表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある男子高校生の裏事情  作者: 烏丸 遼
学園騒乱編
64/66

第5話

不定期ですみませんm(_ _)m

感想頂けてとても嬉しいです!


「紫苑、ちょっと来なさい」

「はい?」


 紫苑を呼び出したのは千冬だ。声色からすると、紫苑と戯れるためではなさそうだ。


「白雪の様子がおかしいわ。何か心当たりない?」

「そうですね……少し悩んでいるような様子は見受けられましたが……」

「悩んでいる? 何に?」

「わかりません。昨日の夜も白雪の部屋に行きましたが、会えませんでした」

「そう……心配ね。今日はこれから学園内を視察する予定なのだれど……」

「俺、様子を見てきます」

「そうね。お願いするわ」


◆◇◆◇◆


 コンコンとノックをする。

 だが、返事はない。


「桐生、どういうことだ?」

「私にもわかりません。昨日はお食事も召し上らず、今日もまだ部屋から出て来ていないようです……」


 白雪が引きこもるなど、考えられなかった。彼女はいつも天真爛漫で明るいのだ。


「白雪? 中にいるなら返事をしてくれないか? 皆心配しているぞ?」


 やはり返事はなかった。

 諦めて出直そうかと思っていた時、ガチャリと鍵を開ける音が響いた。


「……お兄様……」

「白雪、やっと顔を見せてくれたか」


 紫苑はホッとしたが、白雪の様子はいつもとは違っていた。

 髪は乱れ、目元は赤くなっている。彼女の最大の魅力の一つである笑顔もない。

 いつもだったら、紫苑に飛び付いてくるはずだ。


「白雪、どうしたんだ? 悩みがあるなら聞かせてくれないか?」

「……いやです」

「どうして?」

「……お兄様には話したくない」

「それじゃあ、姉さんに相談したらどうだ? 姉さんも心配しているぞ」

「……」

「まずは、ご飯食べよう。昨日の夜から何も食べてないんだろう?」

「……お兄様、私に優しくしないで……」

「……え?」


 白雪の声が震える。


「……お兄様に優しくされると……胸が痛くて……苦しい……」


 白雪は右手で自分の胸を押さえ、苦しそうに声を絞り出した。


「白雪! 大丈夫か⁉︎」


 紫苑は白雪の体を支え、顔色を伺う。

 白雪は泣いていた。

 少し息を荒くさせ、嗚咽を漏らす。


「桐生、医者を呼んでこい!」

「はい!」

「待って! ……っ……その必要は……ありません……」

「ですが!」

「桐生、少しお兄様と二人でお話がしたから、席を外して……」

「……お嬢様」

「……お願い。私は大丈夫だから」


 桐生は白雪の様子を心配して、戸惑っていた。


「桐生、白雪には俺がついてるから大丈夫だ。何かあったらすぐに呼ぶ」

「……わかりました」


 桐生が席を外し、紫苑と白雪の二人きりになった。


「白雪、本当に大丈夫?」

「……はい。体の方は問題ありません」

「体の方は、ね……」


 心の悩みは深いようだ。


「……お兄様」

「ん?」


 白雪が紫苑の名を呼んだ瞬間、ふわりと紫苑に抱きつく。


「……お兄様、ベッドの方に……」

「ベッド?」

「……ベッドに座ってください……」


 紫苑は白雪に抱きつかれたまま、ベッドに腰掛けた。

 ベッドはまだ温かい。白雪がさっきまで寝ていた証拠だ。

 ベッドに腰掛けた紫苑の膝に、白雪は横向きに座る。

 白雪が紫苑に甘えてくるとき、よくしていたことだ。今更恥ずかしがることでもない。


 だが、今回は違った。


 不意に白雪は体重を紫苑にかけ、ベッドに押し倒した。

 白雪は紫苑にまたがる。


「白雪?」


 予想外の出来事に紫苑は動揺を隠せない。


「……お兄様、私ではダメですか?」

「え?」

「……私には魅力がありませんか?」

「白雪、いったいどうしたんだ」

「……答えて……私はあなたのことが……こんなにも好きなのに……」

「……白雪、俺も白雪のことは好きだよ」

「……それでは、私のことを受け入れてくれますか?」

「……それはできない」

「どうして⁉︎」

「……」

「……私があなたの義妹だからですか⁉︎ 私に魅力がないからですか⁉︎ それとも、私より愛している方がいるからですか⁉︎」

「少し落ち着け。例え俺が白雪を受け入れても、こんな形で君を抱きたくない」

「……ずるいです。私の好意を知っておきながら……」

「俺は自分がヘタレだと少なからず自覚してる。でもね、今俺が誰かを受け入れたらダメなんだ」

「……どうして⁉︎」

「俺はいずれ一条の当主になる。無闇に人と付き合うことはできない。俺の軽率な行動のせいで、多くの人を不幸にしてしまう可能性がある」

「……でしたら、いつになれば受け入れてくれますか? いつまで待てばいいのですか?」

「俺が力を手に入れるまで。組織のしがらみを打ち破って、自由を手に入れるまでかな」

「……」

「いつになるかわからない。それまで待てとは言わない。ただ、今俺は白雪のことは好きだ。それは本当だよ」

「……嘘です! だってお兄様は……片桐と……っ……」


 ポロポロと涙をこぼし、紫苑の服を濡らす。


「片桐?」

「……お兄様は……片桐を愛していらっしゃるのでしょう⁉︎ 私よりも……片桐のことを……」

「どうしてそう思う? 確かに片桐のことも好きだよ」

「だって……昨日の夜、お兄様の部屋で……」

「俺の部屋に来たのか?」


 コクリと頷く。


「……お兄様と片桐が……ベッドで……」

「マッサージしてたな」

「……マッサージ?」

「うん。片桐には日頃お世話になってるから。お礼に」

「……マッサージだったんですね……」

「それで勘違いしてたわけね……」

「……凄くショックでした……」

「まったく……」


 パチンッと白雪の額にデコピンをして、紫苑は優しく笑った。


「俺もいつかは誰かと結ばれるかもしれない。それが誰かはわからない。もしかしたら、政略結婚させられるかもしれない。でも、俺は自分で自分のことは決めたい。だから、今は力を蓄えるときなんだ」

「……お兄様にとって、愛の力は組織の力に劣るものですか?」

「愛の力で乗り越えられる、と言いたいところだけど、現実は難しい。愛する人と結ばれて、その先も幸福でいたいからね」

「私は待っています。いつまでも。あなたと幸せな日々を過ごせるなら」


◆◇◆◇◆


「白雪が元気になってよかったわ。さすが紫苑ね」

「俺は特別何かしたわけではないですよ」


 白雪はすっかり元通りだ。

 現在は、学園の敷地内にある施設を視察している。


「お姉様とお兄様にはご心配をお掛けして申し訳ありませんでした」

「白雪、桐生が一番心配していたと思うよ」

「桐生、ごめんなさい。心配かけて……」

「いいえ、いつものお嬢様に戻られてよかったです」

「元はと言えば、俺と片桐が白雪を勘違いさせてしまったんだがな」

「紫苑様のマッサージ、気持ちよかったです!」

「え! なにそれ! 私もしてほしい! 紫苑、お姉ちゃんも日々仕事を頑張ってるの! あとでマッサージよろしくね!」

「はいはい」


 今はまだ、この関係でいいのだ。

 いつか、紫苑が誰を選ぶときがくる。

 そのときに、自分が紫苑の隣にいれるよう、自分を磨き続けなければならない。

 それはそれで、充実した日々なのだ。


〜続く〜 


学園騒乱編、まだ続きます。

次話もなるべく早く書けるよう頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ