第7話
紫苑は、困惑していた。その原因は、恵理からのメール。
ーー恵理が反対派に加わった?
もし、昨日の雑魚どもによる襲撃が反対派によるものだったら、恵理もそれに加担していることになる。
紫苑の知っている恵理は、そんなやつではない。負けず嫌いだが、もっと正々堂々としていた。こんなやり方に賛成するはずがない。
昨日の襲撃は、反対派の可能性が高い、と紫苑は思っていた。
片桐にも相談する。
「片桐、こんなメールが恵理から来た」
片桐にメールを見せる。
「……あの女……紫苑様を脅迫してきましたか……」
ゾッとするような冷たい声で、呟いた。
恵理と片桐は、仲が悪い。というか、片桐が恵理を嫌っている。片桐は、気さくで優しい性格だし、恵理も社交的だ。
ーー原因は、会う度に恵理が紫苑を目の敵にするからだろう。
「……片桐、落ち着け。恵理は、一応橘家次期当主だからな?」
「ですが! あの女……会う度に紫苑様に暴言を……次は、武力行使ですか……」
片桐は、相当お怒りのようです。
「気にしてないから。でも、お前が俺のために怒ってくれるのは、嬉しいよ」
念のため、頭をなでなで。
「……んっ。はい。紫苑様が、そうおっしゃるなら……」
どうやら、機嫌を直してくれたようだ。顔を少し赤らめ、嬉しそうな表情をする。
「片桐、お前も気をつけろ。どこで、襲われるかわからないから」
「心配してくださり、ありがとうございます」
「お前は強いから、大丈夫だと思うが……」
「あら、私もか弱い女の子ですよ?」
そんなことを言いながら、お互い笑い合う。
◆◇◆◇◆
〜宮代家〜
「勇、計画はどうなっている?」
現当主、宮代勉は息子の勇に尋ねた。
「……父上、彼の強さは想像以上でした。チンピラをけしかけて、様子を見ていましたが、かなり手強いですね。私では、返討ちに合うでしょう」
あの程度で、紫苑の実力を見破った勇も相当なものだが。
「そんな弱気でどうする! いまさら、引けられない」
「はい。ですから、計画を変更しましょう。彼や彼の部下は、相当な手練ればかりです。澤登家がいない中、彼らには敵わないでしょう」
「どうするのだ?」
「外部からの襲撃と見せかけ、彼の側近ーー片桐早苗を狙いましょう」
「あの片桐か……だか、彼女も相当な腕だと聞いている。大丈夫か?」
「紫苑君や鷹司姉妹を狙うより、マシでしょう。現に鷹司家は、かなり警戒しています。鷹司家に手を出せば、我々は潰されます」
「しかし、一条家は鷹司家と密接な繋がりがある……鷹司家が出てくる可能性もあるだろう?」
「今回、紫苑君を襲撃しましたが鷹司家は、動きませんでした。彼の部下を襲っても、おそらく出てこないでしょう」
「片桐を人質に、とるということか?」
「はい。彼女を人質に、紫苑君を誘い込み大人数で襲撃します。さすがに、何十人もの敵を一人では倒せないでしょうから」
「だがな、紫苑君が一人で乗り込んでくるとは限らないだろう? まして、あの紫苑君だそう簡単にいくかどうか……」
「おそらく、彼は一人で来ます」
「何故そう言い切れる?」
「紫苑君と片桐の間には、主従関係以上の繋がりがあります。彼らの仲の良さは、組織内でも有名ですからね。紫苑君ならば、片桐がさらわれたら我を忘れ、すぐにでも乗り込んでくるはずです」
「確か、過去にも……」
「はい。彼は過去にも、同じようなことがありました。そのときは、未遂でしたがやはり一人で敵地に乗り込んでいました」
「なるほど、そうなるとかなりの武力が必要だ」
「はい。片桐を、捕らえるのにも苦労するでしょう。ですが、今はこれ以上の策はありません」
「反対派の人間を総動員しろ。すぐにでも、決行したい」
「はい」
◆◇◆◇◆
〜橘家〜
恵理のもとに一通のメールが来た。宮代勇からだ。
ーー作戦会議を今週の土日に行う。参加する者は、宮代家に来るようにとのこと。
先日、勇からメールが来た。別に勇とは、仲が良いわけでわないが連絡先くらいは知っていた。
内容は、今回の決定に反対するものを集い、抗議する。その仲間にならないか、というものだった。
まだ恵理は、武力行使など聞いていない。
絶対、阻止してみせる。紫苑を私と「同じくらい」の地位にしてやる。
宮代家は、仙台にある。恵理は、準備を始めた。
◆◇◆◇◆
〜宮代家〜
宮代家には、多くの人が集まっていた。勉もここまで、集まるとは思っていなかった。
「皆様、今日はお集まりいただきありがとうございます。我々は、今回の決定で面目は丸潰れです。そこで、ある計画を立てました。どうか、皆様のお力をお貸しください」
勉が、壇上で挨拶をして語る。
会場からは、賛同の声が聞こえる。恵理もその内の一人だ。
次に、勇が壇上へ上がった。そして、あの計画を説明した。
☆
恵理の耳には、何も入ってこない。呆然としている。
ーー片桐を拉致するですって! そんなこと聞いてない!
てっきり彼女は、九条家や鷹司家に直談判するのかと思っていた。
ーーこのままでは、片桐や紫苑が危ない。これを伝えなければ。
別に、片桐のことは好きでもなんでもないが、このような卑劣な武力行使は、彼女の良しとするところではない。
彼女は、ひっそりと会場をあとにした。
そして、すぐにメールでこのことを紫苑に伝えた。
◆◇◆◇◆
紫苑は、土日はのんびりと過ごす。土曜日の午前中は、部活があるので家にはいない。それ以外は、なるべく家にいる。
たまに、片桐と買い物に行ったりもするが。
今日は、借りてきたDVDを片桐と見ていた。二人ともホラー映画が好きなので、それを見ていた。
「最近のは、少しインパクトが足りないな」
「そうですね。ちょっと昔は、もっと怖かったです」
ホラー映画の批評をしていた。そのとき、一通のメールが来た。
紫苑の顔が歪む。
紫苑から発せられる怒気が、片桐の方まで伝わってくる。
普通の人なら、声すら出せないくらいのプレッシャー。
片桐が、遠慮がちに声をかける。
「……紫苑様? どうかなさいましたか?」
「……片桐……」
メールを見せてくれる。あの女からだ。そこには、
ーー片桐を拉致して、紫苑を誘い出す計画が進んでいる、とのこと。首謀者は、宮代家。その他多数。
「……ターゲットは、私ですか」
「……ふざけやがって、絶対に許さない」
本来なら、そんなことを考えることすら、あってはならないのだ。
紫苑は、本気で怒った。おそらく、この計画に加担した者全てを罰するまで、治らないだろう。
「紫苑様、落ち着いてください。私は大丈夫です」
「片桐の力を信じていないわけではない。だが、お前に何かあったらと思うと……また我を忘れそうだ」
片桐は、過去にも同じようなことがあったのを覚えている。あの時と同じだ。
紫苑は、仲間を傷付けられることを嫌う。我を忘れてしまうこともあるくらいに。
「おそらく、土日に襲ってくるだろう。片桐、しばらく家から出るな。俺も、出来る限り側にいる」
紫苑が、無理矢理感情を殺した、低い声で言う。
「はい。そうします」
片桐は、逆らえない。もし、自分が捕まってしまったら紫苑の身が危険だ。
「お前を狙うものは、全て排除する」
紫苑の力強い言葉を聞いて、片桐は安心感を覚えるのだった。
〜続く〜
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