第7話
「本当に洞窟なんてあるのか?」
二人と別れた紫苑は、青々と茂る木々の間を歩いていた。
森は鬱蒼としており、一度入ったらすぐには出て来れそうにないが、携帯は繋がるしGPSもオンにしている。
3人の居場所は片桐たちがしっかりと把握しているだろう。
ーーピピッ
片桐から電話だ。
「もしもしー」
『紫苑様、至急お伝えしたいことがあります』
「うん、どうしたの?」
『天気が崩れるかもしれません。山は突発的な雨が降りやすいので』
「そうか……すぐ戻ったほうがいいかな」
空を見る限り、雨は降りそうもない。天気予報も事前にチェックした。
『GPSで位置は把握していますが、もし強い雨が降れば山は危険です』
「そうだな。雲行きが怪しくなったらすぐに戻るよ」
『千冬お嬢様と白雪お嬢様にも伝えておきます。何かありましたらすぐにご連絡ください』
「わかった。わざわざありがとう」
GPSで自分の位置を確認してみると、学園からそこまで離れていない。
来た道もなんとなくだが覚えている。
雨が降っても多少濡れるかもしれないが、学園に戻れるだろう。
紫苑はもう少し、山奥へ入ってみた。
◆◇◆◇◆
水の流れる音が聞こえる。
川が近くにあるようだ。
紫苑が千冬たちと別れて一時間ほど経った頃だ。
「渓谷か。綺麗な水だな」
魚とかいるのだろうか、などと紫苑が考えていると、何かが近づく気配がする。
「紫苑⁉︎」
「姉さん!」
千冬もこの場所にたどり着いたらしい。
「私たちの道は繋がってたのね〜」
「こんなところがあるんですね」
「……なんかここ来たことあるよーな」
「本当ですか? ここら辺に洞窟あるかもしれませんね」
「うん! 探してみよう!」
ーーピピッ
今度は白雪だ。
「もしもしー」
『お兄様……学園に戻ってきてしまいました……』
「今学園にいるの?」
『……はい。学園の裏手に繋がっていたようです」
「そうか。俺は姉さんと合流して渓谷みたいなとこにいるよ」
『……なんで私だけ……』
「白雪もこっち来る?」
『いえ、私は歩き疲れたので休みます』
「わかった。俺たちも暗くなる前に帰るよ」
『はい。お待ちしてます』
「白雪だったの?」
「はい。学園にいるそうです」
「そう。じゃあ私たちでもう少し探してみましょう」
「はい」
〜30分後〜
「あ!!! あったー!!」
千冬が歓喜の声をあげた。
洞窟は奥に10mほど伸びている。
洞窟というより、岩穴だ。
「ねぇねぇ、入ってみよう!」
「コウモリとかいそうですね……」
岩穴はあまり広くなく、五人ほど入れば窮屈になりそうだ。
持ってきた懐中電灯で照らしてみるが、もちろんお宝などない。
「何もないですね」
「残念ね〜 でも、楽しかったわ。子どもに戻ったみたいで」
「そうですね。それに、ここは涼しいです」
近くに川があったり、岩穴であるためか中はひんやりとしていた。
長く歩いて汗もかいていたので、岩穴の涼しさが心地良かった。
「地面が硬くなかったら、眠ってしまいそうね」
「……もう寝転んでるじゃないですか。本当に寝ないでくださいよ」
歩き疲れたのか、千冬はウトウトしている。
「寝ちゃったらキスで起こしてね♡」
「……お断りします」
「つれないなあ〜 あ、寝込みを襲ってもいいよ?」
「……姉さん、寝るなら早く寝てくだい!」
「じゃあ、お言葉に甘えて少し休ませてもらうわ。どこにも行かないでね」
「大丈夫です」
こんなときの千冬が可愛らしく思えた。
「……手、繋いで?」
「……わかりました」
紫苑の右手を抱えるようにして、千冬は穏やかな寝息を立て始めた。
◆◇◆◇◆
ーーザァァ
「……ぅん?」
紫苑は目を覚ました。
紫苑もいつの間にか寝てしまっていたらしい。手は離さずに。
「あ、起きた? おはよう!」
「姉さん、おはよう……って雨⁉︎」
外は土砂降りの雨だった。
「私が起きた時にはすでに雨が降っていたわ」
「うわぁ……」
幸い岩穴の中に雨水は侵入していない。
「片桐たちに連絡しましょう」
「それが……この中圏外みたいなの」
「え⁉︎」
「GPSも機能してないみたい」
「……雨が止むのを待ちますか」
「そうね」
結局、片桐たちと連絡が取れず雨が止むのを待つことにした。
千冬と紫苑はそれぞれ懐中電灯、ハンカチ、ティッシュ、タオル、時計等は持って来ていたが、傘は持っていなかった。
「見て! 紫苑の寝顔! 可愛いよぉ〜」
「ちょっと! なに撮ってるんですか!」
「これ宝物にする! はぁぁ……可愛いぃ……」
「消してください!」
「嫌! 辛いことがあったらこれ見て癒されるの!」
狭い岩穴の中でギャーギャーと騒いでいたが、なかなか雨は止まず日が暮れてきた。
千冬もいつもの活発なところも今は不安や空腹で精彩を欠いている。
結局、雨は夜まで降り続いた。
〜続く〜




