第10話
☆
紫苑と片桐は愛梨を探しに近くの自動販売機に向かっていた。そこでお目当人物は発見できたのだが、面倒なことになっていた。
「愛梨!」
紫苑は慌てて愛梨に駆け寄る。
どうして自分の周辺でトラブルが起きてしまうのだろうと愚痴りたくなったが、今はそれどころではない。
愛梨は、目に涙を浮かべていたが安心した様子だ。
「俺の連れに何かご用ですか?」
紫苑は睨みを利かせ、襲われたとき対応できるよう身構えてながら聞いた。
すると、男たちは「男いたのかよ」と舌打ちしながら去っていった。
紫苑としては、武力行使をする必要がなくて一安心だ。さすがに2時間の内に2度も喧嘩騒ぎを起こしたくない。いくら風紀委員であっても。
「愛梨、大丈夫だった?」
「……うん」
相当怖かったのか、まだ足は震え、か弱い声だ。
紫苑の服の袖をギュッと掴む。
紫苑は何も言わず、愛梨の頭を撫でてあげた。
◆◇◆◇◆
12時も過ぎ、今日の風紀委員の役目を終えた。腕章を本部に返し、報告をする。
片桐に絡んだ男たちの件は正当防衛が認められた。
その後、また三人で展示やクラスを見て回ったのだが、初めのうち愛梨はいつもの元気に精彩を欠いていた。
だが、それも時間が経つにつれ、いつもの愛梨に戻りつつある。
◆◇◆◇◆
1日目の一般公開終了の時間。
紫苑たちは片桐を送るため、正面玄関にきていた。
「いろいろあったけど、楽しかったわ。愛梨ちゃんもありがとう」
「いえ、私の方こそ早苗さんと一緒で楽しかったです」
最初こそピリピリしていた二人だが、愛梨が絡まれた後、片桐も必死で慰めていたので仲良くなれたようだ。
「紫苑も案内ありがとう」
「どういたしまして。早苗姉さんが楽しめたのなら幸いだよ」
トラブルに見舞われたけど、結果的によかったと思う紫苑だった。
しかし、ここで片桐から爆弾発言ーー
「紫苑、夕食の準備して待ってるから。なるべく早く帰ってきてね」
紫苑は「うん」と返事をしようとした。しかし、それよりも早く愛梨が反応した。
「ちょっと待って! 早苗さんて紫苑の家に帰るの? なんか普段から紫苑の家で暮らしてるみたいな感じなんですけど!」
これには紫苑も片桐のギクリ。
「ち、違うぞ。今日だけだよ」
「本当に? でも今日は早苗さんと二人っきりってことだよね?」
「えーと、まぁ……うん。そうだね」
「何それ! 危険よ!」
「何が?」
「紫苑が野獣になって早苗さんを襲っちゃうかもしれない!」
「おいこら。何言ってんだ」
愛梨がトンデモナイことを言い出した。
「だって! 早苗さん凄い美人だし、早苗さんも紫苑を甘やかせてあげたいとか言ってたし、紫苑もずっとデレデレしてたし」
「いや、最後のおかしい」
「ふふっ、今日は二人で仲良く過ごしましょうね」
「ち、ちょっと早苗姉さん」
「やっぱダメ! 私も紫苑の家に行く!」
片桐ってこんなに悪戯っ子だったか?
というか、愛梨の暴走を止めないとやばい。
「ダメだって前も言っただろ」
「早苗さんにはその手の如何わしいもの見られてもいいの?」
あ、馬鹿
「紫苑? その手の如何わしいもの? それは何かしら? 詳しく聞かせてね?」
「あ、いや、それは……」
愛梨……余計なことを……
「紫苑! 今日だけ私も紫苑の家に泊まる!」
「ダメだって」
「嫌。絶対紫苑の家に行くから」
「愛梨ちゃん、私と紫苑は本当に仲良しなだけだから。心配しなくても大丈夫よ」
「でも……」
「本当に大丈夫だから」
「……それなら二人を信じる」
なんとか愛梨を説得し、片桐を見送った。愛梨には「明日ちゃんと確認するから」と言われた。
……何を確認するんだ?
〜続く〜