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とある男子高校生の裏事情  作者: 烏丸 遼
学園祭編
38/66

第9話

 


◆◇◆◇◆


 現在紫苑は二人の女性に挟まれながら校内をウロウロしていた。

 一方の女性は美人でスタイルが良く、優しそうなお姉さん。

 もう一方は、可愛らしい顔立ちで高校生らしさが残っている成熟途上の女性。

 まさに美女と美少女といったところかだろう。

 だが、その二人の間には何やらギスギスとした雰囲気があった。


 さかのぼること数分前ーー


 「紫苑、そろそろお姉さんを紹介して欲しいのだけど」


 ちょっとした騒動があった後、紫苑と片桐が二人で惚気ていたところ、愛梨の不機嫌な声がかけられた。


 すると、片桐が自ら愛梨の前へ出た。ニコニコと笑顔を絶やさずに。片桐と長いこと一緒にいる紫苑は、そこはかとなく片桐の笑顔に恐怖を感じた。


「初めまして。紫苑の従姉の片桐早苗です。あなたは紫苑のお友達かしら?」

「初めまして。平岡愛梨です。私は紫苑の幼馴染で、今でも仲良くしてます」


 なんか二人が怖い。彼女たちの間に入っていけない。


「幼馴染? 紫苑からは聞いてないわね」


 ニッコリ


 紫苑にゾクリと悪寒が走る。あの笑顔は「帰ったら詳しく聞かせてもらいます」と言っている。


「これからも紫苑と仲良くしてあげてね」

「もちろんそのつもりです。末長く」


 ピクリと片桐の眉が動く。


「ところで愛梨ちゃん、あなたは随分紫苑と仲がいいみたいね。先日も一緒に買い物に行ったと聞いたわ」

「ええ。幼馴染ですから。紫苑と私は幼稚園の頃からずっと一緒でお出かけも数えきれないくらい行ってます」

「あら、そうだったの……うふふ」

「ええ、そうなんです……あはは」


 なぜか二人の声には見えない敵意が含まれているような気がする。気のせいだろうか。


「そ、それじゃあ三人で見て回ろうか」


 ようやく紫苑が二人の間に入った。



 そして現在に至る。

 二人の紫苑との距離が近い。腕は触れている。

 片桐はニコニコとしており、愛梨はむすぅと少し頬を膨らませている。

 すれ違う人は片桐の美しさや愛梨の可愛らしさも凝視していたが、二人の間にいる紫苑への視線がいちばん多かった。


◆◇◆◇◆


 11時半頃。昼食をとることにした。

 紫苑と片桐は、片桐が持ってきたお弁当を食べる。愛梨は、自分のお弁当を持ってきていた。


 三人はそれぞれ食べ始めたのだが、とうとう愛梨が我慢できなくなったというふうに口を開いた。


「早苗さんと紫苑て仲良いですね。この前も二人でショッピングしてたの見ました」

「そ、そうかな」


 紫苑がぎこちなく応える。


「そうねぇ、普通よりは仲良しかもしれないわね。ね、紫苑?」

「う、うん。そうだね」


 だが、愛梨は何か気に入らなかったのか、先ほどよりも声を荒げる。


「紫苑! 従姉になにデレデレしてんの!」

「してないって!」


 さらに、片桐が火に油を注ぐ。


「あら、いいのよ。私はあなたに甘えて欲しい。私も甘やかせてあげたいわ」


 不覚にも、紫苑はドキリとしてしまった。片桐の普段は見せない妖艶な笑みが紫苑を魅了する。そんな二人を見て、愛梨はますますヒートアップする。


「早苗さん! 何言ってるんですか! 少し二人は距離が近すぎます!」

「いいじゃない、私たちが仲良しでも。愛梨ちゃんには関係ないでしょう?」

「そうですけど、非生産的です! 紫苑も何か言ってよ!」


 そう言われても困るだけだ。だが、紫苑は驚いていた。いつもは控えめな片桐が、いつになく食い下がっている。珍しいと思いつつ、頼むから余計なことは言わないでくれと願うばかりであった。


「まあ、俺と早苗姉さんは仲が良いけど、決して不純な関係ではないよ」

「……本当に?」

「うん」


 まだ納得はしていない様子だったが、喋り疲れたのか「飲み物買ってくる」と言って席を立った。

 すると、早苗姉さんからいつもの片桐に戻る。


「紫苑様、あのような幼馴染がいらしたのですね」

「ああ。言ってなかったな」


 片桐の声には棘がある。


「可愛らしい方ですね。紫苑様に明確な好意があります」

「そう? いつも怒鳴られたり、睨まれたりするけどね。

 それより、少しやりすぎだったんじゃないか?」


 もちろん今までの愛梨との会話のことだ。


「申し訳ありません。ですが、自分を抑えきれませんでした。……怒ってますか?」

「怒ってないよ。ただ、珍しかったからね。それに、敬語を使わない片桐も新鮮だ」

「私はやり辛いのですが」


 二人で笑いあう。やはり親戚のお姉さんより、いつもの片桐の方がいい。


「ところで、紫苑様。帰ったら平岡愛梨さんとの関係を詳細にお聞かせくださいね?」

「あ……はい」


 こういうところもいつも通りだ。



◆◇◆◇◆


 愛梨が飲み物を買いに行ってしばらく経つ。

 遅い。もう戻ってきてもいい頃だ。

 近くの自動販売機までは歩いて1分もかからないし、勝手に一人でウロウロとはしないだろう。


「遅いな。少し見てくるよ」

「でしたら私もご一緒します」

「いや、片桐はご飯食べてて。すぐ戻ってくるから」


 だが、片桐は紫苑の服の袖を掴んで放さない。先ほど男たちに絡まれたのを思い出したようだ。

 紫苑も、また片桐がトラブルに巻き込まれることは避けたかったので結局一緒に行くことにした。



 その頃愛梨はーー


 まさか自分が絡まれるなんて……

 ナンパ男たちに絡まれていた。人数は四人。自動販売機の前で買うものを迷っていたら、声をかけられた。

 どうしてこう変な人たちがいるのだろうと内心毒づきながら男たちを見据える。


 さっきの片桐と状況は同じだった。

 違うのは、人数と絡まれているのが普通の女子高校生だということだ。

 男たちが次第に距離を詰めてくる。

 愛梨は男たちを睨みつけていたが、距離を詰められると恐怖を感じる。

 足が震える。声が出ない。

 そんな愛梨の様子を見た男たちはニンマリと下品な笑みを浮かべ、さらに近づく。


 腕を掴まれた。周りに助けを呼べる人はいない。

 きつくて鼻がもげるような香水。いくつかリングがはめられた指。金髪にピアス。そして、愛梨ではふりほどけない男の力。

 目には涙が浮かぶ。

 助けて! と心の中で叫ぶが声に出せない。

 強い力で引っ張られ、連れて行かれそうになったところで、一番聞きたかった声がした。



〜続く〜


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