引き継ぎ
季節は過ぎ、やっと穏やかな季節になってきた。
3月にもなると桜のつぼみも段々と膨らみもうすぐはじけるかとも思えるようになってきた。
そして窓から外を見ると緑色が段々と増えてきたように思える。
そんなある日、僕は生徒会室に呼ばれた。
僕が入ってくるといきなり
「あなた、いい神経してるわね」
といきなり怒鳴られた。
見ると生徒会長がメチャクチャ怒っているように見えた。
生徒会長は僕の実の姉がやっている。
いろいろと説明は省くが一応1学年上だ。
そして姉の存在はこの学校に入って初めて知った。
僕と全く同じ顔の姉を。
一応双子なのだそうだ。
学年が違うのは僕の方に理由があるのであえて言わないでおこう。
姉はことあるごとに僕にスキンシップを求めたがる。
今まで会えなかったことを埋めるように。
そういえば3学期になってからは一度も会っていなかったっけ。
その事に怒っているのだろうか。
そんなことを考えていると姉は
「いい気なものね。
今日、卒業式だって言うのにお祝いの1つも言わないの?」
僕ははっと気がついた。
そういえば僕も4月になれば3年生だ。
姉は1学年上なのだから当然学校からいなくなる。
少し寂しさがこみ上げてきた。
姉は僕のその様子を見て少し呆れたように
「まぁ、いいわ。
しばらく会えなかったのはこっちの都合もあるし。
卒業式の当日になってこっちも寂しくなって呼びつけた訳だし。
それにこの学校からいなくなる訳じゃないしね」
「え、まさか留年?」
「んなわけないでしょう。
成績だって生徒会長らしくトップなんだから。
そういえばあなたは成績どうなのかしら」
「そんなことはどうでもいいよ。
寂しかっただけで僕を呼びつけたの?」
僕はあからさまに話題を背けた。
大体、今の僕は授業について行くだけでやっとなんだから。
姉は
「もうちょっと姉妹の会話を楽しみましょうよ。
しばらく会っていないんだから」
そんなことを言っていると姉の隣にいた副会長が咳払いをしながら
「ここはプライベートな空間ではありません。
そういったことは2人っきりでしてください」
と変な忠告をしてきた。
その直後、姉はキリッとした顔になり
「あなたにお願いがあるの」
と僕に言ってきた。
姉は続けて
「うちの生徒会は代々、生徒会長による指名で引き継ぎをしてきたの。
そこで提案なんだけどあなたに生徒会長をやって欲しいと思うの」
僕は即座に
「無理です。
今まで生徒会に1ミリたりとも関わっていなかったのにいきなり生徒会長なんて無理です!!」
と断った。
姉は
「それは困ったわね。
今の生徒会は3年生で構成されているの。
つまり、他の学年で生徒会に関わってきた人は皆無。
それでは逆にどんな人がいいと思うの?」
それから僕は腕組みをしながらしばらく考え込んだ。
そして僕より最適な人物が1人見つかった。
「そうだ委員長、冷泉 凌華さんが良いと思います。
元々、会長さんのお仲間じゃないですか。
今でも一緒に修行してるらしいですし」
姉はしばらく考え込んだ後に委員長を呼びつけた。
委員長は生徒会に急に呼び出された意味が分からずオタオタしている。
そして姉から説明を聞き、やっといつもの冷静沈着な委員長に戻った。
「話は分かったわ。
それには条件があります。
その条件をのんでくれたら生徒会長を引き受けます」
やっと話が片付いた。
大体、ギリギリの度が過ぎる。
卒業式の当日、しかもそれが終わってから次の生徒会長の引き継ぎっていくら何でものんびりすぎるだろう。
もう、僕の関係の無いことだからと生徒会室を出ようとすると
「副会長は遠山 葵唯さんにお願いします。
それが私が生徒会長になる条件です。
私を巻き込んどいて自分は知らん顔という訳には行きませんよ。
あ・お・い・さ・ん」
その時の汚れなき委員長の笑顔は一生忘れないだろう。
何せ今まで生きてきた中で1番ドン引いたんだから。
それからが大変だった。
今日中に残りの書記と会計を決めなきゃいけなかったんだから。
委員長は早速
「書記はどうしようかしら。
あおいちゃん、推薦有る?」
「僕の友達でメチャクチャ字の綺麗な娘がいるんだけどその娘でいいんだったら」
「もしかして沙藤 文奈さん?
あの娘は確かに字が凄く上手だけど・・・。
でも、生徒会室って能力者しかなれないって聞いたけど。
あの娘、無能力じゃない?」
姉は割って入り
「別に無能力でもいいんじゃない。
過去にいなかった訳でもないし。
その娘、特殊科でしょ。
私たちの事情を知っている人みたいだし学力も確かトップクラスじゃなかったかしら」
「それじゃぁ、書記はそれで決まりね。
後は会計だけなんだけど」
委員長がそう言うと姉がまた割って入った。
「1年生に凄い娘がいるらしいの。
メチャクチャ頭のいい娘。
風の噂だと完全記憶能力の持ち主。
計算もメチャクチャ速い。
これも噂なんだけど最近、チャイルズの弟子になったって言う噂。
つまり能力者。
その娘が最適なんだと思う」
姉の口添えで会計も決まった。
そして新しい会計と書記も生徒会室に呼び出された。
書記は沙藤 文奈さん。
会計は河近 朱練さん。
会計の娘は噂通りの完全記憶能力者。
そして成績はトップクラスなんだそう。
僕も同じ完全記憶能力者、でも成績は・・・、この差って何だろう。
そんなモヤモヤ感を感じていた。
しばらくすると姉は
「これからが大変よ。
まずは入学式の準備。
私たちも一応OGとして協力するから。
何せ指名が遅くなった責任もあるしね。
これから、毎日学校に来てね。
入学式まで日がないから。
もちろん、土日もね。
生徒会のイロハもみっちり教えるからね」
もうすぐ春休み。
でも僕たちにはそれがないようです。




