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とある男子高校生の裏事情  作者: 烏丸 遼
来校者編
52/66

第4話


 店の中はお客さんも少なく、閑散としていた。

 二人はすぐにドリンクのオーダーを済ませ、商品を持って席についた。


「このお店、一度来てみたかったの」

「来たことないのか?」

「うん」

「珍しいな」

「お友達からもそう言われた」


 そう言って笑う凛花にはどこか、影があった。


「ねぇ、紫苑のやつ一口飲んでもいい?」

「いいけど……」

「ありがとう! 私のも味見ていいよ」


 凛花は味わうようにゆっくりと、ストローを咥え飲んでいる。

 紫苑も凛花のドリンクを一口もらった。


◆◇◆◇◆


「美味しかったね〜。また来たい」


 凛花はあのお店に行けたことがよほど嬉しかったのか、上機嫌だ。

 一緒にいる紫苑も思わず微笑んでしまう。

 しかしーー


「うっ!?」


 いきなり、紫苑は激しい目眩に襲われる。

 凛花がよろけた紫苑の体を支える。


「……ごめんなさい」


 紫苑は気を失う寸前、凛花の悲痛な表情と涙声を聞いた。


◆◇◆◇◆


 紫苑が目覚めたのは、何もない部屋だった。

 紫苑は椅子に縄で縛り付けられ、手足も使えない。目と耳は塞がれていなかった。

 この時ようやく自分の現状を理解できた。

 拉致されたのだ。おそらく、凛花も共謀して。


「……はぁ、やっぱこうなるか……」


 凛花のことを完全に信用していたわけではないが、やはり裏切られると悲しい。



「お、やっと起きたか」


 一人の男が部屋に入ってきた。

 紫苑はその男を睨みつける。


「お前が一条紫苑か?」

「聞かなくてもわかるだろう。お前はだれだ? ここは? 凛花はどこだ?」

「どれもお前に答えてやる必要のない質問だな」


 男は全く紫苑の話に耳を傾けない。


「俺を人質にでもするつもりか?」

「人質か……それも有りだが、今は情報を聞き出すのが先だ」

「情報だと?」

「俺の質問に答えろ。さもないと痛い目にあうぞ」


 そう言って紫苑を脅し、いろいろと尋ねてくる。

 質問の内容から、組織絡みだと確信する。

 紫苑は中学生のとき、訓練を受けている。あらゆる場面において、対応できるように。

 紫苑は、質問に対しもっともらしい嘘を言ってなんとか切り抜ける。

 だが、それも長くは続かない。


「お前、嘘言ってるだろ!」

「本当のことだ」

「……舐めやがって、少し痛い目に遭ってもらおう」


 次の瞬間、紫苑は顔を殴られる。

 ガタンと椅子ごと倒れ、立つことはできない。

 さらに男は、倒れている紫苑を何度も蹴る。


「やめなさい!」


 そこへ、聞いたことのある声が響く。


「大きな音がしたと思えば……紫苑を出来るだけ傷付けるなと言ったでしょう!」


 凛花の声だ。


「ですが!」

「黙りなさい!」


 凛花の怒号が部屋に響く。


「あなたは下がりなさい。あとは私がやります」

「お嬢様がなさることでは……」

「いいから下がりなさい」


 男は不満そうな顔をして部屋から出て行った。


「紫苑、大丈夫?」


 凛花が心配そうに近寄り、紫苑に声をかける。


「大丈夫なわけないだろ。やっぱりこれが目的だったのか?」

「……ごめんなさい。紫苑には手を出すなと伝えたのだけど……」

「九条グループの情報が欲しかったのか?」

「ええ、そうよ」


 淀みなく凛花は答える。


「俺たちが飲み物を交換したとき、薬を入れたのか?」

「ええ。私が飲んだ後、あなたに渡す直前に」

「すっかり油断していたよ。まさか凛花がこんなことをするなんて」

「……私だって、本当はこんなこと……」


 凛花の美しい顔が歪む。


「……でも、こうするしかないの。あなたが情報を吐いてくれない限り、ここから出せない」

「……それはできない。いくら拷問されても組織を裏切ることはできない」

「どうして!? 組織なんてあなたを縛り付けているだけでしょう!?」

「凛花だって組織のためにこうして俺を拉致したんだろ?」

「それはっ!……」


 凛花は苦しそうに胸を押さえ、震えている。


「……お願い、九条グループのこと話して……」

「……凛花、お前にこの仕事は向いてない」

「……どういう意味?」

「それはーー」


 紫苑が答えようとした瞬間


「お嬢様! 九条グループと見られる者による襲撃です! お逃げください!」


 先ほどの男が血相を変えて部屋に飛び込んできた。


「どうして!?」


 凛花は驚愕を浮かべ、オロオロとする。


「さすが……やっぱり敵わないなぁ」


 一方紫苑は、安堵の表情を浮かべそんなことを呟いた。


〜続く〜


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