第5話
最近忙しいです。
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紫苑が片桐と喧嘩(?)した翌日の朝。紫苑はいつもとは違う部屋で目覚めた。
片桐の部屋だ。
結局、紫苑は片桐のおねだりを断ることができず一緒に寝たのだ。
結論から言うとーー何もなかった。
かと言って、いつも通りとはいかなかったが。
紫苑はなかなか寝付けなかった。
なぜなら、いつの間にか片桐が紫苑を抱き枕にしていたのだ。しかも向かい合って。
二人は抱き合うようにベッドに横になっている。
片桐に「こっち向いてください」と言われたのに対し、断ると無理矢理向かい合わせにさせられた。
しばらく無言で見つめ合ったり目をそらしたりしたが、どのくらい時間が経過しただろうか、片桐は安らかな眠りについた。紫苑を抱き枕にして。
互いの吐息がかかりそうな距離。
紫苑が片桐の抱擁を解こうとしても、ギュッと抱き付いた片桐は離れない。
紫苑はそんな状態では眠れなかった。
仕方なく、片桐を離すことを諦めた。
安らかに眠る片桐は、まさに眠り姫のようでその美しい顔には、まだ少女のような可愛らしさも見えた。
紫苑は愛おしさを感じ、抱きしめる力を少し強くした。
すると、片桐も抱きしめる力を強めたのだろうかーー恍惚となるような温もりと安らぎを感じ、紫苑はやっと眠りについた。
目が覚めたのは5:30。いつもより一時間程度早い。
片桐はすでに起きて、朝食の支度をしているようだ。
紫苑の隣にはまだ温もりが残っている。
紫苑は無意識にその温もりに身を任せ、再び眠りについた。
「紫苑様。おはようございます」
6:30になって片桐が紫苑を起こしに来た。ニッコリと笑う彼女の機嫌はすっかり直ったようだった。
「おはよう片桐」
紫苑も少し睡眠不足だったが、心地の良い目覚めを迎えた。
◆◇◆◇◆
愛梨は現在、大型ショッピングモールに来ている。一人でだ。
明日の日曜日の、紫苑とのデート!(だと愛梨は思っている)の予行練習だ。
本来なら紫苑がエスコートしてくれるし、なんだか最近そのエスコートも上手いのだが、念のため下見をしておく。
映画みたり買い物したりといろいろなプランを考えてショッピングモールの中を歩いていた。
と、そのとき
「あれ? 紫苑?」
紫苑によく似た人物、というか紫苑がいた。
もしかして彼も明日の下見に来たのだろうか。
もしそうなら、紫苑が自分のためにいろいろと考えてくれる。凄く嬉しい。
紫苑もかなり明日を楽しみにしてくれているのではないだろうか。
……そうだといいな……
そんなことを考え、恋する乙女の顔をしていた愛梨だったが……
え? 誰?
紫苑の隣に凄く綺麗な女性がいる。歳は自分と同じくらいか上だろう。
大人びた雰囲気とその美貌は、周りを圧倒していた。
紫苑が自分の知らないどこかの超美人と歩いている。
それだけで胸の奥がズキズキと痛い。
二人はとても仲が良さそうに歩いている。紫苑がその女性に笑顔を向ける。
ーーその瞬間、愛梨は二人に背を向け走っていた。
無我夢中で走る。
出口に着いたところでようやく立ち止まり、自分が涙を流していることに気がついた。
ーーあの女性は誰⁉︎ なんで二人で歩いてるの⁉︎ 恋人いないって言ったのに!
様々な疑問が泉のように湧き出る。
それと同時に、ドス黒い何がモヤモヤと自分の心を染めていく。
それを必死に抑えるのにしばらく時間を要した。
そうだ。きっと親戚の人だ。
愛梨はそう結論付けた。そう思うしかなかったのだ。
また胸がズキズキと痛む。モヤモヤは薄れる気配はない。
紫苑は自分に嘘をつかない。
彼は恋人はいないと言ったのだ。
今はそれを信じるしかない。
愛梨は下見を急遽中断し、家に帰った。
☆
そんなことはつゆ知らず、紫苑は片桐とデート(片桐がデートと言ったから)をしていた。
ウィンドウショッピングをしたり、お茶を楽しんだりしていた。
片桐はそのスタイルと美貌からかなり目立つ。本人は気にしていないようだが、紫苑は知り合いに見られないかとヒヤヒヤしていた。
当初、紫苑はもっと遠くの場所を提供したのだが、片桐がこのショッピングモールがいいと言うので、こちらにしたのだ。
明日の愛梨とのお出かけの下見も兼ねるという意図で、紫苑も渋々承諾した。
片桐とのデートは大成功。というのも、彼女は家に帰ってからも幸せいっぱいの顔だ。
デートということなので、紫苑も奮発してプレゼントなどのサービスもしてあげた。
ちなみにプレゼントしたのは、ペンダント。宇宙をモチーフとしたもので、丸いガラスの中に藍色の宇宙。星々の銀色が上品に施されている。かなり凝ったつくりで、お値段もそれなりにした。
とても喜んでくれた。今日はずっと語尾に♪がつきそうな勢いだ。
明日は愛梨とのお出かけ(だと紫苑は認識している)だ。
片桐とのデートの間にプランも考えた。
成功すればいいのだが。
〜続く〜