第2話
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紫苑が千冬に相談してから数日後、九条本家からメッセージがきた。
要約するとこうだ。
『相手の動きをよく観察して、その意図を探りなさい。また、こちらからも多少の接触をしなさい。うっかりと情報を漏らさないように』
こんな感じだ。
実際、初めて会話した日から紫苑と伊達凛花は話をしていない。特にこれといったアプローチはない。
それもまた、何故なのかわからないので、こちらから接触してみることにした。
◆◇◆◇◆
彼女はもうすっかりクラスに馴染んで、お喋りを楽しんでいる。
紫苑はそんな伊達凛花に話しかけた。
「伊達さん、少しいいかな?」
「一条君? もしかして、思い出したの?」
「いや、そういうわけじゃないけど。伊達さんて、どうしてここに来たの?」
「……私の正体には気付いたんだね」
「それじゃあやっぱり、伊達さんて組織の……」
「うん。一条君と同じよ」
あっさりと彼女は認めた。そらが逆に怪しく見えて、紫苑は身構える。
「もう一度聞くけど、何のためにここに?」
「それは、あなたがいたから。でも、勘違いしないで。組織のためじゃないわ。本当にあなたに会いたかったから」
「……それを信用しろと?」
「……してくれなくてもいい。でも、私は組織が嫌いなの。伊達グループが嫌い」
「……どうして?」
「……それは言えない」
そのときの彼女はとても辛そうに見えた。
「……私が一条君に会いたかったのは本当」
「……伊達さん、悪いけど俺は伊達さんを信用することはできない」
「……わかってる。それじゃあ、せめて凛花って名前で呼んで? 私も紫苑って呼ぶから。それくらいいいでしょ?」
「……まぁそれなら」
「じゃあ呼んで? 紫苑」
「り、凛花」
「よろしい。これからは組織とかは考えないで、お互い仲良くしましょう」
「……わかった」
◆◇◆◇◆
「まぁこんな感じだ」
「ますます怪しいですね」
現在、紫苑は片桐に凛花との出来事を話していた。
「そうか? 普通にいい子だぞ? それに俺としても凛花を疑いの目で見たくない」
「……紫苑様、随分と凛花さんを庇うのですね。もう堕とされてしまいましたか」
「おいおい、違うぞ〜」
「どうですかねっ!」
片桐はプイッと頬を膨らませて、拗ねてしまった。
「片桐、拗ねるなって」
「拗ねてません!」
「拗ねてるじゃん……」
「紫苑様のせいです!」
仕方なく、紫苑は片桐の頭を撫でる。こうすると、大抵片桐の機嫌が直るのだ。
それに、片桐のサラサラした髪は凄く手触りがよく撫でている方も気持ちがいい。
「んぅ……紫苑様ずるいです」
「片桐はなでなでされるのが好きだな」
「違います。紫苑様だから好きなのです」
そう言って、片桐は紫苑に寄りかかる。
長いこと二人はそのままだった。
◆◇◆◇◆
次の日、いつものように学校に行く。
正直凛花のことは、まだわからないことが多すぎる。
名前で呼び合うようにはなったものの、まだ完全に信用したわけではない。
これから彼女とどう接していけばいいのか、悩んでいたのだが、
「紫苑、お昼一緒に食べない?」
「え!?」
いきなり凛花が昼食に誘ってきた。これにはクラスが騒めく。
男子からの嫉妬や隣からは殺気が伝わってくる。
このままでは昼食どころではないので、二人は場所を変えて屋上に来た。
「凛花、どうしたんだ?」
「何が?」
「何がって……」
「別におかしくないでしょう? お友達とごはん食べても」
「そうだけど。何で俺と?」
「……それは、紫苑と食べたかったから。紫苑は嫌?」
「い、いや大丈夫だ」
風にサラサラ靡いている黒髪が美しく、思わず見惚れそうになる。
「見て、紫苑にもお弁当作って来たの。食べてみて?」
「え、でも俺にも弁当あるし……」
紫苑の手には、片桐が早起きして作ってくれたお弁当がある。
「それじゃあ、そのお弁当は私が食べるから紫苑は私の作ったお弁当食べて?」
「……なんでそんなに食べさせたいんだ?」
「別に毒なんて入ってないわよ。ただ、私が作ったお弁当を食べてほしいだけ」
「……わかった」
これ以上言っても引き下がってくれないようだったので、仕方なく凛花のお弁当を食べることにした。
「あ、ちょっと待って。はい、あーん」
「……おい、それはちょっと」
「えーダメ?」
「だ、だめ」
凛花の上目遣いがかなり可愛いらしかったので、思わず了承してしまいそうだった。
この後、凛花のお弁当を食べた。普通に美味しかった。凛花も満足気な表情で教室に戻っていった。
片桐の作ってくれたお弁当は凛花が食べようとしたが、二つのお弁当は食べられないようだったので、紫苑が止めた。
片桐が作ってくれたお弁当を残してしまった。その罪悪感と凛花の不可解な行動による困惑が残った。
◆◇◆◇◆
「それで? 言いたいことはそれだけ?」
「ま、まて、本当に弁当一緒に食べてただけだって」
教室に戻った紫苑を待っていたのは、怒りをたぎらせた愛梨だった。
「随分と仲良くなったのね」
「いや、実際俺も困惑してるんだ。女の子はよくわからんね」
「この、馬鹿!」
「うげっ!」
思いっきり腹パンをくらった。胃の中の凛花の作ったお弁当がリバースしそうになった。
〜続く〜




