冷凍室
まだ、教育実習は続いている。
教育実習が始まってから1週間。
相変わらず姉の授業が難しい。
姉はとりあえず理科教師を目指しているらしいが物理以外の授業をやるつもりはないらしい。
最初は教科書通りの授業を行なっていた。
教科書どおりと言ってもうちの学校の教科書はどの教科も普通の高校のレベルを遥かに超えている。
ついてくるだけでも大変なのだ。
それなのに最近の姉の授業は自分の研究の発表会と化している。
もちろん教科書のレベルを遥かに逸脱している。
一応の指導担当の金時先生もお手上げ状態だ。
金時先生曰く
「私でさえもチンプンカンプンなのだから聞いている生徒も大変だな」
と呑気に話していた。
ちなみに金時先生の専門分野は「電磁気学」、姉の専門分野は「力学」と同じ物理学の中でも分野が違うらしい。
そして金時先生は姉の暴走した授業を止める気はないらしい。
唯一、姉の授業に食らいついているのはいるのは高梁さん。
僕のブレインの1人。
能力者ではないが理科のあらゆる知識を持っている。
僕は授業が終わるたびに彼女のところに行き色々と質問している。
授業が終わり、寮に戻れば姉がいるのだが姉に授業のことを聞くことはない。
というか聞けないのだ。
姉は寮に戻ると姉風を吹かせる。
そして今まで一緒に過ごせなかった時を取り戻すように色々と甘えてくる。
学校にいる時とモードが違う。
そこには優しい姉がいるのだ。
そして僕はいつも質問攻めにあう。
僕はその回答に四苦八苦しとても授業の内容を質問出来る雰囲気ではない。
そして何かというと
「お姉ちゃんに逆らうの?
妹なら妹らしくしなさい!!」
と遮られる。
僕は心の中で「妹ではなく弟なんだけど」と叫んでいるがとても実際に言えるような雰囲気ではない。
おかげで僕のルーティンは恐ろしく崩れている。
「時の掛け軸」には入れないし、読書という名の暗記術が出来ていないのだ。
おかげで本が怖いくらい溜まっている。
なにせ1日100冊が義務だから。
(もちろん、本を読むのにも能力を使います。
大体、それぐらいの量で1時間ぐらいかかります)
担任の三条橋先生は
「教育実習の時くらいは羽を伸ばしなさい。
姉妹の時間を楽しみなさい。
いつもの義務はしなくてもいいから」
と言われ免除されている。
ただ、その後が大変なのは言うまでもない。
そして、今日の放課後特別修行室に僕たちは集められた。
メンバーは姉と僕、委員長だ。
そして僕たちはブルブルと震えていた。
それも物理的にだ。
なぜかこの部屋はー20度に設定されていた。
委員長は特に震えていた。
それは精神的にでもある。
「授業が忙しく定期連絡もできなくてすいませんでした。
あなたの後におこがましく生徒会長の座に座ってすいません」
と委員長は姉に対して必死に謝っている。
一応、姉と委員長は師匠と弟子の関係だ。
姉は
「別に気にして無いから。
こっちも大学の授業で大変だから。
でも自主練は続けてね」
とクールににこやかに答えた。
僕たちがこの部屋に入って30分後、ある人物が部屋に入ってきた。
臨時職員の人だ。
「遅くなってすいません。
こちらも色々と立て込んでいて。
私も臨時職員とはいえ色々と大変なんです。
遠山さん(姉)の指導教員でもありますし。
あ、そういえば遠山さんは2人いましたね。
じゃぁ、あえて「いぶさん」(姉)とお呼びしますね。
それではこれから私の役目をお教えします。
私はいぶさんの担当教科のことは分かりません。
私の専門は数学ですから。
あえていうといぶさんの生徒指導担当ですかね。
全く専門外ですけど」
そして一息置くと
「それでは改めてと言いますか初めてですね。
自己紹介をします。
私の名前は代花 緑理。
能力は氷です。
冷泉さん(委員長)は知っているわね。
前に会ったことあるから」
委員長はビクビクしながら頷いた。
よほどトラウマがあるらしい。
姉もかなり緊張している。
代花 先生は
「これから放課後の1時間、ここに来て過ごしてもらいます。
特に何をするでも無いです。
あなた方には残りの5日間でこの寒さに耐えてもらえます。
できれば肌の露出が多い方が良いですがそれは明日から。
とりあえず今日は1時間この部屋の温度に耐えてもらいます。
そして時々、私が攻撃するので避けてください。
ただそれだけの修行です。
私が出来るのは氷の能力での攻撃ですが原始的なものです。
当たっても大怪我することはないので安心してください。
ただ1時間ジッとしているだけでは暇ですしね」
僕たちはその説明を寒さに我慢して聞いていた。
そして続けて
「明日からは水着で来てください。
流石に全裸というわけにはいきませんから」
僕たちは呆気に取られていると
「これは氷の能力の訓練です。
氷の能力を使えば寒さなど感じないはずです。
明日はー40度の世界。
毎日20度ずつ下げていき、最終的には−100度の世界に耐えてもらいます。
これで説明は終わり。
これから1時間みっちり修行しましょう」
というと彼女は真っ白な氷の蒸気の世界に消えていった。
「あ、言い忘れましたがあおいさん(僕)の絶対防御能力は私には効きませんからね。
ちゃんと対応策も練っていますから」
それから10分間、ただ、静寂な世界が続いた。
そしてしばらくすると誰かのあくびの声が聞こえた。
「ごめんなさいね、ちょっと寝てました。
色々と忙しかったもので。
じゃぁ、これから攻撃しますね」
そういうと、彼女は攻撃し始めた。
彼女の攻撃は伸び縮みする氷柱のソード。
それが何本も僕たちを襲ってくる。
それをひたすら避け続ける。
しかも時間もランダムで攻撃してこない時間が続いているなと思うといきなり攻撃してくる。
僕らが油断している時を狙ってだ。
しかも彼女自身の姿は見えない。
そう言った時間が1時間続いた。
そして修行が終わると
「明日はスク水ね。
別に深い意味はないから」
と言って去っていった。
そして約束通り修行は1週間(実質5日間)続いた。
僕らは耐え抜いたのだ。
凍傷を負い、直しての1週間。
かなり辛い修行だった。
終わった時には3人で涙して称えあった。
そして教育実習の期間は終わった。
これで一安心だと思っていたがそうは行かなかった。
その一ヶ月後、三条橋先生に急に呼び出された。
そしてこれからまた新しく厳しい修行が始まる。
僕はそのことも知らずに気楽に三条橋先生の部屋へと向かった。




