修行(風)
(注意;今回の話は主人公目線ではなく登場人物の1人、神居 天巫の目線でお送りします。)
まず自己紹介からします。
私の名前は神居 天巫。
神社の娘として生まれました。
幼い頃、超能力に目覚め一時はテレビにも出演したことがあります。
これでも有名人だったんですよ。
超能力少女としてテレビでも引っ張りだこだったんです。
でもある時を境に状況が一変したんです。
テレビでも著名な教授が公然と私を批判してきたんです。
トリックだとかインチキだとか。
それで私たち家族は外にも出れない状況に。
でもビックリしたのはその後です。
騒動が落ち着いてやっと平穏を取り戻した頃、その教授が私たちの神社にやって来たのです。
その教授は私に会うなり土下座をしました。
そしてその教授は
「あのときはしょうがなかったんだ。
君の特殊な能力が世間に知られるのを恐れた政府からの依頼だったんだ。
本当にすまなかった」
と泣いて謝罪してくれた。
その時私は溜飲が下がる思いがした。
それと同時に私たち家族は政府の保護下に。
ちなみに私たちのクラスのほとんどが政府の保護下で暮らしています。
ちなみに私たちの学校は私たち能力者が通う特殊科、進学科、普通科と別れている。
進学科、普通科と特殊科は基本交流がありません。
ていうか、特殊科は公には公表されていません。
私たち能力者の存在は国家機密なのです。
ちなみに特殊科の人たち全員が能力者というわけでもありません。
素質のある人を青田買いしているからです。
ですから特殊科に来て初めて能力の存在を知る人もいます。
話を戻します。
私は世間のバッシングのトラウマでしばらく能力を封印していました。
だから基本的に能力の基礎基本を知りません。
能力に関する授業も秘密裏に行われているからです。
同じ特殊科の人でも能力の存在を知らない人もいます。
私たち生徒は先生に申請して初めて能力の授業を受けられるのです。
私は今まで申請をしてきたことがなかったので。
さて、今日は修行初日。
初めて地下の修行室に来ました。
私の修行担当の先生は吹原 季遊先生。
非常に無口な理科の先生です。
理科の中でも地学担当で気象予報士の資格も持っているそう。
ちなみに授業中は拡声器で授業するほど声が小さいです。
しかし普段は無口な先生と聞いていたけどこれほどとは。
修行室には行って1時間。
面と向かっていながら一言も発しないのです。
これでは修行が出来ません。
一言もしゃべっていないように見えますが良く見ると口元が動いています。
でも全然声が聞こえないのです。
こんなに近くにいるのに。
それにしても表情は豊かなのですが声が全然聞こえません。
初日はそんな感じで何もせずに終わりました。
消化不良です。
2日目は授業中にいつも持ち歩いている拡声器を持ってきました。
そして先生は
「昨日は何も出来なかったから今日はビシバシ指導します」
と拡声器を通して声をかけた。
どんだけ拡声器の性能が良いのか。
それから修行に対する姿勢や修行の訓練の内容を話してくれた。
特に私が風の能力のことについてあまり知らなかったので懇切丁寧に教えてくれた。
ざっと1時間ぐらい。
結構話が長い。
おしゃべりが苦手なわけではなさそうだ。
修行内容は小さな竜巻の渦を両手のひらで作るという内容だ。
これが結構難しい。
1ヶ月経った今でも習得出来ていない。
そして修行の日数もしばらく過ぎた頃、先生がいろんな事を話してくれるようになってきた。
もちろん拡声器越しに。
ある日、私が先生になぜ声が小さいのかを聞いてみた。
先生は
「ある事件がきっかけなの。
それは凄惨な事件だったの。
そのことがトラウマで声が思うように出せなくなったの」
私がへぇ〜と感心し同情していると
「まぁ、冗談なんだけどね」
私は心の中で「冗談かい!!」とツッコんだ。
先生は
「これは生まれつきなの。
どうも発声する器官が人より小さいみたいでどんなに声を出しても通常の人のひそひそ話程度の声しか出せないの。
だから普段はほとんど筆談で会話をしているの。
授業は拡声器越しだけど。
能力の影響かとも言われたけど結局私が声を出せないのは理由が不明なんだけど。
でも安心して、風の能力者全員が声が出せなくなるわけじゃないから。
私が知っている限り声が出せないのは能力者では私1人だけだから。
あなたは大丈夫だから。
でもビックリしたわ。
自分の声が小さいのは知っていたけど修行の初日、あんなにも言葉が通じないなんて。
だから次の日から拡声器を持ってきたの」
「ちなみにこんなことも出来ます」
その先生の声が私の頭の中に響いた。
良く見ると先生は拡声器を持っていない。
目を瞑って右手を頭の上にのせています。
「これは私が持っているテレパシーという能力よ。
あなたの頭に直接話しかけているの。
こうやって話しかけると拡声器がなくても簡単に会話ができるのだけどこれメチャクチャ疲れるのよ。
1回使うと次の日、体が重くなるぐらいに。
だから出来るだけ使いたくないのだけど。
宝の持ち腐れね」
そして拡声器越しに
「はい、今日の修行はお終い。
テレパシーのことは他のみんなにも秘密ね。
誰にも話したことないから。
それに知られると面倒だし。
あなたと私の秘密にしてね」
親密になって分かったのだが吹原先生は非常におしゃべりでユーモアのある先生だ。
授業中もこんな感じで授業して欲しいぐらいだ。
私は今、修行の時間が1番楽しいと思っている。




