第5話
不定期ですみませんm(_ _)m
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「紫苑、ちょっと来なさい」
「はい?」
紫苑を呼び出したのは千冬だ。声色からすると、紫苑と戯れるためではなさそうだ。
「白雪の様子がおかしいわ。何か心当たりない?」
「そうですね……少し悩んでいるような様子は見受けられましたが……」
「悩んでいる? 何に?」
「わかりません。昨日の夜も白雪の部屋に行きましたが、会えませんでした」
「そう……心配ね。今日はこれから学園内を視察する予定なのだれど……」
「俺、様子を見てきます」
「そうね。お願いするわ」
◆◇◆◇◆
コンコンとノックをする。
だが、返事はない。
「桐生、どういうことだ?」
「私にもわかりません。昨日はお食事も召し上らず、今日もまだ部屋から出て来ていないようです……」
白雪が引きこもるなど、考えられなかった。彼女はいつも天真爛漫で明るいのだ。
「白雪? 中にいるなら返事をしてくれないか? 皆心配しているぞ?」
やはり返事はなかった。
諦めて出直そうかと思っていた時、ガチャリと鍵を開ける音が響いた。
「……お兄様……」
「白雪、やっと顔を見せてくれたか」
紫苑はホッとしたが、白雪の様子はいつもとは違っていた。
髪は乱れ、目元は赤くなっている。彼女の最大の魅力の一つである笑顔もない。
いつもだったら、紫苑に飛び付いてくるはずだ。
「白雪、どうしたんだ? 悩みがあるなら聞かせてくれないか?」
「……いやです」
「どうして?」
「……お兄様には話したくない」
「それじゃあ、姉さんに相談したらどうだ? 姉さんも心配しているぞ」
「……」
「まずは、ご飯食べよう。昨日の夜から何も食べてないんだろう?」
「……お兄様、私に優しくしないで……」
「……え?」
白雪の声が震える。
「……お兄様に優しくされると……胸が痛くて……苦しい……」
白雪は右手で自分の胸を押さえ、苦しそうに声を絞り出した。
「白雪! 大丈夫か⁉︎」
紫苑は白雪の体を支え、顔色を伺う。
白雪は泣いていた。
少し息を荒くさせ、嗚咽を漏らす。
「桐生、医者を呼んでこい!」
「はい!」
「待って! ……っ……その必要は……ありません……」
「ですが!」
「桐生、少しお兄様と二人でお話がしたから、席を外して……」
「……お嬢様」
「……お願い。私は大丈夫だから」
桐生は白雪の様子を心配して、戸惑っていた。
「桐生、白雪には俺がついてるから大丈夫だ。何かあったらすぐに呼ぶ」
「……わかりました」
桐生が席を外し、紫苑と白雪の二人きりになった。
「白雪、本当に大丈夫?」
「……はい。体の方は問題ありません」
「体の方は、ね……」
心の悩みは深いようだ。
「……お兄様」
「ん?」
白雪が紫苑の名を呼んだ瞬間、ふわりと紫苑に抱きつく。
「……お兄様、ベッドの方に……」
「ベッド?」
「……ベッドに座ってください……」
紫苑は白雪に抱きつかれたまま、ベッドに腰掛けた。
ベッドはまだ温かい。白雪がさっきまで寝ていた証拠だ。
ベッドに腰掛けた紫苑の膝に、白雪は横向きに座る。
白雪が紫苑に甘えてくるとき、よくしていたことだ。今更恥ずかしがることでもない。
だが、今回は違った。
不意に白雪は体重を紫苑にかけ、ベッドに押し倒した。
白雪は紫苑にまたがる。
「白雪?」
予想外の出来事に紫苑は動揺を隠せない。
「……お兄様、私ではダメですか?」
「え?」
「……私には魅力がありませんか?」
「白雪、いったいどうしたんだ」
「……答えて……私はあなたのことが……こんなにも好きなのに……」
「……白雪、俺も白雪のことは好きだよ」
「……それでは、私のことを受け入れてくれますか?」
「……それはできない」
「どうして⁉︎」
「……」
「……私があなたの義妹だからですか⁉︎ 私に魅力がないからですか⁉︎ それとも、私より愛している方がいるからですか⁉︎」
「少し落ち着け。例え俺が白雪を受け入れても、こんな形で君を抱きたくない」
「……ずるいです。私の好意を知っておきながら……」
「俺は自分がヘタレだと少なからず自覚してる。でもね、今俺が誰かを受け入れたらダメなんだ」
「……どうして⁉︎」
「俺はいずれ一条の当主になる。無闇に人と付き合うことはできない。俺の軽率な行動のせいで、多くの人を不幸にしてしまう可能性がある」
「……でしたら、いつになれば受け入れてくれますか? いつまで待てばいいのですか?」
「俺が力を手に入れるまで。組織のしがらみを打ち破って、自由を手に入れるまでかな」
「……」
「いつになるかわからない。それまで待てとは言わない。ただ、今俺は白雪のことは好きだ。それは本当だよ」
「……嘘です! だってお兄様は……片桐と……っ……」
ポロポロと涙をこぼし、紫苑の服を濡らす。
「片桐?」
「……お兄様は……片桐を愛していらっしゃるのでしょう⁉︎ 私よりも……片桐のことを……」
「どうしてそう思う? 確かに片桐のことも好きだよ」
「だって……昨日の夜、お兄様の部屋で……」
「俺の部屋に来たのか?」
コクリと頷く。
「……お兄様と片桐が……ベッドで……」
「マッサージしてたな」
「……マッサージ?」
「うん。片桐には日頃お世話になってるから。お礼に」
「……マッサージだったんですね……」
「それで勘違いしてたわけね……」
「……凄くショックでした……」
「まったく……」
パチンッと白雪の額にデコピンをして、紫苑は優しく笑った。
「俺もいつかは誰かと結ばれるかもしれない。それが誰かはわからない。もしかしたら、政略結婚させられるかもしれない。でも、俺は自分で自分のことは決めたい。だから、今は力を蓄えるときなんだ」
「……お兄様にとって、愛の力は組織の力に劣るものですか?」
「愛の力で乗り越えられる、と言いたいところだけど、現実は難しい。愛する人と結ばれて、その先も幸福でいたいからね」
「私は待っています。いつまでも。あなたと幸せな日々を過ごせるなら」
◆◇◆◇◆
「白雪が元気になってよかったわ。さすが紫苑ね」
「俺は特別何かしたわけではないですよ」
白雪はすっかり元通りだ。
現在は、学園の敷地内にある施設を視察している。
「お姉様とお兄様にはご心配をお掛けして申し訳ありませんでした」
「白雪、桐生が一番心配していたと思うよ」
「桐生、ごめんなさい。心配かけて……」
「いいえ、いつものお嬢様に戻られてよかったです」
「元はと言えば、俺と片桐が白雪を勘違いさせてしまったんだがな」
「紫苑様のマッサージ、気持ちよかったです!」
「え! なにそれ! 私もしてほしい! 紫苑、お姉ちゃんも日々仕事を頑張ってるの! あとでマッサージよろしくね!」
「はいはい」
今はまだ、この関係でいいのだ。
いつか、紫苑が誰を選ぶときがくる。
そのときに、自分が紫苑の隣にいれるよう、自分を磨き続けなければならない。
それはそれで、充実した日々なのだ。
〜続く〜
学園騒乱編、まだ続きます。
次話もなるべく早く書けるよう頑張ります!




