幽霊
(前回の続きです)
僕が能力を開花した次の日、大変なことが起きたんだ。
それを順を追って説明するね。
さっきも話したけど僕は1日であらゆるチート能力が解放されたんだ。
しかも極限値まで。
当然その日の夜は興奮して寝られなかったんだ。
僕はまず、今日起きた事を頭の中で整理することにしたんだ。
それでも頭の中グルグルしている。
突然、性転換したことにも戸惑っているのにそれだけではなく僕に凄い力が目覚めたなんて信じられるわけがない。
そんな思いでなかなか寝付けなかった。
でも気がついたら寝落ちしていた。
次の日、朝起きると大変なことが起きていた。
僕はいつもの様に目を覚ました。
そして寝ぼけながらも僕は自分の部屋のドアのノブをを握ったんだ。
そうしたらドアが開かない。
初めは鍵でもかかっているのかと思ったけどそんなわけはない。
僕の部屋は鍵なんて存在しない。
勝手に同居する女子高生が入ってくるのだから。
鍵なんてあろうはずがない。
段々目が覚めてくると僕の手にノブを触っている感覚が無いことに気づいた。
僕はビックリして部屋のあらゆるものを触った。
いや触ろうとしたんだ。
何一つ掴むことが出来なかった。
一体僕の体はどうなっているのだろうか。
しばらく考えているとある答えに行き着いた。
そうか、死んだんだ。
だから僕はものを触ることが出来ないんだ。
それにしても短い人生だったな。
そうか、昨日あんなに沢山のことがあったんだ。
それで疲れて。
僕の死因は過労死なのだろうか。
この数ヶ月、ほんとに沢山のことがあったな。
僕は普通の人生を歩んできたつもりだったけど後半のたたみかけは本当凄かった。
性転換するわ、チート能力を授かるわ。
多分、普通の人の人生の何十倍もの体験をしたんだろうな。
我が人生に悔い無し。
僕これまでの人生を述懐していた。
しばらくすると
「お嬢様、いつまで寝ているのですか」
と冬室さんが入ってきた。
僕は彼女を見なり涙が出てきた。
「今までありがとう。
これまでの人生は本当に楽しかったよ」
と僕は彼女に言った。
彼女は
「お嬢様、どうかなさったのですか」
と聞いてきた。
僕は
「僕が見えるの?」
と聞き返した。
彼女は
「お嬢様、本当に大丈夫ですか?
見えるに決まっているじゃないですか。
幽霊じゃないんだから。
言っておきますけど私は霊感はありませんから。
生きている人しか見えませんから」
とかなり不思議がっていた。
その後、朝食前にミーティングが行われた。
吹原さんはスケッチブックで
「恐らくお嬢様が今経験しているのが完全防御能力。
あらゆる攻撃が効かない状態。
でも副作用として当の本人が何も触れない状態になると聞きました。
いわゆる幽霊状態。
でもお嬢様は生きているので安心してください。
しかしこのままでは食事も満足に出来ません。
お嬢様は箸も持つことは出来ませんし私たちが手伝おうとも食べ物をお嬢様の口に入れることは容易ではありません」
さて、困ったものだ。
生きているのは確かな様だ。
それについては素直に喜ぼう。
でもこのままだと餓死してしまう。
僕はそれを彼女たちに聞いてみた。
「それについての対処法は聞いているわ。
意識的に完全防御能力をオフにするの。
たとえば手だけを。
それは意識を手に集中すれば出来ると聞いたわ」
僕はそのアドバイスに従った。
と言ってもその指示はあまりにも抽象的。
理解しようがない。
僕はただ手に意識を集中することにした。
瞑想だろうか。
僕はそれをしたことがないからよく分からないが。
でも集中しろと言われてすぐ集中できるものでは無い。
それにどのぐらい集中したら良いのかも分からない。
取りあえずカッコだけでもと座禅を組んで手に集中した。
ちなみに座禅と胡座は似ている様で全然違う。
座禅は胡座と違い楽な姿勢ではなく慣れるまでは正座の様に足が痛くなってくる。
まぁ、これは余談だが。
とにかく手探りで瞑想してみた。
ものを持てる様になったのは夕方ぐらいだろうか。
その時はめちゃくちゃ感動した。
そんな簡単な仕草一つに。
とにかく僕はやっと食事にありつける。
それだけを思った。
何せ朝から何も食べていないのだから。
僕は急いで食卓に向かった。
僕は椅子に座ろうとした。
そうしたら思いっきりこけてしまった。
まるで椅子のドッキリに引っかかった様に。
正直僕ははらわたが煮えくりかえった。
僕がどんだけ苦労したと思っているのか。
こんなくだらないいたずらをしたのは誰なんだとも思った。
そして周りを見渡すと一様にビックリした様な顔をしていた。
一体どういうことなのかと自分の下を見てみると確かに椅子がそこにあった。
誰もドッキリを仕掛けていなかったのだ。
僕はもう一度椅子に座ろうとした。
そしてまた同じようにこけてしまった。
どうやら完全防御能力のオフは手だけに適用できているよう。
それ以外は椅子をすり抜けてしまう様だった。
僕は仕方なく立って食事をすることに。
とにかく今日初めての食事はとても美味しかった。
でも食事をしている最中、女子高生5人にずっと見つめられていた。
不思議な生物を見るみたいに。
だから少し恥ずかしかった。
僕は
「なんでそんなに見ているの」
と聞いてみた。
僕を見ている5人のうちの1人が
「お嬢様はそんな可愛らしい寝間着を着ていらっしゃるのですね。
とても可愛くて見とれてしまいました」
と言われてしまった。
そういえば、今日は起きてから一切着替えていなかった。
寝間着のまんまだ。
僕はそう言われて少し恥ずかしくなった。
でも一言言わせてもらえば僕が着ている寝間着は僕が選んだものじゃなくあなたたちが選んだものなんだけどと一言言い返したくなった。
言わなかったけど。




