言いがかり
ある日の放課後、僕は教室に居残っていた。
正確には強制的に居残されているといった方が自然か。
クラスのみんなはそこには居ない。
なぜ、こんな目に遭っているのか少し説明しよう。
先日、僕には好きな人が居ると言うことがクラス中に知れ渡った。
相手は1年の女の子だ。
知っての通り、僕が通っているのは女子校。
僕自身も心はともかく体は女だ。
僕も現在は高校2年生。
女の子の体にはすっかり慣れてしまった。
まだ心はそこまでなっていないしそれに染まるつもりはない。
何を言いたいかというと性転換した今でも女の子が恋愛対象なのだ。
クラスのみんなもそれを不憫に思っているとのこと。
別にこの時代、同性愛者が珍しい時代ではない。
僕のクラスにも内緒だが女の子が好きな女子は何人かいる。
でもそれは別に普通のことだ。
ではなぜ僕のことをクラスのみんなが不憫に思っているのかだ。
僕の場合は男だったという記憶の元に女の子が好きだという事。
そして二度と男に戻れないと言うこと。
この2つを持って不憫に思っているらしい。
そういえば、以前身の上をクラスのみんなに話したことがある。
僕にとっては何てことの無い話だったがクラスのみんなが同情して号泣していた。
それからしばらくクラスのみんなが妙に優しかったのを覚えている。
僕にとってはそれがとても痛かったのだが。
だから、僕の初恋をクラス全員が応援しているのだ。
と言っても正確には二度目の恋なのだが。
みんな忘れていると思うが僕には元カノがいるから。
その事を話しても「女の子としては初恋なんだよね」と言い包められてしまった。
確かに体は女の子だけど心は変わっていないのだけど。
さて、今僕は教室にいます。
さっきも言ったけど。
そしてクラスのみんなは隣のクラスで僕のことをモニターしているのだとか。
ていうことは僕の初恋はクラスのみんなの娯楽なのかと不審に思ったりしています。
そしてどうやって僕をモニターしているのかはクラスの人たちの能力を使ってだそうです。
どういった能力かは企業秘密だそうで何はともかく能力の無駄遣いだと思います。
しばらく教室で待っていると不機嫌そうに彼女が入ってきた。
彼女の名前は信桜 雨音。
彼女は入ってくるなり開口一番、
「先輩、一体どういった話なんですか?
もしかして生意気な後輩を痛めつけるために呼んだんですか。
事と次第によってはこっちも全力で抵抗します。
先輩が格上のチャイルズだとしてもこっちも黙ってやられるつもりはありませんから」
なんとも好戦的な態度を取った。
僕が戸惑っていると
彼女は続けて
「先日の天巫の件は感謝しています。
天巫とはお互い誤解も解けましたし今ではすっかり元の友達同士になれました。
でもそれとこれとは全然違います。
どこまで太刀打ちが出来るか分かりませんが精一杯抵抗しますね」
僕は彼女の態度に慌てて
「そういうことで呼んだんじゃないよ。
なんというか、僕はチャイルズ同士交流を深めようと思って。
ほら、腹を割って話そうかと。
君だってチャイルズの新しいメンバーとして色々と不安があるだろう」
そんなことを言いながら彼女の機嫌を取った。
「チャイルズに入って調子はどうなんだい?」
「別に今までと変わりませんよ。
ただ、周りが居る分切磋琢磨が出来るというか良い刺激にはなりますね。
私は今まで孤独に修行してきましたから」
「君は雷の属性だったね」
「先輩の能力には及びませんよ。
それにしても先輩って凄いですね。
全ての属性を持った上にそれぞれの能力自体も他の人たちからずば抜けている。
能力だけなら憧れますよ」
なんかトゲの入った言い方だなと思った。
そしてしばらく沈黙が続いた。
そして次の言葉は彼女から発せられた。
「あ〜、も〜。
この際だから聞きたいことを聞きますね。
普段、会話することもありませんから。
これからもすることはないでしょうし」
なんかトゲのある言い方だな。
「先輩のふざけた設定は何なんですか?
元男の子で性転換しただとか。
その影響でチートな能力を授かったとか。
大体、私たちの能力は女子にしか授からない能力。
男子だった人が授かるわけがありません。
それにあなたみたいなレベルの違う能力。
性転換してすぐにチャイルズ入りだなんて信じられません。
私がチャイルズに入るのにどれだけ苦労したのか。
それがこの間まで男子だった人に成し遂げられるわけがありません。
大体、先輩に男だった要素が見受けられないのです。
どっからどう見たって世間知らずのお嬢様じゃないですか。
それも厨二をこじらせたお嬢様。
男の子に憧れているお嬢様にしか見えません。
しゃべり方だって男の子の言い方を真似ているとしか言えませんし」
僕は
「いや、僕は元々男子だったし。
それは否定できない事実だよ。
何でチート能力を授かったのかは話が長くなるからこの場では話せないけど」
「だったら男だったという証拠を見せてください」
「そんなこと言われても・・・。
そうだ、僕の元カノに会ってみると分かるよ。
名前は浅桜 桃映。
三年生のクラスにいるよ。
彼女は僕が男だったことをよく知っている女の子だ。
性転換した今でも友達として付き合っているんだ。
彼女は女の子になってしまった僕には恋愛感情はないからね。
僕が性転換したと同時に自然消滅。
彼女だったら僕の男時代の写真も持っているだろうし」
「分かりました。
機会がありましたら会いに行きます。
それと一言だけ言っておきます。
今日、最初、教室に入るときに失礼な態度を取りすいませんでした。
それからいつ、軟化しようかと思っていたらずっと失礼な態度をとり続けてしまいました。
最後に謝っておきます。
私自身、先輩に対して敵意はありません。
それにしても面白いことをいっぱい聞かしてもらいました。
今後も先輩とは仲良くしていきたいです。
あ、勘違いしないでくださいね。
もちろん友達として。
女子に対しては恋愛感情はありませんから」
こうして僕と彼女との対面は終わった。
そして僕が告白できなかったことからクラスのみんなから「ヘタレ」とか「ヘタレ姫」とか呼ばれた。
それでもクラスのみんなは暖かかったけど。
それにしても最後の彼女の最後の一言が気になる。
普通、女子同士だと「恋愛感情」という言葉は出ないと思うのだが。
彼女も僕と同様に女の子が好きなのだろうか。




