第七話 勘当貴族、再び決意する
私の名はルキス。冒険者だ。
元々は栄えある帝国貴族の公爵家次男であった私だが、現在は故あって家名を名乗れない身だ。既に貴族位への未練は薄く、いつか冒険者として名を馳せ、私を切り捨てた実家を見返してやろうという気概だけは失われていない。
だが、それよりも忘れてはいけないのがあの白髪の男との再戦だ。
我が宿敵である男に、私は何かと『借り』を作ってしまっている。私を貴族の地位から引きずり下ろし、あまつさえ借金地獄に追いやった仇敵。だが一方で、奴のおかげで私は冒険者の最底辺から立ち直り、借金の返済にこぎ着けたのも事実。
当時を思い出せば、己の未熟故の過ちを恥じるばかり。実家からの勘当も当然であった。機会があればあの黒狼族の女性には謝罪をしたいものである。
……だからといって実家から簡単に切り捨てられた恨みは忘れていない。いつか絶対に見返してやる。
話が繰り返した、申し訳ない。
とにかく、現在の目標はあの宿敵と同じ冒険者ランクにたどり着くことだ。そうなれば、いよいよ奴との決闘にたどり着くことができる。
勘当された当初ほどの恨みはもはや無い。だとしても、奴に負けた事実は覆らない。奴から受けた施し諸々を含めて、雪辱を果たしたい所存である。
己の未熟を恥じ、謙虚に依頼をこなしていると、どういうわけかとある受付嬢の目に留まり、ギルドからの支援を受けられることとなった。おかげで無一文同然であった私だがどうにか最低限の装備を調えることができ、冒険者の最底辺から脱却することに成功。
そして、大きな幸運と小さな不幸を経て、私はどうにか無事にEランクからDランクへの昇格に至ったのである。
「ふぁっはっはっ! これで憎きあの仇敵に決闘を挑むお膳立ては整った!」
Dランクに昇格したその日、私はぼろ宿で高笑い。そして隣に宿泊していた客に怒られたがそれは些事だ。
意気揚々とギルドに赴いた私だが、そこで信じられない事実を受付嬢──シナディ殿からもたらされたのだった。
「あ、ご存じですかルキス様。あのカンナ様がどうやらCランクに昇格したようですよ?」
──またも、奴は私の一歩先を歩いていたようだ。
「くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
自失呆然となった私は宿に帰り、部屋に戻るなり絶叫していた。
またも隣人から怒鳴られた。
シナディ嬢には何かと奴との決闘に関して口にしていた。私が同ランクに昇格したら決闘を挑む、というのも知っていた。だからこそ、親切心で私にも知らせてくれたのだろう。その事に関しては感謝したい。あのまま奴の元へ向かい、意気揚々と決闘を挑んでいたら赤っ恥をさらしていたに違いない。
不本意ではあるがかといって無視できるはずもない。私は屈辱をかみ殺しながら奴の話をギルドにいた冒険者たちに聞き回った。
幸い、『白髪』で『氷使い』という珍しい組み合わせであったために、話はすぐに聞くことができた。
壮年であろう槍使いの証言。
「白夜叉の事か? 俺ぁ偶然、あいつが活躍した戦場にいたんだがな。いや、いきなり空から飛んできたときはビビったわ。え、冗談かって? 多分、あの場にいた全員が同じ事を思ったろうさ。それからはあの有名な竜剣と肩を並べて、最前線で暴れ回ってたよ。白夜叉がいなけりゃ、最悪はあの戦場にいた帝国騎士団も冒険者たちも全滅していただろうよ。
それに加えて、どうやらここのギルドマスターや、ドラクニル支部切っての冒険者である『アンサラ』とも顔見知りと来てる。多分、今もっとも有名な冒険者の一人だろうな。……それよりも俺はまだ二十五──」
最後の辺りはうまく聞き取れなかったが、どうやら派手な手柄を立てたようだ。
次に、チンピラ風の新人冒険者。
「白夜叉の兄貴ですかい? それはそれは懐のでっけぇお方ですよ! 俺はしがない町のゴロツキだったが、あの人のおかげでどうにか冒険者になることができた。もうあの人に足を向けて寝られねぇ!
しかも、やることなすことがとにかく規格外だ。普段は優しいあの人は、戦いとなればそりゃぁもう容赦という言葉をお袋の腹の中に忘れてきたかのような残虐非道な猛者に変貌する。初対面で絡んできた奴に胸ぐら捕まれたら、流れるように頭突きをかますような人だぜ? しかも、一言も喋らずに無言で頭突きを食らわせ続ける。ずっと無言でだぜ? こちらの言い分なんて全く聞き入れてくれねぇ。そりゃぁ大概の奴は心が折れるわな。……おっと、思い出したら寒気が──」
やけに奴を褒めちぎる男だったが、どうしてか途中から顔を青ざめさせ、どうしてか鼻を押さえながら去っていった。思い出すだけで寒気を覚えるほどの残虐非道な光景だったのだろう。
他にも色々と聞いて回ったが、『白夜叉』の名前はドラクニル支部に浸透しているようだ。
二つ名はAランクに昇格して得られるほかに、大きな力を見せつけた冒険者に誰か勝手に名付ける場合があると聞く。二つ名が自然と定着するほどの実力を見せつけたのだろう。
行き場のない憤りを腹の奥にため込みつつ、私は努めて冷静になり考えた。
このまま奴に挑めば、果たして周囲はなんと思うだろうか。
……間違いなく、昇格できない低ランク冒険者の〝やっかみ〟だと捉えられるに違いない。
貴族としての地位に未練はなくとも、私にだって『誇り』がある。このような更なる屈辱を重ねるなど我慢できるはずがない。
結局のところ、私は再び冒険者ランクを上げる為に依頼を重ねるしか無かったのだ。冒険者として名を馳せるために必要な課程に、目標が一つ追加されたと考えればそう悪くないか。
待ってろよ白夜叉! いつか必ず、貴様と対等になり受けた借りを利子込みでまとめて返してくれるわ!
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