第5話
「どういうこと!? あなたが拉致されたこともここの場所もわからないはず……」
凛花はそう言って、紫苑に目で問う。
「俺は学校を出る前に、部下に連絡して携帯のGPSを使って俺の居場所を把握してもらっていたんだ」
「それだけでは拉致されたなんてわからないはずよ!」
「歩くスピードではない速さで俺の位置を示す印が動いて、怪しい場所に向かった時点で気付いたんだろう」
「そんなっ!……」
凛花が驚愕で目を見張る。
「お嬢様! 早くお逃げください! 裏に車がありますから!」
男は叫ぶ。
だが、次の瞬間男は後ろから頭を蹴られ倒れた。
「紫苑様!」
片桐が必死の形相で紫苑の名を呼ぶ。
そして、紫苑が椅子に縛られ倒れているのを確認すると、全身から怒気を発した。
目の前の凛花を絶対零度の眼差しで睨みつける。
凛花は腰を抜かし、ペタンと床にへたり込んでしまった。どうやら凛花には戦闘能力はないようだ。
「片桐、速かったね。一人で来たの?」
「はい。ですが、念のため他にも連絡しておきました」
「悪いんだけど、これをほどいてくれるか?」
片桐は刃渡20㎝ほどあるナイフを取り出し、縄を切った。
その間も凛花はガクガクと震えているだけだった。
自由になった紫苑と片桐は凛花を見下ろす。片桐はまだ殺気立っている。
「紫苑様、この者が?」
「そうだ。この子が伊達凛花だ」
「そうですか……」
そう言って片桐は、凛花に近づく。
長い脚を上げ、凛花を蹴り倒そうとする。
「待て! 片桐、そこまでやる必要はない」
見た目もか弱いお嬢様の凛花が本気の片桐の攻撃を食らったら、軽傷では済まない。
だが、片桐は止まらない。
「紫苑様、この者は紫苑様を拉致した挙句、危害を加えました。万死に値します」
「待て待て、俺は大丈夫だから」
「いいえ、私は慈悲を与えるつもりはありません」
「片桐、ここで凛花に怪我を負わせてしまったら、伊達と九条が争いかねない」
「ですが!」
「……ここにいる者全員捕らえて、話を聞こう」
その後到着した紫苑の部下に全員捕らえさせた。
◆◇◆◇◆
捕らえた男たちは頑なに口を閉ざしていたが、凛花は違った。
首謀者は凛花の父であり、伊達グループのトップ。凛花にこの役目を与えたらしい。
「伊達家当主も娘に残酷なことをさせるなぁ」
「そうですね。しかも、紫苑様を狙うなんて……絶対に許しません」
片桐は相当お怒りの様子。
「それで、凛花さんをどうなさるのですか?」
「このことは伊達グループにも伝わるだろう。凛花は伊達グループに居づらくなるな」
凛花は今回の首謀者を吐いてしまった。自らの罪を認めたのだ。当然、紫苑は伊達グループに対し、賠償を請求する権利がある。
その権利を与えたのは、凛花だ。これは組織に対する裏切りに等しい。
「紫苑様に危害を加えたんです。自業自得です」
「だが、伊達家は娘にこんなことをやらせるくらいだ。凛花も無事ではいられないだろうな」
「紫苑様は優しすぎます。あなたを拉致した人ですよ?」
「そうだけど、凛花は自分の意思でこんなことを望んだんじゃない」
「私たちの仕事のほとんどは組織に強要されているものですよ?」
「それは俺たちが組織で働くことを望んでいるからだ。だけど、凛花は違う。伊達グループ当主の娘に生まれ、彼女の意思とは関係なく組織に尽くすことを強要されている」
「それは……仕方のないことなのでしょうか?」
「難しい問題だな」
紫苑は伊達家の方針など知らない。
だが、組織に関わる家に生まれたとか、そんなことは関係なく、人は自由であるべきだと紫苑は考えている。
それと同時に、凛花が伊達家の決定に逆らうことが難しい立場にあることも理解している。
伊達家の人間が組織の仕事をせず、どうやって生きていくというのか。
「片桐は、片桐家に生まれてよかった?」
「はい。紫苑様たちにも出会うことができましたので」
「俺もだ。組織に関わる家に生まれて幸せだと思ってきた。仕事もお金も困らない。だけど、そうじゃない人もいるんだな」
「そうですね。ですが、もし凛花さんが伊達家ではなく他の家に生まれていたら、私たちと同じように幸福だったかもしれません」
「俺たちのグループでは凛花のような子を苦しめたくないな」
「いくら組織の一員だとしても、意思の自由は保障されるべきです」
「俺もそう思う。だから、これからのことは凛花自身に決めてもらおう」
〜続く〜




