振り袖
長かった冬休みが終わった。
たった2週間の休みだったが僕にとってはとてつもなく長い2週間だった。
と言うのも僕はこの2週間、自分の部屋からは出ないと決めていた。
弟子にもそう伝えていた。
クラスメイトにも。
そして僕はこの冬休みの間、一切の連絡を絶った。
つまり、誰とも会わないと決めていた。
それには理由があった。
自分の修行時間を確保するため。
最近、なんだかんだ言って修行に身が入らないでいた。
特に理由は無い。
あえて言うならば2年生になって勉強が激ムズになったこと。
(なんか大学レベルらしい)
そして新しい恋人が出来たことぐらいか。
それに今でもノルマとして1日10冊以上の専門書の丸暗記をさせられているぐらいか。
最近はちょっとサボっていたせいかかなり専門書が積んである。
とりあえず冬休み分は冬休みが入る前に全部片しておいた。
もちろん、宿題も。
これで冬休みは心なく修行が出来ると思った。
僕の部屋には「時の掛け軸」というものがある。
この「時の掛け軸」というものは時空がねじ曲がっている。
そしてそこに出入りが出来る。
まぁ、入ることは自由だけど入ってからは一定時間経たないと出れないけど。
僕その中に冬休み中いることにした。
さっきも言ったけど、この中は時空がゆがんでいる。
簡単に言うと僕らの世界での1時間は「時の掛け軸」内では約1日となる。
正確には25時間だが。
なぜ1日より1時間多いのかは説明は省いておく。
ただ、こっちの世界との調整の1時間と思って欲しい。
僕らの世界で1日間、「時の掛け軸」内で滞在となると向こうでは25日いることになる。
冬休み中、ずっと滞在となると25掛ける2週間で350日。
僕はその350日間、「時の掛け軸」内でで過ごした。
(現実世界では2週間ほど)
本当に長かった。
今はそんな気分で一杯だ。
ちなみに後悔の念は向こうの時間で一週間経った頃から芽生えてきた。
今ではそんな気分はどうでもよくなっている。
ちなみに向こうでの修行内容は向こうの世界でのメイドが決めてくれる。
メイドは僕よりも強く設定がされていて修行以外のお世話はみんなメイドがしてくれた。
一応、コンピュータープログラムらしい。
そうとは思えないほどとても感情豊かなメイドだが。
ちなみにこの明度は僕らの世界には出られないらしい。
ずっと向こうの世界で暮らしているのだとか。
とにかく冬休みは地獄の時間だった。
やっとそこから解放されるのだから嬉しさは一入だ。
3学期初めてのクラスはとても新鮮に見えた。
僕にとっては一年ぶりの登校に等しいからだ。
もちろん、みんなにとっては違うのだが。
クラスメイトと語らい、改めて学校の楽しさを知った。
放課後、僕は三条橋先生に呼ばれた。
三条橋先生はかなり偉い人らしい。
噂によると校長よりも権限があるらしい。
確かにこの学校にある三条橋先生の部屋は校長室よりもかなり広い。
僕はその広い部屋に呼ばれた。
部屋に入ると
「よく来たわね。
これからいい経験をさせて上げる」
と三条橋先生に言われた。
見た目小学1年生の彼女がとても偉い人には見えない。
僕は言われた意味が分からず戸惑っていると三条橋先生は
「冬休みの間、修行三昧だったようね。
どうせ正月も味わっていないんでしょ。
それに元男のあなたには着物も着たことがないでしょう。
せっかくだからあなたのために振り袖を作ったの。
私が着付けて上げるから着てみない?」
彼女の裁縫の腕前はプロ級だ。
流石、家庭科教師。
(ちなみに国語も担当している)
売り物と遜色ない。
ちょっと、待てよ。
振り袖を着るって誰が?
僕は一瞬後ろを振り向いた。
「状況が読めないの?
あなたのための振り袖なんだからあなたに決まっているじゃない」
「僕はこんな女の子っぽいの着れないんだけど」
と断ると先生は
「何を言っているの?
ザ、女の子みたいな容姿をして。
あなた、可愛いんだから自信を持ちなさいよ」
「いやいや、着れませんよ」
と僕は何度も断っていると先生は
「いいから、着なさい!!
これは命令よ。
あなたは圧倒的に女の子成分が少ないんだから。
女の子としての経験を積まなきゃいけないの。
もう、男子に戻れないんだし女子として生きていく覚悟は出来ているんでしょう。
いいから着なさい」
確かに女子として生きていく覚悟は出来ているけどとそれとこれとはと逡巡していると先生は無理矢理僕の服を脱がせ始めた。
僕は
「服ぐらい1人で脱げますから」
と流石に恥ずかしがると先生はニヤリとしながら
「だったら早く覚悟を決めて早く脱ぎなさい。
私が着付けて上げるから」
そして小一時間を掛けて僕は振り袖を着た。
ただ、それでは終わらない。
「せっかく着たんだからみんなにお披露目をしなきゃね」
と先生は言い、それと同時にチャイルズ仲間が入ってきた。
「カワイイ!!」
「師匠(主人公)綺麗です」
「流石、姫です」
それぞれの賛辞が飛んだ。
三条橋先生は
「今から3学期初めての修行を始めます。
今日の修行は葵唯(主人公)に攻撃をすること。
葵唯は絶対防御能力でかわし続けて下さい。
それから葵唯に忠告ね。
その着物を絶対汚さないでね。
せっかく作ったんだから。
それから葵唯は修行が終わったら今日はその着物を着て帰ってね。
せっかく可愛いんだから出来るだけ多くの人に見せたいしね」
それから1時間、修行が続いた。
そして僕は恥ずかしい思いをして帰路に就いた。
自分の部屋に着いた頃にはバタンQだ。
早く着物を脱ぎたいがその気力はもう残っていなかった。
大分、多くの人に着物姿を見られたな。
明日、話題になっているだろうな。
正直、明日、登校するのが気が重い。
そんな思いを巡らせながら僕は眠りに就いた。




