象はどこにでもいる普通の女の子って感じ。
当時は眼鏡を掛けてたかしら。
清楚で物静かな女の子って感じだった。
同じクラスだったけど接点はなかったわね。
忘れがちだけどりょうかはあなたと同じ留年組。
ていうか、あなたのために1年留年しているんだからね。
で、話を戻すと一学期は特に話すこともなかった。
私は能力が既に発現していて仲間集めに奔走していたから無能力の彼女に特に関心を示すことはなかったの。
ところが夏休みに入って状況が激変したの。
8月に入ってすぐだったと思う。
うちの寮で連絡が取れない生徒がいるという情報が入ったの。
夏休みに入ると実家に帰る生徒が多い中、私たち能力者は寮に残って鍛錬しているものが多い。
私は当時から生徒会長だったからいろんな生徒の面倒を見ることも仕事だったの。
いろんな生徒の鍛錬の指導をしながら私自身も仲間との鍛錬をしていた。
りょうかは当時は無能力者と分類されていたけど特殊科の生徒だったから学力は当時から飛び抜けていた。
特殊科の生徒は全員寮に残ることは義務づけられていたから当然彼女も寮に残っていた。
そんな彼女が突然消息を絶った。
当時は大騒ぎだった。
私も捜索に借り出されたの。
でも、灯台もと暗し。
彼女は寮の中にいた。
彼女の部屋はなぜか結界が張られていた。
能力者の私でなければ見逃すほどの強い結界。
「チャイルズ」になりたてだった私だからその結界に気づけたの。
運悪く彼女の部屋は角部屋。
他の仲間は結界が壁に見えてそれ以上進めないように見える。
私ぐらいの能力じゃないと結界の中に入ることも出来ないからね。
でもそれに気づくまで一週間ぐらいかかったけど。
私が壁をすり抜けるとみんな驚いていた。
あのときの顔は忘れないわ。
面白かったから。
不謹慎だけどね。
そして彼女の部屋に到着すると鍵はかかっていないのに扉が開かないの。
よく見ると扉が凍り付いて開かなくなっていた。
あなたの元カノの時のようにね。
私は入念に解凍し彼女の部屋に入った。
部屋の中に入ったら凄いものだった。
あなたの元カノの時なんて比じゃない。
全てのものが凍り付いていた。
驚いたのが彼女自身も凍っていた。
今のように透明な氷像のようになってね。
私は一目見て能力が暴走したものだって分かったわ。
でもこれは手遅れだと思った。
ここまで大きな能力の暴走は今まで見たことがなかったから。
もし、結界がなかったら恐らく寮全体が凍っていた。
それぐらいの暴走。
ちなみに能力が突如発現し暴走したとき、私たちは本能的に結界を張るみたいね。
実例が少ないからその仕組みは分からないけど。
話を戻すと私は彼女を一目見てもう手遅れだと思った。
昔、本で読んだことがあるの。
たまに能力の暴走で自分でコントロールできずその能力で本人が死んでしまうって言うことを。
彼女と話したことは(授業以外で)一度もなかったけどその時は涙が出たわ。
人の死に直面したのが初めてだったから。
私が泣いているときに突然、子供が現れた。
「泣いている暇なんてないんじゃない。
この娘はまだ助かるわ」
その子供が言っている意味が分からなかった。
ていうか、どうやってここに来たのか分からない。
強力な結界が張ってあるのに。
その子供は
「氷の能力は氷の能力じゃないと解凍できないの。
私の能力じゃ解凍できない。
あなたにしか出来ないんだから。
解凍の仕方は足下から解凍していくの。
下から上にね。
間違っても逆はダメよ。
確実に死んじゃうからね。
下から上に氷の能力、簡単に言うと冷気を当てていくの。
しかもかなり強力な冷気を当てていく。
矛盾しているけどそれで解凍できるから。
私はその子供の言うとおり、りょうかを解凍していった。
そしてりょうかは助かったの」
話が終わると委員長は元の姿に戻っていた。
そして泣きながらお姉ちゃんと抱き合っていた。
その流れで僕にも抱きついてきた。
正直、避けようとも思ったけどこの流れで避けるのは違うかなと思い仕方なくだ。
お姉ちゃんは
「りょうかの解凍はあなたの能力では無理。
ていうか力不足ね。
私は氷の能力のスペシャリストだから」
と誇らしげに語っていた。
お姉ちゃんは
「りょうかは能力だけだったら「チャイルズ」より上。
但し器は普通の能力者と同じていうか平均と比べると小さい方かしら。
だから一度能力を発動すると自分の身体では耐えられない。
多分実戦では無理ね。
彼女の能力のおかげで訓練なんて一度もしたことないし。
なんなら今回が初めてなぐらい。
大袈裟に言うとね。
りょうかは頑張り屋さんよ。
私たちの見てないところでも自主練は欠かさなかったから。
私はたまにアドバイスするぐらい。
余計な話だけど」
委員長は
「今日は私にとって良い経験になったわ。
本当にありがとう。
それにしてもこの部屋寒すぎない。
悪いけれど外に出させてもらうわ」
彼女はそう言い慌てて教室の外に出た。
お姉ちゃんは呆れて
「氷の能力者は寒さに強いのが特徴。
でも彼女は器が小さいせいか、寒さを感じるみたい。
全く私たち氷の能力者と違って難儀なものよね」
私たちって僕も入っているのだろうか。
確かに僕は氷の能力も持っている。
でも冷静に考えるとこの部屋は寒すぎる。
僕も一刻も早く外に出たい。
でもお姉ちゃんは氷の能力者とはどうあるべきかをさっきから滔々(とうとう)と語っている。
いつ話が終わるのか。
今はそれが地獄でたまらない。




