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勘当貴族 ルキス君の冒険日誌  作者: ナカノムラアヤスケ
第二の部 勘当貴族 ルキス君の邁進
15/19

第十四話 勘当貴族、幼女の姉に会う


 ──少しの時間が経過した頃。

 

 シナディ嬢から貰った簡単な地図を頼りにして、私はとある店の前に着いた。古ぼけた軒先が印象深い武器屋だ。今朝にシナディ嬢から紹介された武器屋と比べると随分と寂れている。


「ここか、エトナの下宿先というのは」


 シナディ嬢からの頼みは、エトナが数日間帰れないことを、この店の店主に伝えて欲しいとのことだった。


 冒険者である以上、依頼で数日間家に帰らないことなどよくある話だ。ただエトナの場合、下宿先にそれを伝えずに一週間近く帰らなかったことがあり、家主がわざわざギルドに訪ねにきたらしい。


 これはエトナを心配してではなく、エトナが問題を引き起こしていないか気が気で無かったからのようだ。


 一応ギルドからの注意もあり、長期に下宿に帰らない場合は家主への報告がエトナに義務づけられた。ただ今回の場合は、本人の意図せぬ数日間の外泊。そのため、家主を安心させるためにも事情を知らせる必要があったのだ。


 私が抜擢されたのは、此度の一件に関して深く事情を知っていたからだ。エトナにこれ以上関わるのは遠慮願いたかったが、他ならぬシナディ嬢からの申し出だ。彼女には大きく世話になっているしここで少しは恩返しをしてもいいだろう。


 扉を開くと、店内はガラリとしていた。日も暮れているし、常に客でいっぱいの武器屋というのも想像しにくいが、外見と同じく妙に寂れた雰囲気が漂っていた。


「失礼する、誰かいるだろうか?」


 店の奥に向けて声を掛けるが、返事は帰ってこなかった。いったん外にでて地図を再確認するが、やはり間違いないようだ。もしかして留守か?


「誰かいるだろうか! ────ん、この匂いは……」


 少し強めに声を発した後、不意に私の鼻孔を覚えのある香りが触れた。


 これは──硝煙の匂い?


 疑問に思っていると、ドタドタと慌ただしい足音が響いてきた。少し待つと店の奥から大急ぎで店員らしき人物がやってきた。


「すいません! 少し奥で作業をしてて気がつきませんでした!」


 姿を現したのは、エプロンを纏ったドワーフの女性だった。彼女が現れた途端に『硝煙』の匂いも濃くなったが、それよりも更に私の目を引く存在があった。



 ドワーフ特有の小柄な体躯にあまりにも不釣り合いな、たわわに実った二つの果実むね



 小さなエプロンの奥から、これでもかというほどに激しい自己主張をしていた。躯の大きさからしてクロエ嬢よりも小さいだろうが、バランスで言えば同等だ。むしろ、ドワーフ特有の幼い躰つきとは不釣合いな盛り上がりに私は強い衝撃を受けた。


「って、冒険者の方ですか? あの、実はこの店って卸売りしかしてなくて、冒険者の方への直売はしてないんです、ごめんなさい」


 ペコリと申し訳なさそうに頭を下げるドワーフの女性。その拍子に、胸の実りが『たゆん』と音を立てそうなほどに揺れ動いた。


(落ち着けルキス! いくら実家きぞくからは勘当されていようとも、私が紳士であることに変わりはない! 初対面の女性の胸を凝視するなど失礼千万!!)


 鉄の自制心を呼び起こし、努めて自然な態度で言葉を返した。


「私の用件は武器ではない。おそらく、貴殿の家にエトナというドワーフが下宿しているはずだが……」

「──ッ!? ま、まさか……またあの子が何か仕出かしたんですか!?」


 エトナの名が出た途端、女性の顔が盛大にひきつった。エトナの問題行動はやはり日常茶飯事のようだ。


 私は彼女を安心させるために急いで言葉を重ねた。


「あ、いや。安心してほしい。仕出かしたのは間違いないが、被害者は皆無だ。本人に対してもキツい仕置きがされたので問題ない」

「あ、そうなんですか。あぁ……よかった」


 女性は心の底から安堵するよう胸に手を当てた。何というか、胸というか手が胸の上に乗る光景は破壊力がすごいな。もちろん、鉄の自制心でおくびにも出さない。


「自己紹介が遅れたな。私の名前はルキス。見ての通り冒険者だ。エトナとは……まぁ疫病神とその被害者だと思ってもらえればいい」


 もちろん、どちらがどちらかは言うまでもない。


「あ、ご丁寧にどうも。私は『エイム』。この店の店主で……愚か者エトナの姉です」


 なんと、彼女はエトナの姉であったようだ。


 ──背丈以外は全く似ていない姉妹だな。色々な意味で。




 店の奥にある生活スペースに案内された私は、エイム嬢に進められるままにテーブルの椅子に座り茶をご馳走になっていた。


「なんだか押し掛けたようで悪いな」

「いえ、あの子がいないと私一人ですから」


 エイム嬢はそう言ってピョンッと軽く飛んで椅子に飛び乗った。その動きにあわせて豊かな胸も『ピヨヨン』と弾み思わず凝視してしまいそうになる。


「……えっと、それで今回はあの愚妹が何を?」


 恐る恐ると聞いてくる彼女に、私は事の発端と経緯をそのままに。ついでに、私とエトナが〝不幸にも〟知り合ってしまった出来事も同じく彼女に伝えた。


 一部始終を聞き終えたエイム嬢は、深々と頭を下げた。


「重ね重ね……エトナが申し訳ありませんでした」

「先ほども言ったが、被害者はいなかったし、むしろ彼女クロエは良い機会であったと言っていた。それに、奴の馬鹿は今に始まったものではないし、どれも貴殿の責任ではあるまい」


 人様の妹を堂々と『馬鹿』呼ばわりするのはまずいのだろうが、どうやらエイム嬢にとっても愚妹エトナは『馬鹿』の認識で間違っていなかったようで、咎められるよりもむしろ同意された。


「あの子は昔っから自分本位の我が儘でして。いつも悪戯ばかりしてそのくせ最後には殆ど自分が酷い目に遭ってるのに、全く懲りないんですよ」

「……タフだな。悪い意味で」


 昔から生粋の悪ガキだったのか。よくもまぁ今まで騎士団の厄介にならなかったな。


「どうしてか、あのこの悪戯に巻き込まれる形で、犯罪行為に手を染めていた人たちが捕まっちゃうんですよ。お陰で、犯罪者捕縛の陰に隠れてあの子の悪戯行為は騎士団の目に運良く届いていなかった様です。私はいつも気が気でありませんでしたけど」

「…………心中、お察しします」


 聞いているこちらがいたたまれなくなってくる。あいつの『ろくでもない事を引き当てる嗅覚』は昔から健在だったのか。ある種の才能かもしれない。


「よくあんな『歩く問題児』というか、『徘徊する災害』というか、『練り歩く疫病神』と一緒に住めるな」

「その姉を前に随分と酷い言い草ですね……同感ですが」


 同感なのか。割と容赦ないな、この姉君。


「冒険者になった時点で独立するってこの家を飛び出していったんですけどね、半年もしないうちに転がり込んできたんですよ。どうやら、住居の変わりに利用していた宿を追い出されたらしくて」

「……ちなみに、追い出された理由は?」

「家賃滞納、だそうです」


 Eランクの依頼を二、三件ほどこなせば一ヶ月分の家賃を支払えるほどに格安の宿だという。食事も風呂もないが、雨風を凌げるベッドがあるだけでも新人冒険者にとっては十分すぎるだろう。


 私も未だにあの壁が薄いぼろ宿を利用しているが、慣れると案外普通に生活できる。もう少し借金の返済が進めば、もう一ランク上の宿を探そうとも思っているが、今はいいだろう。


「あればあるだけ使ってしまうタイプだからな、奴は。大方、稼いだそばから全て使い切っているのだろう」

「だと思います。小さな頃から、月に一度のお小遣いを上げた当日に、全額をお菓子代に費やしていましたから」


 無計画にも程があるだろう。 


「ギルドからの話では、人様のお金で勝手に飲み食いしていたとか……結局、エトナ名義の借金に変更されたそうでほっとしましたが」


 すまない、それは私だ。ただ、エイム嬢にこれ以上の心労を重ねさせるのは不憫に思ったので口にはしなかった。

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