第4話
店の中はお客さんも少なく、閑散としていた。
二人はすぐにドリンクのオーダーを済ませ、商品を持って席についた。
「このお店、一度来てみたかったの」
「来たことないのか?」
「うん」
「珍しいな」
「お友達からもそう言われた」
そう言って笑う凛花にはどこか、影があった。
「ねぇ、紫苑のやつ一口飲んでもいい?」
「いいけど……」
「ありがとう! 私のも味見ていいよ」
凛花は味わうようにゆっくりと、ストローを咥え飲んでいる。
紫苑も凛花のドリンクを一口もらった。
◆◇◆◇◆
「美味しかったね〜。また来たい」
凛花はあのお店に行けたことがよほど嬉しかったのか、上機嫌だ。
一緒にいる紫苑も思わず微笑んでしまう。
しかしーー
「うっ!?」
いきなり、紫苑は激しい目眩に襲われる。
凛花がよろけた紫苑の体を支える。
「……ごめんなさい」
紫苑は気を失う寸前、凛花の悲痛な表情と涙声を聞いた。
◆◇◆◇◆
紫苑が目覚めたのは、何もない部屋だった。
紫苑は椅子に縄で縛り付けられ、手足も使えない。目と耳は塞がれていなかった。
この時ようやく自分の現状を理解できた。
拉致されたのだ。おそらく、凛花も共謀して。
「……はぁ、やっぱこうなるか……」
凛花のことを完全に信用していたわけではないが、やはり裏切られると悲しい。
「お、やっと起きたか」
一人の男が部屋に入ってきた。
紫苑はその男を睨みつける。
「お前が一条紫苑か?」
「聞かなくてもわかるだろう。お前はだれだ? ここは? 凛花はどこだ?」
「どれもお前に答えてやる必要のない質問だな」
男は全く紫苑の話に耳を傾けない。
「俺を人質にでもするつもりか?」
「人質か……それも有りだが、今は情報を聞き出すのが先だ」
「情報だと?」
「俺の質問に答えろ。さもないと痛い目にあうぞ」
そう言って紫苑を脅し、いろいろと尋ねてくる。
質問の内容から、組織絡みだと確信する。
紫苑は中学生のとき、訓練を受けている。あらゆる場面において、対応できるように。
紫苑は、質問に対しもっともらしい嘘を言ってなんとか切り抜ける。
だが、それも長くは続かない。
「お前、嘘言ってるだろ!」
「本当のことだ」
「……舐めやがって、少し痛い目に遭ってもらおう」
次の瞬間、紫苑は顔を殴られる。
ガタンと椅子ごと倒れ、立つことはできない。
さらに男は、倒れている紫苑を何度も蹴る。
「やめなさい!」
そこへ、聞いたことのある声が響く。
「大きな音がしたと思えば……紫苑を出来るだけ傷付けるなと言ったでしょう!」
凛花の声だ。
「ですが!」
「黙りなさい!」
凛花の怒号が部屋に響く。
「あなたは下がりなさい。あとは私がやります」
「お嬢様がなさることでは……」
「いいから下がりなさい」
男は不満そうな顔をして部屋から出て行った。
「紫苑、大丈夫?」
凛花が心配そうに近寄り、紫苑に声をかける。
「大丈夫なわけないだろ。やっぱりこれが目的だったのか?」
「……ごめんなさい。紫苑には手を出すなと伝えたのだけど……」
「九条グループの情報が欲しかったのか?」
「ええ、そうよ」
淀みなく凛花は答える。
「俺たちが飲み物を交換したとき、薬を入れたのか?」
「ええ。私が飲んだ後、あなたに渡す直前に」
「すっかり油断していたよ。まさか凛花がこんなことをするなんて」
「……私だって、本当はこんなこと……」
凛花の美しい顔が歪む。
「……でも、こうするしかないの。あなたが情報を吐いてくれない限り、ここから出せない」
「……それはできない。いくら拷問されても組織を裏切ることはできない」
「どうして!? 組織なんてあなたを縛り付けているだけでしょう!?」
「凛花だって組織のためにこうして俺を拉致したんだろ?」
「それはっ!……」
凛花は苦しそうに胸を押さえ、震えている。
「……お願い、九条グループのこと話して……」
「……凛花、お前にこの仕事は向いてない」
「……どういう意味?」
「それはーー」
紫苑が答えようとした瞬間
「お嬢様! 九条グループと見られる者による襲撃です! お逃げください!」
先ほどの男が血相を変えて部屋に飛び込んできた。
「どうして!?」
凛花は驚愕を浮かべ、オロオロとする。
「さすが……やっぱり敵わないなぁ」
一方紫苑は、安堵の表情を浮かべそんなことを呟いた。
〜続く〜




