第1話
伊達凛花は編入早々、クラスの人気者になった。
編入生が珍しいのか、彼女の周りには人が絶えなかった。そのほとんどは女子で男子は遠目に彼女のことを見ていた。
「凛花ちゃん、お嬢様みたいだけど気さくで優しい子だったよ」
「そうか。確かにお嬢様みたいだな」
「紫苑、見惚れてる」
「そ、そんなことないし」
「どうだかね。紫苑てああいうのが好み? 早苗さんも千冬さんもお嬢様みたいだったし」
「……おいおい、姉さんたちのことは関係ないだろ」
伊達凛花と話をしてきた愛梨が、彼女について教えてくれた。
紫苑は特に彼女に興味を持たなかった。
しかし、
「……あの、一条君?」
「はい?」
放課後突然、伊達凛花に声をかけられた紫苑は素っ頓狂な声になってしまった。
「あ、ごめんなさい。いきなり声をかけちゃって……」
「い、いや大丈夫だよ。何?」
遠慮がちに喋る彼女は、触れればすぐに消えてしまいそうだ。
「あの……一条君て私のこと覚えてるかな」
「え?」
「昔、私たち会ったことあるんだけど」
「……マジで?」
「うん」
「……ごめん。思い出せない。それ本当に俺か?」
「……そっか、しょうがないねずっと昔だったし」
「どこで会ったんだ?」
「あなたのお家」
そんなことを言われ、その後紫苑は部活にも集中できず、自宅でもずっと彼女のことを考えていた。
そして、もしかしたらと思い片桐に彼女のことを聞いてみた。
伊達凛花を知っているか、と
◆◇◆◇◆
現在。
「紫苑様! 伊達家は伊達グループのトップです。伊達グループは九条グループのライバルです。絶対に何か企んでいます!」
「……まぁそうだろうね」
伊達グループとは、九条グループのライバル的存在で、市場社会や政界において互いに睨み合っている。
ここ最近の目立った衝突はないが、少なくとも味方ではない。
「紫苑様に近づいてきたとなれば、紫苑様に何かしてくるかもしれません」
「だが、伊達家の御令嬢がわざわざこんなところまで来て、俺に接触する意図がわからない」
「確かにそうですが、やはり危険です。せめて登下校時にはボディガードをつけるべきです!」
「いや、もし俺に何かしようとするなら、わざわざあっちから名乗る必要はないだろ」
「では、紫苑様に近づいて情報を盗む算段でしょうか?」
「その可能性はある」
わざわざ伊達凛花から接触してきた理由がわからない。しかもこの時期に。
「伊達グループと九条グループは、今どんな関係なんだ?」
「少し昔には、陰で武力衝突も多少はあったようですが、今は牽制し合う程度でしょう」
「それじゃあ、今回のことは俺が武闘派代表になったからか?」
「そんな危険なことを伊達家の御令嬢にやらせるでしょうか?」
「だよなぁ〜」
結局、伊達グループの意図は見えてこず様子を見ることにした。
「紫苑様、伊達凛花さんはどんな方でしたか?」
「うーん、俺もあまり話してないからよくわからないけど、皆が言うには気さくで優しいらしい。見た目も綺麗だし」
「紫苑様! まさか見惚れてなどいませんよね!?」
「いや、ないない」
「本当ですか?」
「本当だよ」
「はぁ、ますます紫苑様が心配になってきました」
「片桐は心配性だなぁ」
「紫苑様がデレデレしてるのがいけないんです!」
「しとらんわい!」
愛梨だけでなく、片桐にまで難癖をつけられてしまった。
「紫苑様、くれぐれも気を付けてください。おそらく紫苑様を誘惑してくるでしょうから」
「そんな子には見えないんだけど……」
「いいえ、わかりません。もしかしたら、凄く野心家かもしれません」
「……わかった。気を付けるよ」
◎
さらに、紫苑は千冬にも相談した。
「なんですって! 伊達家の御令嬢が!?」
さすがの姉さんもいつもの余裕がない。
「はい。俺に接触してきました」
「まさか、美人?」
「ええ、まぁ」
「ちょっと! なにデレデレしてるの!」
「してません!」
これで3人目だ。勘弁してほしい。デレデレなどしてない。多分。
「これは危険ね。叔母様には私から伝えておくわ。あなたも色香に惑わされないようにね!」
「……はい、気を付けます」
◎
「紫苑様、千冬お嬢様は何と?」
「片桐と大体同じようなことを言ってた」
「やはりそうですか」
「やはりって……」
「ところで紫苑様、一緒に寝ましょう?」
「は!?」
「紫苑様が伊達凛花さんに惑わされないように、私ができるだけ紫苑様のお側にいます」
「いやいや、いいから。俺は大丈夫だから」
「いえ、私にできることはこれくらいです。私にしてほしいことがあったら何でもおっしゃってください」
「あ、ありがとう。でも、本当に大丈夫だから」
「……私は不安です。紫苑様が誘惑されて、
取られてしまうのが」
「俺はそんなに信用されてないのか……」
「違います! 紫苑様のことは誰より信用してます! ですが……」
片桐は本気で心配しているようだ。
「……わかった。今日は一緒に寝ようか」
こうして、紫苑と片桐は一緒に眠りについた。
〜続く〜