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お風呂

 僕は逃げまくっていた。

僕はある理由で彼女たちから逃げていた。

絶対に捕まるわけにはいかない。

そして女子寮にある僕の部屋へと逃げ込むのだ。


 事の発端は昼の放課(休み)の時間。

いつものように僕の周りでガールズトークが始まった。

男性アイドルの話から始まり、ファッション、スイーツなど女子特有の話が多岐にわたり僕は相変わらず置いてけぼりだ。

時々僕の修行の話になるが大概は愚痴だ。

僕が口を挟もうものなら集中砲火を浴びる。

黙って聞いている方が得策なのだ。

僕が会話に参加することはほぼ無い。


 ところが今日は風向きが違った。

突然、芸林げいりんさんが

「あたしたちが知り合って数ヶ月、大分仲良くなったよね」

と切り出した。

僕はさっきまでの会話の流れと明らかに違うので違和感を持った。

そして灰庭はいにわさんが

「この数ヶ月、一緒に厳しい修行を切り抜けた仲、自然と友情が高まるのも当然だわ」

と言い、

海城かいじょうさんは

「特に修行の終わった後のお風呂、最高だわ。

裸のつきあいって言うの?

私、寮生活も初めてだからみんなでお風呂に入るのも初めてだったの」

と返した。

神居かみいさんも

「この学校に入って改めて女の友情という奴に気づいたわ。

特に裸のつきあいって言うのは初めてだったけど新鮮で良かったわ」

と言っていた。

氷見谷ひみやさんはみんなの言うことを聞き入っていて黙ってよく頷いていた。


 僕はいつものように黙って聞いていたが突然、芸林げいりんさんが

「師匠(僕)は女の友情ってどう思いますか?」

と聞いてきた。

僕は

「良いことだと思うよ、友情を高めるのは。

特に弟子の君たちが友情を高めるのは僕にとっても有益なことだしね」

と返した。

その時、彼女たちの目が一斉にキラリと光った。

まるで僕の答えが想定内であるかのように。

海城かいじょうさんが

「そういえば、師匠の裸って見たことないわ。

この学校に始めてきた時にいきなりマッパになったのは見たけど、しっかりと見たことないの」

僕はいきなりこの娘は何を言い出しているのかと思った。

海城かいじょうさんが続けて

「師匠も女の友情を確かめ合いましょうよ」


 僕は面食らってらしまった。

と言うのも僕は性転換してからあまり時間が経っていない。

自分の裸を見るだけでも恥ずかしいぐらいなのに他の女の子の裸を見るなんてもってのほかだ。

だいたい、僕は個室に風呂場が着いているのでみんなと一緒にはいる必要性はない。

たまに大浴場に入りたい時があるがその時はみんなが絶対に入ってこない時間帯、主に真夜中それも入っていることがばれないように電気を消して入っている。

とにかくみんなと一緒に入るということは僕には考えられないのだ。

体は女の子でも中身は思春期男子。

僕が入ることで他の女の子を汚してしまうような気もする。

とにかくとても気まずいのだ。


 そう考えていると

灰庭はいにわさんが

「師匠はこれから女の子として暮らさなければいけないのでしょう。

下着姿(を見るの)でも未だに恥ずかしがっていますが、師匠は女の子の裸(を見ること)でも動じない強い精神が必要なのです。

是非とも一緒に入って欲しいのです」

僕はその答えに曖昧な返事をした。

その時今日最後のの授業開始のチャイムが鳴った。

このチャイムが会話を強制的に終了させた。

僕は正直、ほっとした思いだった。


 そして、いつものように放課後、修行をした。

修行の時はいつもと変わらず、と言うかいつも以上に弟子たちは修行に取り組んでいた。

さっきまでの話がなかったかのように。

問題は修行が終わった後だ。

芸林げいりんさんが

「今日はいつも以上に汗をかいたわね。

この後一緒にお風呂に入りましょう。

師匠も一緒に」


そして、冒頭である。

結論から先に言うと、僕は捕まってしまった。

そして、今尋問を受けている。


 灰庭はいにわさんが

「師匠は女の子になるに当たって1年間のリハビリを受けたとこの前言っていました。

確かに話し方はあれですが、所作、仕草などは女の子のそれです。

ていうより並の女の子より色っぽいです」

僕は嬉しいような悲しいような複雑な気持ちで聞いていた。

灰庭はいにわさんは続けて

「師匠は女の子の裸に免疫が無いようです。

でも女の子として生きるためにはこのことになれておく必要があるのです。

師匠は女の子の裸を見たことはありますか?」

と聞かれた。

僕は

「もちろんあるよ。

僕はリハビリの最中に女の先生方と一緒にお風呂に入ったことがあるからね。

直視は出来なかったけど。

だけど、別に女の子の裸を見なくても生活できるよ。

今までもそうしてきたし。」

と答えると芸林げいりんさんが

「甘い、人間自分の思い通りにはならないんだから。

私の短い人生の仲でもそう思うことが多々あるわ。

師匠だってそうでしょ?」

僕はそう言われるとぐうの音も出なかった。

そしてみんなの言うことを渋々聞くことにした。


 みんなと一緒にお風呂に入ると言うことはとても刺激的だった。

そして僕はいつも以上に黙りこくってしまった。

とてもみんなを直視することが出来ない。

みんなは僕がいることになにも気にしていないようだった。

みんなが言うには心は男の子でも体は女の子だから問題が無い、それに師匠は元々紳士でしょう、何も心配はしていないとのこと。

もちろん、僕は何もすることはない。

しかし、もうちょっと僕に気を遣って欲しいと思う。

みんな僕を気にしていないのだ。

ていうか、僕を普通の女の子のように普通に接してくる。

僕の方が気恥ずかしい。


 寮に帰った後もしばらく僕は興奮をしていた。

多分今日は眠れないだろうと思い、取りあえずいつものようにベッドに入った。

彼女たちは明日も一緒に入ろうと言っていた。

僕は天国のような地獄のような気持ちになっていた。

そして、これが女の子の生活なのだと改めて強く思ったと同時にこれからやっていけるだろうかと不安にも思った。











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