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とある男子高校生の裏事情  作者: 烏丸 遼
第1章 組織加入編
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第3話

 


◆◇◆◇◆


 4月10日 夜

〜澤登家プライベートルーム〜


 この部屋に集まった者たちは、皆お世辞にも良い表情をしているとは言えない。

 部屋の中央には、澤登家当主、澤登純一が鎮座している。彼は何を思っているのか、時折難しい顔をする。

 ここに集まった他の当主たちーーつまり反対派の人間たちは、少なくない。


「澤登殿、どうするおつもりか」


 誰かが言った。純一は、沈黙を続ける。


「我々は、到底受け入れられない」


また誰かが言った。周りからも「全くその通りだ」と声が上がる。


「澤登殿、もはや九条様の説得も不可能です。実力行使でいきましょう」

「そうです。今なら武闘派の大半もこちらの味方です」

「ですが、一条殿のバックには鷹司家とおそらく九条家がいるでしょう」

「武闘派の大半が、反対派ならば九条様もお考え直しになるだろう」


 こんな感じで、次々に各当主たちから意見が出る。

 だが、今回の騒動で一番危惧すべきところに気づいている者もいた。純一もその一人だ。

 ーー本来なら組織内で争っている場合ではないのだ。

 ーー実力行使したところで利を得るのは紫苑でも、純一でもない。

 純一は、もちろん反対派の人間だ。だが、肝心なことをわかっていない当主たちに諭すためにも、ある提案を打ち出した。



◆◇◆◇◆


4月11日 8:45

 紫苑は、心の準備をした。

 今日はこれから、昨日決められた各会派ごとの集まりがある。そこで、今後の方針を決める。

 憂鬱な気分を無理矢理払拭させ、気合いを入れた。

 彼の予想では、おそらく今日は勝負の日だ。部下にも伝えてある。

身支度を整え、武闘派の会場へと向かった。


 長い廊下を歩き、会場ーー紅葉の間についた。開始は9時だから、おそらくほとんどのメンバーが来ているはずだった。本来ならばーー

 ガラっと、扉を開けるとそこには武闘派総勢の5分の1程しかいない。彼らもまた困惑した表情だ。

 紫苑につくか、純一につくか、迷ったに違いない。


「……予想はしていたが、ここまでとは……」


 紫苑は、もう少し味方がいると踏んでいたが甘かったようだ。


「……愚か者ども」


 後ろにいた片桐が、冷たい声で呟いた。怒りが滲み出ている。


「……片桐、これは予想していたことだろう」

「ですが!」

「落ち着け。おそらく、他は澤登殿のところにいるはずた。そっちにいってみよう」


 これでは、埒があかない。武闘派の機能が停止することだけは、避けなければならない。


「危険です! いきなり襲われるかもしれません!」

「九条本家でそんなことはしないだろう。それに、澤登純一殿は話がわかる人だ」


 そう言って、渋々片桐は了承した。だか、念のためボディーガードを2人伴わせた。


◆◇◆◇◆


 今、澤登家のプライベートルームには総勢40人ほどの武闘派たちがいる。

 女性もちらほら居るが、大半は大柄で屈強な男ばかりだ。彼らは、武闘派のなかでも幹部たちで、彼らの下に実行部隊がいる。

 彼らは、純一を支持した。これだけの武闘派が集まれば、たとえ千冬を擁する紫苑でも勝てる確率は低いだろう。

 だが、全面戦争などはしない。

 彼は、昨夜当主たちにした提案を武闘派たちにもした。


 ☆


 紫苑たちは、澤登家プライベートルームに着いた。待ち伏せなどはなかった。

(やはり、澤登殿は聡明な方だ)

 紫苑は、本心からそう思った。

 普通ならば降格させられ、新米に長年座っていた椅子を取られたのだ。逆上して実力行使に出てもおかしかない。

世間には、九条グループをよく思っていない人たちも少なくない。

 組織内部で、争いが起こればーーそれも武術のエキスパートたちーー組織の力は激減するのは、目に見えている。

 紫苑も純一も、そこでは意見が一致していた。

紫苑は、臆することなく扉を開ける。


「ようこそ、一条君」


 落ち着いた声で、紫苑に話しかける。

 一条「殿」ではなく、一条「君」であることから、やはり認めていないらしい。


「失礼します」


 紫苑たちも、一応の礼儀を弁え部屋へ入る。片桐は、機嫌が一層悪そうだ。


「早速だが、私たち今回の決定は受け入れられない。だが、実力行使もするつもりはない。君から辞退してもらえないだろうか」


 意思ははっきりとしているが、誠実な声。この人が、大物である証拠だ。


「申し訳ありません。自分も辞退するつもりはありません。ですが、この問題はこの場での解決を望みます。明日から、学校に行かなければなりませんので」


 紫苑も、はっきりと言う。ちなみに今日は、日曜日。入学式が終わって初めての日曜だ。今日中には、山梨に戻らなければならない。


「やはりそうか。私も、この問題を長引かせたくはない。一つ提案だがら、武闘派らしく戦って決めよう。全面戦争などするつもりはない。どうだね?」

「戦いのないようは?」

「私は、そろそろ代表の座を息子の恵一に継がせようと思っていた。そこで、どちらが武闘派代表にふさわしいか、君と息子で戦って決めてはどうかね? もちろん各当主や武闘派たちの了承済みだ」

「では、澤登恵一殿に自分が勝てれば認めてもらえるということですか?」

「その通りだ」

「わかりました。お受けしましょう」


 条件は悪くない。各当主を説得できたのも、純一の性格からだろう。

 だが、相手が少々厄介だ。

 澤登恵一、澤登家次期当主、確か今年で25歳になる。今は、防衛省に勤めているはずだ。

 当然、厳しい訓練を受けてきただろう。

 会ったことはあるが、一戦を交えたことは無い。


「恵一、澤登家の名誉のためにも本気でいきなさい」

「はい。父上」


 純一の側に控えていた恵一が素早い動きで、スクっと立った。

 185㎝はありそうだ。足はスラリとして、ガタイが良い。純一に似て、誠実そうな顔だが、その目には闘志がみなぎっている。

 紫苑も立つ。ここで逃げる訳にいかない。

 片桐が、不安そうに見上げる。


「そんな顔するな。大丈夫だ」

「ご無理をしないでください……」


 紫苑は、笑顔で頷いた。


「紫苑君、こちらは家の名誉がかかっている。手加減は出来ない」

「はい。こちらも全力でいきます」


 大抵、このようなバトルは相手を戦闘不能にするか、審判役が止めれば終わる。

審判は、武闘派の者たちがやることになった。恵一に有利になるかもしれないが、澤登家の人間はそんな姑息ではない。

 両者の距離は、10mほど。

 視線がぶつかる。


「始め!」


 戦いの火蓋が切って落とされた。

 両者は、すぐに構えに入る。

 紫苑は、半身に構えた。

 一方恵一は、ボクサースタイルだ。ボクシングでもやっていたのだろうか。

 紫苑は、恵一から飛んでくる拳を打ち落とす。

 その度、パシッという音が部屋に響く。

 物凄い速さだ。威力も十分ある。

 素手の拳をまともに食らったら、一発KOだろう。

 恵一も容赦しない。休めることなく、拳を突き出す。

 まだまともに食らってないが、紫苑は確実に受身側だ。押されている。

 紫苑も、飛んで来た拳を受け流し、恵一の側面に周り突きや蹴りを入れるが、腕でしっかりとガードされる。

(ボクサーだったのか? それならば……)

 ーーボクサーが使えるのは、手だけ。

 ーーゆえに、下半身は比較的脆いはず。一発では倒せないものの、ローキックで足を攻める。

 紫苑は、そう考え腰をひねり恵一の太腿を狙いキックをかました。


「……っ!」


 声にならない悲鳴が、紫苑の後ろから聞こえた。

 後ろへ吹き飛ばされたのは紫苑だった。

 ーー油断した。恵一も蹴りが使えるのだ。 しかも、一流と言っても過言ではない。

 紫苑は、ローキックのため腰をひねり蹴ろうとした。そこで、片足一本になったところを前蹴りされたのだ。

 前蹴りは、腰をひねらず足のスナップを効かせればいいだけなので、恵一の足の方が先に届いた。

 紫苑も、咄嗟に顔面は腕でガードしたが狙われたのは腹。最初からこれを狙って蹴りを出さなかったのかもしれない。

(ボクシングではなく、キックボクシングだったか)

 ーー手だけでなく、足も使えるとは非常に厄介な相手だ。

 この強敵にどうやって対処するか、紫苑は考えていた。


〜続く〜

今回も中途半端な終わり方で、申し訳ありません。次話はすぐに投稿します!


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